常識にとらわれないアプローチから生まれるデセールコース

「GerMei」のデセールコース(18,700円)は、9品で構成され、ノンアルコールのペアリングが5杯セットになっている。その一例をご紹介しよう。

「ぶどうショートケーキ」

驚きの食感で軽やかに味わう「ぶどうショートケーキ」

シグネチャーのひとつであるショートケーキは、ゲストの来店に合わせて焼き上げるスポンジ生地に目の前で軽やかな生クリームやフルーツを盛り付けていく。生地は、あえてグルテンを出すことで「ふわふわ」と「しっとり」という相反する食感が見事に共存している。

生クリームは、通常手に入るものだと乳脂肪分が低くても35%ほどだが、29%まで落として軽やかな仕立てに。皿にはピスタチオと藏光農園の梅の2種類のソースが添えられているが、意外な組み合わせの相性の良さもさすが。

繊細な口溶けは、出来立てを味わうことができるカウンターならでは

なじみのあるショートケーキだが、横石氏が手掛けるとこうなるのか!と食感や味わいなど多彩な感動が詰まっている。優美なビジュアルにフォークを入れることを躊躇してしまうが、一度口にすると、すっと消えるような軽やかさ。あっという間に完食してしまうだろう。

フラットなカウンター席に座ると、目の前で繰り広げられるデセールが完成するまでの調理工程にも釘付けとなる。

「イチヂクタルト」

豊かな香りをまとった贅沢な「イチヂクタルト」。ペアリングの紅茶は、時間をかけて水出しすることで渋みのない味わいに

佐賀県にある富田農園が手掛ける黒イチジクを丸ごと1個使用したこちらは、目の前でサトウキビ100%のカソナードをまぶし、キャラメリゼして盛り付ける。タルト生地やドライイチジクのジャム、クリーム、ゼリーとのバランスも見事。「ジャムはドライフルーツから作ることで、より凝縮されたうまみや香りをお楽しみいただけます。ゼリーは、イチジクの葉から香りを抽出して作ったものです。果実よりも葉の方がより香りをしっかりと感じることができます」と横井氏。仕上げに、阿蘇のハーブ&ローズ園から仕入れる無農薬のエディブルフラワーを飾って完成。

ペアリングするお茶は、マリアージュ・フレールの華やかな紅茶を一晩かけて水出ししたもの。お湯で抽出するよりも渋みが出ないそう。1997年(横石氏の生まれ年)に製造されたベネチアングラスでいただく。ペアリングには、日本茶、中国茶、台湾茶などのほか、オリジナルカクテルを提供することも。

「ぶどうぜりー」

3種類の希少なブランド品種を使った「ぶどうぜりー」

マスカサーティーン、マスカットノワール、ベニバラードという、おそらく初めて耳にする方も多いであろう非常に珍しい3種類のぶどうを主役にした一皿。

横石氏が丁寧に果物を説明する姿からは、食材に対する深い思いが感じられる。店を訪れた際には、色々と尋ねてみるのもいいだろう。食材は、実際に現地を訪れるほか、SNSで見つけて取り寄せて味わい、自身のデセールに使用したいと思うと問い合わせて生産者との縁ができることも。お茶や器なども産地を訪れた出会いから繋がったものも多い。

ゼリーには、上質な白ワインと果実や果皮をブレンドしたアペリティフワイン「リレ ブラン」を使用。赤紫蘇のソースと液体窒素で作るグレープフルーツアイスを添えて完成だ。「Germei」の空間に溶け込むような優しい色彩の器は、笠間焼の陶芸家・杉山 悠氏にオリジナルオーダーしたもの。日本の現代作家のほか、フランスのブランドのジャン・ルイ・コケなども取り入れ、器からも横石氏の感性が伝わってくる。

「フライドポテト」

クマが運んでくれる口直しの「フライドポテト」

「甘いものが続くので……」とコースの途中で口直しとして、塩味のあるフライドポテトが登場する。愛らしいクマに癒やされながら、口へと運ぶとその完成度の高さにハッとする。男爵芋を長時間低温で茹でてから揚げたその食感は、外側はガリガリ、中はトロッと。エシャロットパウダーが上品に香る。そのおいしさにお代わりしたくなってしまうが、1本の量がほどよいアクセントとなり、次のデセールへとリセットしてくれる。

今後また違ったアプローチの口直しも展開予定とのことなので楽しみだ。

「栗ミルフィーユ」

多彩な要素が見事に重なり合う「栗ミルフィーユ」

兵庫県産の丹波栗を渋皮煮にした後、甘露煮にしたものをこして、カルヴァドス VSOPで香りづけしてモンブランクリームに。ゲストの目の前で絞り出して提供する。添えているチョコレートのアイスクリームは酸味のある心地よい味わい。カスタードクリームは、滑らかな口当たりを追求して一切粉を入れずに仕上げている。さらに、生クリームとキャラメルソースを添えて出来上がり。

サックサクのパイ生地がよく切れるようにとラギオールのステーキナイフが用意されている。オープンして間もないが、ミルフィーユも早くもファンの多いシグネチャーのひとつだ。

こちらには、佐賀県の米作りと兼業している農家が作る玄米茶をペアリング。香ばしい香りが栗と引き立て合う。陶芸家・西 隆行氏の雫シリーズのグラスとイギリスのビンテージの茶器の組み合わせでいただく。

「ミニチュアお菓子」

目がハートになってしまう「ミニチュアお菓子」

コースのクライマックスを飾るのは「ミニチュアお菓子」。目の前に置かれた瞬間、わ~!と歓声が上がり、うっとりしてしまうだろう。こちらは取材時が10月だったのでハロウィンをイメージしたもの。

右奥のクマが持っているクマのフィナンシェは白味噌の風味。かごの中に入った焼き立てのカヌレは、ムチムチとした食感で中はプリンのようにトロッと。手前に輝くのは、桜、金木犀、エルダーフラワーの琥珀糖。他に、ディアマンクッキー、ヘーゼルナッツクッキー、アーモンドチョコレート、バスクチーズケーキが並ぶ。径2cmほどの小さなカップに入ったミニチュアのフォークやスプーンも実に緻密で、細部まで徹底したこだわりを感じる。

ミニチュアサイズだが、豊かな風味を存分に感じる

「この瞬間だけのおいしさ」に出会いに

空間もデセールも非常に愛らしさに溢れているので、女性客が多いかと思いきや6~7割が男性とのこと。秀逸でオリジナリティ溢れる横石氏のデセールは男女問わず、食通たちがこぞって訪れているようだ。

メニューは、フルーツの旬と共に替わっていく。11月は、柿、栗、柑橘、紫芋など、いずれも横石氏が吟味した極上の食材を使用し、新たなメニューを展開予定。見ているだけでもワクワクしてくるデセールの数々だが、カウンターに座れば、香りや音も相まって、「Germei」の世界観にたっぷりと浸れるだろう。「今、この瞬間だけのおいしさ」を体験してみてはいかがだろうか。

※価格は税込

取材・文/外川ゆい
撮影/大谷次郎