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お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない!と言っても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生による人気連載が、「猫井登のスイーツ探訪」としてこの度リニューアルしました。現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについての歴史も学べてしまう、一度で二度美味しい新連載の第一回テーマは、今こそ食べたい、かき氷編です!
【猫井登のスイーツ探訪1】枕草子にも登場する古くからの愛されスイーツ〜かき氷編〜
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ ニューヨークラウンジの「大人のパフェ グラニータ」シリーズ
編集(以下、編):毎日、暑くて、暑くて……。昨日も取材の帰りにかき氷を食べちゃいました。
猫井(以下、猫):かき氷、今の季節にピッタリですね! ちょうど本日、7月25日は、「かき氷の日」だって、ご存じでしたか?
編:以前、「パフェの日」は教えていただきましたが、かき氷の日もあるんですね!?
猫:かき氷は別名「夏氷」とも呼ばれ、「な(7)つ(2)ご(5)おり」の語呂合わせですね。1933年の7月25日、山形市で当時の日本最高気温である40.8℃を記録した日だからという話もありますが……。
編:「夏氷」って、なんか趣のある言葉で素敵ですね。かき氷って、昔からあるんですか?
猫:製氷技術がなかった時代も、冬には雪が降ったわけで、「氷菓」は紀元前からありましたね。アレキサンダー大王(B.C.356〜B.C.323)が山から雪を運ばせ、戦場の兵士に冷たい飲み物を与えたなんて話もありますし。
編:日本ではどうですか?
猫:よく引き合いに出されるのが、平安時代中期、清少納言の『枕草子』ですね。次のような文章があります。
「あてなるもの……削り氷にあまづら入れて、新しき金まりに入れたる」
現代風に翻訳すると、
「オシャレなもの……細かく削った氷に甘いシロップをかけて、新しい金属製のボウルに入れたもの」
枕草子は、西暦1000年頃の作品といわれていますから、その頃には既に日本では、かき氷が食べられていたことになりますね。
編:かき氷が今のように人気となったのは、いつ頃からでしょうか?
猫:実は、現在のかき氷ブームは、「第三次ブーム」だといわれています。第一次ブームは、昭和の初期から中期。いわゆる「おしるこ屋さん」などの甘味処がかき氷を出した時期。第二次ブームは、昭和50年代。「たい焼き屋さん」やお祭りの屋台が「かき氷」を扱うようになった時期。そして、現在が第三次ブームというわけです。
編:現在の第三次ブームは、いつくらいから始まったのでしょうか?
猫:う〜ん。難しい質問ですね……。現在ブームとなっているかき氷が従来と決定的に異なるのは、食感なんです。従来のかき氷が「シャリシャリ」した食感だったのに対して、今ブームとなっているかき氷は「ふわふわ」した食感なんです。
ふわふわ食感のかき氷の販売を始めたのは、埼玉県秩父郡の「阿左美冷蔵」、栃木県日光市の「松月氷室」といった天然氷の蔵元です。これが1990年代ですから、今のブームは、そこから始まったといえるかもしれません。
編:素朴な疑問なんですが、どうして天然氷だと「ふわふわ」のかき氷になるんでしょうか?
猫:いい質問ですねえ!!
編:(池上彰先生感……!)
猫:天然氷というのは、ゆっくりと凍りますから、その過程で、不純物が排出されて分子同士がキッチリと結びついた、隙間のない、非常に硬い氷が出来上がります。このようにしっかりと固まった氷は非常に薄く削ることができます。薄く削られた氷のあいだに空気が入りエアリーな、ふわふわした食感が生まれます。
これに対して、冷凍庫で急速に冷凍した場合は、例えば水道水だとカルキなどの不純物が排出されずに固まってしまいます。不純物による隙間がある氷は砕けやすく、薄く削ることができません。粗削りになり、結果シャリシャリした食感になります。
編:なるほど〜。納得です!
