うなぎを120%おいしく食べるために知っておきたい、3つのキーワード

うなぎ好きから熱い支持を集めるベスト100店、「食べログ うなぎ 百名店 2018」を発表。そこで、知っておくと、名店のうなぎがもっとおいしく味わえる昨今の事情を、全国津津浦浦の名店を訪ね歩いてきた高城久さんが、3つのキーワードにわけて解説。第2回は、「割きたて」のうなぎのおいしさについて。うなぎ好きなら至福のひとときをすごせること、間違いなし。

 

第1回「養殖ブランドうなぎに首ったけ」はこちら>

割きたてうなぎの串焼きを手に、満面の笑みがこぼれる高城久さん。「うなぎ屋酒坊・画荘 越後屋」にて

 

PROFILE
高城久

〈うなぎ大好き・どっとこむ〉主宰。うなぎの名産地であり、うなぎ屋が軒を連ねる千葉県佐倉市で幼少期を過ごす。外出となれば、決まってうなぎ屋の暖簾をくぐっていたが、今世紀に入り、1軒、また1軒とそうした店が姿を消していく現状に一念発起。うなぎ屋さん応援サイトを立ち上げる。電話帳と足を頼りに、全国のうなぎ屋を訪ねはじめてン十年。いまでは職人からの信頼も厚い。己書道場の師範でもあり、うなぎ店で、高城作のうなぎ愛溢れる己書に出会うこともしばしば。

KEYWORD 2 うなぎは割きたてに限る!

その昔、気の短い江戸っ子をして、“急かすのは野暮”と言わしめたのが、うなぎ。おいしい蒲焼を食べたかったら、捌くところから焼きあがるまで、香の物をつまみながらじっと待つのが、江戸っ子の流儀だったという。うなぎ屋の香の物はうまいといわれたゆえんである。それは、昔も今も変わらない。では、なぜ、どうして、割きたてがおいしいのか。店主が鮮やかな包丁使いで活けのうなぎを捌いて、焼いてくれる、埼玉・小手指にある「うなぎ屋酒坊・画荘 越後屋」を舞台に、高城さんに割きたてうなぎの醍醐味を聞いた。

割きたてのうなぎには、職人の技術と愛がほとばしる

割きたてとは、どういうことか?

高城久(以下、高城)「私が“割きたて”と称するのは、注文すると、活けのうなぎを捌くところから作ってくれること。関東風の蒲焼を作る場合、まずうなぎを捌いて白焼きし、それを蒸してから、タレをつけて本焼きします。よく見かけるのは、白焼きまで準備しておいて、注文が入ってから蒸して、本焼きをする店。蒸す工程までやっておく店もあれば、最近では、捌いたうなぎを、あえて2週間ぐらいおいて、熟成させる店も出てきました。それはそれでまた別のおいしさがありますし、割きおきだからおいしくないというわけでは決してありません。ただ、うなぎの醍醐味がいちばん味わえるのは、やっぱり割きたてだと、私は思います」

割きたてうなぎがおいしい理由

高城「うなぎを焼く技術というのは、水分をいかにとばしながら、火を入れていくかだと思っています。他の魚に比べて皮が厚いですから、火の入れ方がとても難しいのです。火を入れ過ぎると焦がし過ぎて炭化してしまいます。しかし、焼きがあまいと旨味が逃げてしまいます。そこを怖がらずにしっかり焼かれたうなぎこそ、おいしいというのが、僕の考え方。特に、上手に火が入った、皮と身の間のゼラチン質の部分は最高です。捌きたてというのは、いちばん水分を含んでいるので、それだけ焼くのが難しい。職人さんの技術が問われるところなんですね。だから、注文してから捌いてくれて、しかも、上手に焼いてくれる店は、自然とおすすめしたくなるんです」

食べる前から気分がアガる臨場感

高城「カウンターがある店ですと、店主が“今日は〇〇の天然が入ってます”“養殖のいいのが入りました”と、桶から活けのうなぎを取り出して、一生懸命説明してくれる。もう、それだけで、店主の心意気が感じられて、うれしいじゃないですか。それを目の前で、“今日の天然ものは良さそうですよ”なんて言いながら、捌いてくれるから、食べるこちらも意気に感じて、“じゃあ、かぶと(頭)の串焼きももらおうかな”という気分になる。割きたてが食べられる店というのは、カウンターをはさんで、作る側と食べる側の“うなぎ愛”が共有できる空間なんですね」

捌きたてを前に、真剣なうなぎトークが繰り広げられるカウンター。

「きちんと焼いたうなぎは、皮と身の間のゼラチン質の部分がいちばんおいしい」と、高城さん

百名店に見る、割きたて鰻の魅力

見目麗しい仕事ぶりに老舗の矜持がのぞく「尾花」

出典:YamaNe79さん

 

東京・南千住にあるうなぎの老舗。カウンターではなく、厨房をのぞむ大広間の座卓で楽しむスタイルながら、その厨房では、きびきびと働く職人たちが注文を受けてからうなぎを捌き、蒲焼を作っている。串打ちから本焼きまで、ていねいな仕事ぶりに老舗の矜持がのぞくと評判だ。

