【パフェの日緊急企画第2弾〈破〉篇】パフェの独自性こそが作り手&食べ手の双方を魅了する?

スイーツ連載でも度々紹介するなど、パフェを愛してやまないお菓子の歴史研究家・猫井登氏によるパフェの日緊急企画シリーズ第2弾。誕生の歴史から日本への上陸まで、パフェの知識をみっちりとお伝えした「パフェの日緊急企画第1弾〈序〉篇」に続く今回は、様式の違いを持つ世界のパフェを通して分析するパフェの独自性と、そこから見えてくる作り手・食べ手の双方がパフェに魅了される理由について解説していただきます。

 

猫井先生、第2弾もよろしくお願いいたします!

世界各国でスタイルの異なるパフェ。その特質とは?

パフェは、ほかのスイーツと比較してどのような特質を有するのか? ここからはその本質について考えてみたい。パフェは日本特有のものではない。先に紹介したように、フランス版パフェというものもあるし、イタリア、ドイツ、イギリスにも類似のものが見られる。ここではそれらを概観しながら、パフェの有する特質について考えていきたい。

フランス版パフェ「クープ・グラッセ(coupe glacee)」

「タテル ヨシノ ビズ」のクープ・グラッセ/出典:watan233さん

 

フランスでは、パフェのことを「クープ・グラッセ」または単に「クープ」と呼ぶ。クープについては、秋山徳蔵が端的に解説しているので引用しよう。「クープとは、本来は杯又は盃という意味でありますが、いつの頃よりか、クープすなわち杯又は盃に盛って供するグラス(注:アイスクリームのこと。注は猫井)の代名詞となったのであります」。多少補って説明すると、クープという語は、本来脚付きの容器のことを指すが、いつの頃からか、脚付きの容器に盛ったアイスクリーム全体を指すようになったということである。

イタリア版パフェ「コッパ・ディ・ジェラート(Coppa di gelato)」

「ラトリエ モトゾー」のイタリア風パフェ/出典:Erena.さん

 

直訳すれば、アイスクリームのカップ。尚、イタリアでは「Parfait(パルフェ)」という言葉も聞かれるが、これは、フランス語の「Parfait」で、イタリアでは「アイスケーキ」のことを指す。

ドイツ版パフェ「アイスベッヒャー(Eisbecher)」

「ティティカフェ」のドイツ風パフェ/出典:雛菊立夏さん

 

これも直訳するとアイスクリームのカップ。ドイツでは、パフェ類を総称して「アイスベッヒャー(Eisbecher)」と呼び、種類ごとに、イチゴのパフェは「エァトベーァ(苺)ベッヒャー(Erdbeerbecher)」というように、主材料の名前を「ベッヒャー(Becher)」の前に付ける場合が多い。一方ドイツでパルフェというと、型に入れて凍らせて、型から出して切り分け、前菜のテリーヌのように皿に盛り付けたものを指すこととが多い。

イギリス版パフェ「ニッカボッカ・グローリー(knickerbocker glory)」

「フォートナム・アンド・メイソン・コンセプトショップ 日本橋三越店」のニッカボッカ・グローリー/出典:ふわふわなまこさん

 

イギリスでは、パフェは「ニッカボッカ・グローリー」というちょっと変わった名前で呼ばれている。ニッカボッカ・グローリーは、アイスクリームがまだ高級品だった1930年代に作られ、社交界デビューを果たした子供へのご褒美として親しまれてきたスイーツだとされる。一説によれば、グラス越しに見えるクリームや苺の「断層」が、かつて若い女の子たちの間で流行したニッカボッカとよばれる長い靴下の赤と白のストライプの伝統的なデザインに似ているので、ニッカボッカ・グローリー(全盛期)とよばれるようになったといわれる。

食べる順番が決められているスイーツ?パフェの構造や材料から独自の性質を分析!

海外でのパフェの名称を概観すると、名前にカップ(容器)が入っていることや断層が名の由来になっていて、パフェにとっては、「容器」が必須の構成要素であることが読み取れる。ショートケーキは、皿にのせても、丼の中に入れてもショートケーキだが、パフェは「それなりの」容器に入っていないと、パフェとは認められないのである。ここで「それなりの」容器というのは、一般的には、「縦長の」「脚付き」の「透明な」グラスを指すことが多い。

 

また、各国のパフェの写真をネットで概観すると、主な素材として使われているのは、アイスクリーム、フルーツ、ソースなどであり、トッピングもグラスの上部からはみ出すように華やかに飾られたものが多い。つまり、パフェは使用される素材からも、飾りつけからも、イートインを前提としており、テイクアウトは想定されていないのである。

 

写真:食べログマガジン編集部

 

縦長のグラスがパフェの構成要素だとされ、上にトッピングがされ、店で食べることを考えると、基本的には上から順番に食べていかざるを得ない。つまり、パフェは食べる順番が規定されたスイーツなのである。この点、自分で好きな順番で食べられる皿盛りのデザートとは異なる。作り手は、食べ手が食べる順番を十分に考えながら、味わい、食感に配慮しつつパフェの組み立てを行わなければならないのである。

 

アイスクリームが主材料であることから、溶けていくことも考えなければならない。また、上から順番に食べると言っても、食べ進むうちに上の層はその下の層と混じり合い、味わいが変わっていくことも考えなければならない。つまりパフェは時間の経過に伴い変化するスイーツなのである。

 

一方で、パフェはグラスに入れられることから、崩れやすい素材でも層に積み上げることが出来るというメリットのほか、透明なグラスで素材の色合いを活かし、ほかのスイーツに比べてより多彩な断層の美を表現することが出来るという特質を持つのである。

〜だから私たちは夢中になってしまう。パフェの特質まとめ〜

  1. 容器が必須の構成要素となっている。(縦長、脚付き、透明など、それなりの容器に入れられなければならない)
  2. イートインが前提とされ、テイクアウトは想定されていない。
  3. 食べる順番が規定されたスイーツである。(上から下へ)
  4. 時間の経過とともに変化するスイーツである。(溶ける、混じる)
  5. 崩れやすい素材でも積み上げることができ、多彩な断層の美を表現できる。

第3弾はパフェの名店を紹介します!

第3弾となる〈急〉篇では、筆者が愛してやまないパフェの名店を紹介します。スイーツ専門家が厳選する、パフェの日だからこそ食べたい“完璧なパフェ”とは? 次回、最終章の配信をお楽しみに!

 

文:猫井登