【パフェの日緊急企画3〈急〉篇】お菓子の歴史研究家が愛してやまないパフェの名店

スイーツ連載でも度々紹介するなど、パフェに魅了されるお菓子の歴史研究家・猫井登氏によるパフェの日緊急企画シリーズも今回が最終回! 誕生の歴史から日本への上陸まで、パフェの知識をみっちりとお伝えした「第1弾〈序〉篇」、その特質を掘り下げることで人々がパフェに魅了される理由を分析した「第2弾〈破〉篇」に続く第3弾は、猫井先生が「パフェの日に食べたい完璧なパフェといえばこのお店!」と絶賛するPÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI(パティスリー アサコ イワヤナギ)のパフェについて解説していただきます。

 

猫井先生、第3弾もよろしくお願いいたします!

 

パフェの特質を十分に活かし、口の肥えた食べ手の期待を上回るパフェを作るのは容易なことではない。今日は、この難題に挑戦し、絶大な支持を集めている名店を紹介したい。

 

『PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI』は、2015年、世田谷区等々力に岩柳麻子氏がオープンした店である。岩柳氏は、異色の経歴の持ち主だ。元々デザインの研究所で染織を学ばれ、染織家として展示会などを開かれていた。その展示会でお客様に出した手作りのお菓子が評判となり、お菓子作りの道へ。独学でお菓子作りを学ばれる。

 

2005年、『pâtisserie de bon coeur (パティスリィ ドゥ・ボン・クーフゥ)』をオープンし、10年を経て、現在のお店をオープンされた。しかし、当初からパフェを作られていたわけではない。ご主人のご実家が果樹園で、そちらのフルーツ(さくらんぼ、桃、すもも、ぶどうなど)を使ったジェラートを作ったのがきっかけとなり、ある雑誌の企画で作ったパフェ「パルフェビジュー(宝石のパフェ)」が始まりだという。

 

出典:白雪姫さん

 

「様々な果物のテクスチャーを一つのグラスに表現することで果物の可能性を楽しんでいただきたいです」と岩柳シェフ。新しいパフェの創作に関しては、「新しい食材や素材に出会った時(最近では日本茶、日本酒、山椒等)、新しい可能性などを感じた時、新しく考えた素材同士の組み合わせがドンピシャと決まった時に喜びを感じます」とも。

 

また、他のスイーツと比べてパフェの強みを、「みずみずしさやライブ感を楽しめる点です」と語るシェフは、パフェを食べる際に仕様するカトラリーにも重要性を感じられており、「既製のものでなかなかいいものが見つからず苦労しています。シルバーでオリジナルのものを作ることを模索しているところで、スプーンに関しては少しずつ食べられるように小さめのものが良いと考えております」との考えも述べている。

 

PATISSERIE ASAKO IWAYANAGIの内観/出典:wajorinさん

 

現在はフルーツの旬に合わせて、2種類のパフェが用意されている。岩柳氏が創造されるパフェは、多くの素材を組み合わせ、ストーリー性豊かに、さまざまな味わいや食感を楽しませてくれて、食べ終わったあとに、大河小説を読んだような満足感と充実感を与えてくれる。

 

ズバリ、岩柳シェフにとってパフェはどういった存在か尋ねたところ、「リズムです」という答えを教えていただいた。

お菓子の歴史研究家、パフェを堪能する

6月23日(土)、開店20分前に到着したにもかかわらず、すでにたくさんのファンが! 店頭の用紙に氏名を記入し、順番は9組目。開店前に20組以上、40名以上が開店を待ちわびる。

 

なんとか1巡目で入店しパフェを注文。「パルフェ トロピカル ライチとパイナップルのパルフェ〜パッションフルーツとココナッツミルクのジェラートとともに〜」と、「パルフェビジュー スリーズ 〜ピスタチオジェラートとともに〜」を味わうことに。

「パルフェ トロピカル ライチとパイナップルのパルフェ〜パッションフルーツとココナッツミルクのジェラートとともに〜」

 

やや大ぶりの縦長の脚付きグラスに、シックな大人の雰囲気にまとめられたパルフェ。トロピカルなイメージを象徴するように、細長いココナッツメレンゲと縦長にカットされたパイナップルがココナッツミルクとパッションフルーツの2種類のジェラートの上にスッと直立している。縦長に構成されたパルフェを味わいやすいように、長めのスプーンとフォークが添えられ、グラスの下にはフルーツの皮が置けるようにソーサーが敷かれている。

 