猫:最近のかき氷が従来のものと異なる点の二つ目の特徴は、かき氷にかけられているシロップがオリジナルであるということです。2000年代になると、熊谷の「慈げん」、鵠沼海岸の「埜庵」などが手作りのシロップのかき氷を出して、新たな可能性を提示しました。
かき氷が、マスコミで大きく取り上げられるようになったのは、2007年東京・谷中に「ひみつ堂」が登場したことが大きいでしょう。こちらのお店では日光の天然氷と自家製手作り蜜(氷蜜=ひみつ)で作ったかき氷を提供しています。
編:やはりブームになるには、お店の場所も重要な要素なんですね。
猫:まあ、みんなが行けないと、なかなかブームにはなりにくいですからね。最近のかき氷が従来のものと異なる点の三つ目の特徴は、いわゆる頭痛が起きにくいといわれていることですね。
編:冷たいモノを一気に食べると頭がキーンと痛くなる、アレですね。
猫:そう。アレです(笑)。俗に「アイスクリーム頭痛」と呼ばれていますね。天然氷のかき氷の場合、薄く削られていて口の中でサッと溶けるので、従来のものに比べて口の中が冷たくなりにくく、頭痛が起きにくいといわれています。ま、個人差があるので断言はできませんが。
編:やっと2007年まで話が来ましたが(笑)。
猫:2015年には、台湾の人気かき氷店「ICE MONSTER」が上陸します。こちらのかき氷は、日本のものとは異なり、氷にシロップをかけるのではなく、あらかじめ味をつけた氷を削っているのが特徴です。例えば、マンゴーのかき氷は、マンゴーの味の氷の中にマンゴーアイスと実際のマンゴーの果肉を入れたものを削っています。実際のマンゴーも入っている、リッチな味わいで人気になりました。
2016年には、韓国の「ソルビン」が上陸。口に入れた瞬間にサッと溶けてしまう粉雪のようなミルクかき氷で、韓国でブームを巻き起こしたお店です。
編:「従来型のかき氷」と「現代型(天然氷+オリジナルシロップ)のかき氷」に「海外勢のかき氷」も加わり、まさに、三つ巴の戦いになっているわけですね! そのような状況下で、先生がどのような「かき氷」を紹介されるのか興味あるところです!
猫:今回は、現在のムーブメントも踏まえつつ、「オシャレ系かき氷」と題して、有名ホテルやレストランの「かき氷」をご紹介したいと思います。
〈ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ ニューヨークラウンジ〉世界トップクラスのパティシエが作る進化系かき氷「大人のパフェ グラニータ」
「グラニータ」とは、シチリア発祥の氷菓のことで、フランスでは「グラニテ」と呼ばれます。フランス料理ではコースの途中、メインの前にお口直しとしてよく登場する氷菓です。レモンなどの爽やかな風味の素材をベースに作られ、みずみずしく、シャリシャリとした食感で口の中をさっぱりとさせてくれて、次の料理を美味しくしてくれる名脇役です。このように普段は、脇役であるグラニテをオシャレな大人のデザートへと進化させたのが「大人のパフェ グラニータ」シリーズです。
こちらを手掛けたのは、エグゼクティブ シェフ パティシエの德永純司氏。德永シェフは、パティシエの国際大会とも言われる「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2015」で準優勝に輝いた実力派。長年培ったコース料理のデザート作りの経験を活かし、今回のシリーズを完成されました。
今回いただいたのは、「グレープフルーツライチ」と「グリーンティー」の二種類。
「グリーンティー」(写真左)と、「グレープフルーツライチ」(写真右)
「グレープフルーツライチ」1,800円(税抜)は、グレープフルーツの果汁とリキュールのグラニテに、ライチのシャーベット、ヨーグルトとレモンのクリームにピンクグレープフルーツやシャインマスカットの果肉を添えた、爽やかさ溢れるフルーティーなかき氷。
上から見た「グレープフルーツライチ」
グレープフルーツのコンフィ、レモングラス、メレンゲの華やかなデコレーションで仕上げられています。
上層には美しいデコレーション
下層ではグラニテ、シャーベット、クリームが混ざり合う
