今、行くべき焼鳥店100軒がわかる「焼鳥 百名店 2018」が発表
「焼鳥 百名店 2018」が発表されました。
ここ数年で目を見張るほどの充実ぶりと進化を遂げた焼鳥。気軽で美味しくて、老若男女幅広い人たちから好かれているこの料理ジャンルは、国内のグルメだけではなく、海外からも注目を集めています。
そこで、進化が目覚しい東京の焼鳥店を中心に、焼鳥に関する著書もあり、焼鳥を数年にわたってウォッチし続けているジャーナリストの土田美登世さんに、百名店から見る、これからの焼鳥の可能性について解説してもらいました。世界に羽ばたく、日本の食コンテンツになりそうな焼鳥、今後も注目です。
プロフィール:「専門料理」編集部から「料理王国」編集長を経てフリーランスの食記者、編集者に。プロの料理人や生産者の取材を中心に、フードサイエンスから居酒屋、三つ星レストランに至るまで幅広いテーマで取材、執筆をする。著書『やきとりと日本人』(光文社新書)では、歴史から食文化にいたるまで、多角的な視点で「やきとり」を捉えた論考を展開し、世の焼鳥愛好家たちから賞賛を浴びた。現在、博士号を取得すべく大学院でも研究中。
2020年に向かう東京のYAKITORI
「鮨」と「焼鳥」は似ている……『やきとりと日本人』(光文社新書刊)を書いたきっかけはこんな感想を持ったからでした。焼鳥の百名店のリストをじっくり拝見しながらそれぞれの店の魅力を見直していると、やっぱり似ているなー、と改めて思っています。なぜそう思うのか? その点を整理すると、鮨がSUSHIとしてグローバル化したように、焼鳥はYAKITORIとして世界へ、それこそ“羽ばたく”理由も見えてくるような気がします。
そこで、百名店にも数多くオンリストし、2020年の五輪開催を控えた首都・東京に注目して、焼鳥の可能性について考えてみたいと思います。
横丁の庶民派から高級店まで
今でこそ超高級店の印象が強い鮨ですが、もともとは江戸の庶民がフラリと立ち寄れる屋台スタイルが最初だったといわれています。焼鳥は鮨よりも新しいですが、やはり歴史的にいえばスタートは屋台といっていいでしょう。それが時を経るにつれて主たちの志向が結集し、今では接待やデートなどにも使われるよそゆきの焼鳥店も増えてきました。「鳥よし」や「バードランド」はその走りですし、「鳥よし」の弟子たちの「鳥しき」、さらにその弟子の「鳥かど」「鳥さわ」「おみ乃」、「バードランド」の弟子の「阿佐ヶ谷 バードランド」「バードコート」も当然、その流れを組んでいます。鮨店に「どこどこ出身」という系統図があるように、百名店リストを眺めていると焼鳥店でもこうした系統図が見えてきます。さすがSNS時代。食べ手も今はそうした情報をとてもよく知っているなと思います。
一方で「庶民の味」「みんなの味」を堂々と守りぬく大衆的な店、チェーン店も数多く存在するのが、鮨店、焼鳥店の懐が深いところです。「伊勢廣」は大正時代からの流れを組んだいい雰囲気の店ですし、「渋谷 森本」や「文ちゃん」といった野鳥なども焼いているような老舗で日本的な情緒が漂う焼鳥屋は変わらぬ人気です。さらに立ち飲み系のオヤジ感満載のスタイルも消えることはなく、ちゃんと残っています。ガード下のなんとか横丁にあるような赤ちょうちん一杯飲み屋的な焼鳥も連日大賑わい。そうした店は外国人客にも「クール・ジャパン」として人気となっています。
個性あるカウンターの魔力
「生」と「火入れ」という両極端の違いはありますが、鮨も焼鳥もどちらもカウンターが華です。カウンターの向こうには握り手、焼き手が立ち、一手一技によって店の味が決まります。握りが静ならば焼きは動。炭の上でパチパチと音を出し、香ばしい香りを放ちながら焼き上げられる焼鳥は見ているだけで楽しい。焼き手は客を見て、客は焼き手を見ながら独特のリズムが生まれ、食が進んでいきます。店の核となる場所ですから、主たちはカウンターを大切にします。だからこそカウンターに個性が見えます。鮨店が檜のカウンターを頑なに求めるように、焼鳥店でも白木であることを追求する店は増えています。また「焼鳥今井」のカウンターは30席もあろうかというカウンター席が一気に並んだ迫力が印象的ですし、老舗「渋谷 森本」のカウンターも、ちょっといびつな空間を上手に使ったカウンターの形がユニークです。「鳥はな」のように鮨店のタネケースのようなガラスケースもいい味を出しています。
カウンターは客同士の距離感も近いことが魅力で、ひとりでフラリと立ち寄ってもなんの違和感もありません。これは日本独特の文化で、外食は2人以上がテーブルに座ってするものだと思っていた欧米の方々には衝撃だったようです。「なんだかわからないけどカウンターに座ったらおもしろい」。焼鳥店のカウンターは国境を越えた魔力を放つと思っています。
“怖くない”お任せコース
頼む側にしてみればお任せコースは楽です。苦手なものを最初に伝えれば、自分で考えなくても、店主のおすすめが次々に出てきます。何も言わずとも目の前の皿の上にすっと置かれますから、会話が途切れることもありません。
外国の人にとっても「OMAKASE」といえば、日本語ができなくても、なんとかひと通りのその店の味を楽しむことができます。ひと昔前までは鮨も焼鳥も自分の好みを伝えて食べていたものですが、最近の人気店はコースのほうが主流。名店リストもお任せを用意しているところがほとんどです。たいていササミ系といったあっさりした串からスタートして、脂が多くタレがかかった串が後半に出てきますが、食べてもらいたいものから出すという店も。コースで店の個性が味わえるのも楽しみのひとつです。
どんどん充実するワインと日本酒
日本人にとって焼鳥はやはり酒のつまみの王者。想いのある焼鳥には想いのある酒がごく自然に寄り添っていきます。百名店リストも酒を追究した店は多い。ここ十年くらいで格段に増えたのはワインです。「鳥善 瀬尾」などワインと焼鳥とのマリアージュなどを意識したワインの品揃えを打ち出す店も多く、リストにはもう当たり前のように置かれています。ワインは海外からの客が増えた一因のようにも思います。
日本酒はもともと置かれていましたが、「酉玉」のように希少部位とともにレアで厳選された日本酒を揃える店がここ数年で一気に増えました。それに呼応するように、海外のSAKEブームにのって最近では焼鳥店でワインよりも日本酒を飲みたい外国人観光客も多く目にします。珍しい日本酒を飲みたければ焼鳥店へ、という流れはもう一般化してきました。日本酒の品揃えはこれからますます充実していくでしょう。そしてさらに言えば、焼鳥店では「遊」や「おがわ」のように厳選したワインも日本酒も両方とも、と、欲張りな楽しみ方もできるようになりました。
2020年に向けて多くの海外の人たちがまだまだ日本にやってくるでしょう。串を肉に刺して焼く料理は世界各地にあって、海外の人にもなじみがあるし、鶏肉は宗教的なしがらみもほとんどありません。カロリーも低くてヘルシーとされる焼鳥が世界中で食べられる時代はもう来ています。彼らの動向でYAKITORIがまたさらなる進化を遂げるかも知れません。2020年以降の百名店リストが今から楽しみです。