【噂の新店】蓮華
中国料理一筋26年の料理人が選んだのは「この先に店があるの?」と進むことを躊躇するような住宅街。なんとか辿りついて扉を開ければ長居したくなる空間で食す、伝統から一歩先行く新たな中国料理が待っています。
隠れすぎて迷うこと確定!

渋谷駅からも代官山駅からも10分ほど歩く少々不便な場所にもかかわらず、通いたくなるレストランが多いことで食を愛する大人たちが集まる渋谷区桜丘エリア。ここにまた一つ、実力のある中国料理店がオープンしました。

優しい色合いの木材をふんだんに使った店内は温もりを感じます。厨房と客席を繋ぐカウンターは奥行きがなんと105cm! 目の前で盛り付けされる様を眺めていると、自然と気持ちが高揚してきます。

オーナーシェフの後藤吾基秀さんは父親も中国料理店の料理人。中国料理を食べて育ち、共働きの両親の代わりに自身で作っていたのも自ずと中国料理だったそう。だから中国料理人の道へ進んだのは至極当然だったと話します。今までで一度も他のジャンルに気が向くことなく中国料理一筋、体が中国料理で作られていると言っても過言ではありません。
王道の味にキラリと光る遊び心が潜んだ無二の味わい!

こちらで提供するのはスタンダード(7品8,800円)、スタンダードにフカヒレ煮込みを加えたコース(14,300円)、フカヒレがグレードアップされたコース(22,000円)の3種類のおまかせコース。本日はフカヒレ煮込みのコースから抜粋してご紹介します。

はじめは「前菜の盛り合わせ」です。本日は8年物の紹興酒で漬けたボタンエビ、よだれ鶏、いそつぶ貝の沙茶醬煮、雲白肉、押し豆腐と青搾菜の湯葉巻き、牛スネ肉の冷菜、クラゲの赤酢漬けといったまさに中国料理らしいラインアップ。この一皿の中に五味を入れ、濃すぎず薄すぎずの絶妙な塩梅の味付けは食材の良さを引き立たせます。

なんとも言えず美しい北京ダックにしばし目が奪われてしまいます。パリッパリに仕上げた北京ダックは大きめにカットし、その上にキュウリ、白葱、紅芯大根、ベビーリーフ、カダイフをのせた一品。野菜を多くしているので北京ダックの脂がいい感じに緩和され、味わい深いけれど食後感は軽やかです。

巻きやすいように具材の配置を考えたり、皮が破れないよう北京ダックのエッジを丸くしたり……、こういう細かい配慮がおいしさを左右するものだと実感します。
看板料理は“あの店”直伝の「フカヒレ煮込み」

いよいよ「フカヒレ煮込み」の登場です。料理人人生26年の内、16年間は「礼華」で研鑽を積んだ後藤さん。師と仰ぐ新山重治氏直伝の味を見事に継承しています。熱した中華鍋に注いだスープの中で時間をかけてフカヒレを煮込み、最後に鍋を回しながら片栗粉でとろみをつけて完成!

ジュージュー、グツグツ、おいしい音と香りにいても立ってもいられず熱々を頬張ると、スープが十分にしみこんだゼラチン質の豊かなフカヒレと、ひげを一本残らず取り除いたもやしのシャキシャキとした食感が、甘みとうまみの利いたとろっとろの餡に絡み、口中で“最強ハーモニー”を奏でます。丁寧な仕込みや長年作り続けてきた確かな技術と自信がおいしさの根源。さすが看板メニューと言われるだけある出来栄えです。

「フカヒレに合ういい紹興酒がありますよ」と薦めてくれたのがこちら。無添加、無農薬のもち米だけを使用したシングルヴィンテージの紹興酒は清涼感が印象的で、濃厚な味わいの餡にピッタリ! 独立を思い立った3年前からワインの勉強を始め、ソムリエの資格を持つ後藤さんのセレクトはパーフェクト! ぜひオススメにトライしてみて!

〆の麺は春を感じさせる桜海老を存分に使用。中国料理ではあまり馴染みのない桜海老ですが、黄ニラや葱とともにカンカンに熱したピーナツオイルをかけて火入れする調理法で中国料理を主張します。

中国料理のスープ麺は一体感を求めるというより、麺、具材、スープ、それぞれのおいしさを堪能したくなるもの。だから具材は焼豚にしたり筍にしたりと、旬な食材に変えていくそう。和食のように季節を感じさせてくれます。
味、サービス、空間、すべてが揃う、知っていると自慢できる店!

野菜をたくさん入れた北京ダック然り、中国料理というベースから外れることなく、こうしたらもっとおいしくなるという独自のアレンジをプラスした料理が後藤さんの真骨頂。調理法や油の種類が豊富だからこそ味が多彩になる、それが中国料理の魅力だと話す後藤さんの料理は、シンプルに見せて食べるとさまざまな味覚が現れ、食材のポテンシャルを最大限に引き出すのです。

店名の「蓮」は1枚の蓮の花びらに見立てたことから名付けられたと言われている中国料理には欠かせないカトラリーの「蓮華(レンゲ)」から。「華」は修業先の「礼華」から1文字ずつを合わせており、後藤さんの料理人人生そのものを象徴しているかのよう。伝統を土台に粋なアレンジの利いた料理と細かい配慮のあるおもてなし、ここはわざわざ足を運びたいと思わせる魅力があふれています。
※価格は税込。