グレープフルーツが香り立つグラニテの「ほろ苦さ」、シャーベットの爽やかでフルーティーな「甘さ」、ヨーグルトクリームの優しい「酸味」が見事に調和し、極上の味わいを作り出しています。
「グリーンティー」
「グリーンティー」1,800円(税抜)は、たっぷりの抹茶とリキュールでつくったグラニテに、アングレーズ(カスタード)、生クリームに抹茶を加えて作られた、まったりとした味わいの抹茶のアイスクリーム、軽めの抹茶のシャンティークリーム、粒あん、白玉をトッピング。
上層には注目の抹茶のチュイルが
あんこが味のアクセントに
クリームの上にある鳥の巣状のものは、なんと抹茶のチュイル! 細く焼いたものを柔らかいうちに、このようなかたちにするのだとか。抹茶の味わいや香りを存分に楽しめる和の作品に仕上げられています。
これらのほかにも、コーヒーリキュールで香りづけをしたグラニテに、ショコラクリームにチョコレートソースを掛け、バニラアイスをトッピングした「カフェ」1,700円(税抜)や、シャンパンとピーチのグラニテをあわせ、ヨーグルトピーチのクリームにフルーツを添えた「ピーチシャンパン」2,000円(税抜)などが用意されています。
「ピーチシャンパン」
「カフェ」
いずれの作品も、グラニテの氷の粒子を大小異なる大きさに砕き、食感の違いを楽しめるように、また凝固温度が水よりも低いリキュールを使うことで、みずみずしく口溶けが良くなるようにと、緻密な計算がなされています。是非、主役のグラニテとトッピングを交互に味わってみてください。
徳永シェフによれば、グラニータシリーズは、いずれもビスケットなどの生地系をほとんど使っていないので、食欲がないときでも“飲む”デザートとして楽しんでほしいとのことでした。
〈ホテルニューオータニ KATO’S DINING & BAR〉日光天然氷とホテルパティシエによる厳選素材シロップを使用した「サツキ江戸かき氷」
「サツキ江戸かき氷」
「サツキ江戸かき氷」は、日光の天然氷とパティスリーSATSUKIのグランシェフ中島眞介氏の手による厳選素材のオリジナルシロップを使用した究極のかき氷。日光の職人が丹精込めて作り上げた天然氷を極薄に削って作られる、綿菓子のようにふわっとした食感のかき氷と素材の持ち味を存分に引き出した特製ソースのコラボレーション。てっぺんにはマカロンが飾られ、フランス菓子のような仕上がりとなっています。バリエーションは和三盆 、抹茶 、いちご 、マンゴー 、メロンの五つ。
「和三盆」
オススメは「和三盆」1,800円(税・サ別)。見た目は一般的なかき氷ですが、隠し味に使われた「藻塩」が和三盆の甘さを引き立てる上品な味わい。食べ進むと、氷の中には、白玉、羊羹ゼリー、黒蜜あんこなど、和の素材がたっぷり! 和スイーツのワンダーランドです!
〈ル・ショコラ・アラン・デュカス〉ショコラを他素材と組み合わせた異次元の「Kakigori」
なんと、ル・ショコラ・アラン・デュカスより、二種類の「かき氷」が登場しています。
フランスでも数年前から南仏で見られるようになった「Kakigori」。ル・ショコラ・アラン・デュカスのエグゼクティブ シェフ・ショコラティエのジュリアン・キンツラー氏も、来日後、日本のかき氷を研究、フランスのグラニテをベースにチョレートとかき氷を合わせたデセールを考案されました。
「Kakigori 抹茶&ショコラ」
「Kakigori 抹茶&ショコラ」1,700円(税抜)は、東京工房限定。抹茶のグラニテの下には、ショコラのソルベ、レモンのマーマレード、砂糖をからめたカカオニブ、抹茶のクリームが層をなしています。抹茶のソースをかけると、濃厚な抹茶の味わい、冷たくクリーミーな口どけ、カリカリとしたカカオニブの食感、さわやかなレモンの酸味が絶妙で、まさに異次元のかき氷。
「Kakigori カフェ&ショコラ」
「Kakigori カフェ&ショコラ」1,600円(税抜)は、六本木店限定。カフェのグラニテの下にはショコラのソルベ、オレンジのマーマレード、砂糖をからめたカカオニブ、カフェのクリームが層をなしています。カフェソースをかけると、カフェの苦味とショコラのすっきりとした甘味、カカオニブのカリカリ感と、甘酸っぱいマーマレードの組み合わせが斬新。高級レストランのデザートに匹敵する味わいです。
また、現在両店舗では、テイクアウト用かき氷「
取材・文:猫井登
撮影:大谷次郎