 

高城「焦げ目がひとつもついていない〈う巻〉も、焼き色が均一についた〈蒲焼〉も、ほんとうに見目麗しい。蒸してから本焼きする、江戸前らしい“ふわとろ”な焼き上がりですが、箸でつかんでも身が崩れない、焼きの技術も素晴らしい。〈鯉こく〉や〈鯉あらい〉など、鯉料理も鰻と並ぶ名物です」

出典:bottanさん

店主夫妻と客が織りなす鰻ワールドが楽しい「かぶと」

出典:代々木乃助ククルさん

 

東京・新宿の名店「カブト」からの、唯一の暖簾分け店。先代が引退をし、現在はその下で仕事をしていた若き店主夫妻が切り盛りしている。注文が入ってから捌くのはもちろん、カウンターに座れば、割く様子から本焼きまで、できあがっていくすべての工程が目の前で繰り広げられるのが、ここの醍醐味だ。かぶとやえり、ひれなど、それぞれの部位の串焼きがあるのも、捌きたての店ならでは。

 

高城「この店には良い常連さんがついていて、私も先代のころ、隣り合わせた常連客と鰻談義に花を咲かせることができました。そうした客と店主夫妻がカウンターをはさんで織りなす鰻ワールドが魅力の店です」

 

出典:代々木乃助ククルさん

割きたてのうなぎの蒲焼が、丼から溢れ出る「田代」

出典:焼肉姉妹さん

 

うなぎの名店ひしめく愛知県で、ひと際高い人気を誇るのが、ここ。瀬戸市にある昔ながらの商店街の一角に建つ庶民的な佇まいの老舗だ。メニューはほぼ鰻丼で、ごはんにのる蒲焼は、関西風の地焼き。食欲をそそる香りが満ち満ちた店内で、店主が手際よくうなぎを捌いて串を打つ様子を眺めつつ待っていると、丼が到着してまた顔がほころぶ。並盛りで鰻1匹分、上盛りなら1匹と半分! ごはんが見えないどころか、収まり切れずに丼からあふれた蒲焼は、うなぎ好きの心をつかんで離さない。この気っ風の良さも人気のゆえんだ。

 

高城「こちらは、店頭から割いて焼く様子が見られて、待っている間も楽しいんです」

出典:tomon0525さん

ロックな店主の熱いうなぎライブを「越後屋」で

ミュージシャンを志していたという店主の島崎剛さん。ポンポンと飛び出すうなぎトークも、エッジが効いていて、小気味いい

 

ギターが並ぶカウンターの中、桶から活けのうなぎを威勢よく取り出し、リズミカルに捌いていくのは、店主の島崎剛さん。島崎さんが、祖母の店であるここの門を叩いたのは、20年ほど前のこと。その後、和食店などで研鑽を積んで一本立ち。いまでは、名店を知り尽くす高城久さんも太鼓判を押すまでに。その腕前は、うなぎのさまざまな部位を焼いた串焼きでよくわかるという。

 

高城「うなぎのかぶと(頭)は、真っ黒になるぐらいまで焼かないと、おいしくないんです。(蒲焼を蒸さずに焼く関西風の)地焼きを究めた島崎さんのような人ならではの技です。その仕事を目の前で眺めながら、いただけるなんて、こんな贅沢な店はなかなかないですよ。関東風と関西風の蒲焼が食べ比べできるうな重などもあるので、初めての方でも十分に楽しめます」

 

左が宮崎県産の天然、右が養殖のうなぎ。2kgはあるという天然だが、立派だからおいしいとは限らないのが、天然うなぎの難しいところ。でも、この天然ものは大正解でした。

 

焼き場は、背後の厨房内にあるので、焼くところは目にすることができないが、捌いて串を打つところまでは目の前で楽しむことができる。右手で持っているのが天然で、左手で持っているのが養殖もの。腹の色の違いで一目瞭然だ。

 

うなぎ会席の料理の一例。天然うなぎのかぶと焼き。ここまでしっかり焼いてこそ、おいしいと高城さん絶賛!

 

おまかせのうなぎ会席(うなぎによって9,000円~。天然の場合は15,000円~)から、料理の一例。ピリッと効いた山椒が食欲をそそる骨せんべいは、手が止まらなくなる。奥はうなぎの煮こごり。

 

うなぎ会席の料理の一例。鰻の皮をはいで塩焼きにした“白ばら”入りのおまかせサラダ。

 

関西風の地焼きで仕上げた天然うなぎの蒲焼き(時価)。厚みのたっぷりある身は、脂っぽさがなく、うまみがしっかりある。たれは祖母の代からのものを使っているそう。

 

関西風の地焼きと、関東風の蒸して焼く蒲焼が、ひとつのお重に。おいしさの違いが、本当によくわかる。

 

家族のように、店のスタッフとなごんでいる高城さん。名店ながら、肩の凝らない空間もここならでは。

 

小手先駅から5、6分の静かな一画に。暖簾をくぐれば、店内には、島崎さんのお母様が描いたという絵が飾られている。

 

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次回へ続く

 

 

撮影:山田英博
取材・文:齋藤優子
撮影協力:越後屋