まずは、パイナップルから。ジューシーで柔らかく、酸味、甘みのバランスのよい味わい。次いでココナッツメレンゲ。ココナッツファインをたっぷりとまぶし、しっかりと焼き込まれている。表面はカリッと、中はネチッとした食感。パイナップルと交互に味わうと、いやおうなしに南国気分が盛り上がっていく。ここで、赤い果皮に包まれたライチの実を味わう。瑞々しくあっさりとした甘み。トッピングの部分は、全体的に穏やかな味わいで、ゆったりとした気分にさせてくれる。

 

 

いよいよ、ジェラートへ! 爽やかな酸味のパッションフルーツのジェラートとミルキーな味わいのココナッツミルクのジェラートを交互に楽しむ。穏やかさを保ちながらも、味わいのトーンがトッピングの部分に比べ、やや増してきているのが感じられる。ジェラートの下には、再びココナッツメレンゲが。トッピングされていたのと同じものと思いきや、こちらは塩味が利かせてあり、舌の味蕾を再び覚醒させてくれる。味覚が鋭敏になったところで、やや白っぽい色調のピーチパインに遭遇。柔らかな果肉で瑞々しい甘さが口に広がり、異なるパイナップルの魅力を教えてくれる。その下には、優しいとろみをもつトロピカルフルーツの葛ジュレが。マンゴーの味わいが甘みのレベルを上げていく。

 

うま味のあるまったりとした味わいが口の中を支配し、充分にトロピカルな甘みを堪能したところで、ジャスミンの香りをまとった優しい味わいのミルクプリンが登場。甘さを和らげてくれる。さらに、瑞々しくさっぱりとした甘さのライチのコンポートとライムのジュレが口の中を爽やかにしてくれる。そして最後は、ジャスミンソースの香りが、余韻を残しつつ、トロピカルな味わいの旅の終わりを告げてくれるのである。アジアの南国でバカンスを過ごしたような気分を満喫できた珠玉のパルフェであった。

 

※こちらは、国産ライチの生産量が少なく数量確保が困難なため、2018年6月28日(木)にて提供終了。

「パルフェビジュー スリーズ 〜ピスタチオジェラートとともに〜」

 

大ぶりなグラスの上部には紅秀峰と佐藤錦という2種のサクランボがたっぷりと並べられ、その上にサクランボの赤とのコントラストが美しい緑のピスタチオのジェラートがこんもりと盛られている。旬のフルーツとジェラートを同時に楽しみたい、パルフェ好きにはたまらないビジュアルである。パルフェに添えられた、サクランボの種出し用の小さなカップにシェフの心遣いが感じられる。

 

早速、実食! トップにちょこんとのった、大ぶりの紅秀峰の甘味がこれから始まるサクランボのパルフェへの期待を抱かせ、食欲を増進させてくれる。次に、ピスタチオのジェラート。味は濃いが、後口はさっぱり。いよいよ、たっぷりと入れられたサクランボの層に到達。甘みと酸味のバランスの良い佐藤錦としっかりとした食感で甘みの強い紅秀峰を存分に味わい尽くす。

 

その下にはザクッとした食感の砕かれたサブレとベリーを織り込んだサクサクした食感のパイが散りばめてあり、アイスクリームに添えられたウエハースのごとく、ジェラートで冷えた舌を元の体温に戻し、異なる食感で舌の感覚をリセットしてくれる。

 

出典:ai_mahaloさん

 

さあ、いよいよ真っ赤なグリオットの葛ジュレが見えてきた。その上には赤スグリの実が散りばめてあり、甘く柔らかなジュレにプチプチと弾ける赤スグリの酸味がうまく調和している。次に顔を出すのは、優しい酸味の蜂蜜ヨーグルト。縁にはがピスタチオがアクセントで飾られていて、食感のコントラストを生み出す。その下に待っていたのがバルサミコでマリネされたサクランボ。これがなんとも美味! しっかりとマリネされているが、サクランボ本来の食感を残しつつ、淡白なサクランボの味わいに旨味を補いながらもしつこくない。

 

その下からは、酸味の強いレモンのジュレが見え隠れし、徐々に口の中をさっぱりとさせてくれる。フィニッシュにグリオットとイチゴのコンフィチュール。さっぱりとしたグリオットの甘味を補うように苺の甘さが寄り添い、これもまたバランスのいい甘さに仕上がっていた。

 

上層部で、まず、2種類の「フレッシュな」サクランボとピスタチオのジェラートを味わせたあと、一度、サブレやパイで味覚をリセットし、今度は、「ひと手間かけた」サクランボのジュレやマリネにほかの素材も合わせて、サクランボの違った味わいを堪能させる2段階構成。

 

いやー、素晴らしいパルフェでした!

 

※こちらは、2018年7月上旬〜中旬までの提供予定。

取材・文:猫井登