北野シェフの新店はテンション上がりっぱなしのアラカルトイタリアン
外苑前駅から徒歩2分、開店時から予約困難店となった「malca」をはじめ、「焼肉もちお」「and Svolta」「とんかつ ここまでやるか。」と話題店を次々と手掛けた北野 司シェフが、今度は原点に戻り2つ目のイタリア料理店を2024年10月27日にオープンしました。
その名は「tens.」。料理の温度、オープンキッチンから漂う香り、調理の音といった“テンション”を体感してもらいたいという思いを込めています。「冷たいものは冷たく、温かいものはギリギリまで火にかけて熱々で出したいんです。そういう“テンション”が一番高いのがイタリア料理だと思っているし、料理を食べた時に『あ、テンションがあがった』と思える瞬間が一番うれしい。それに今日あの料理が食べたいと思ってその店に行けるっていうテンションもいいですよね」と語る北野シェフ。
「パスタだけ、前菜だけ、なんならワインだけのつもりが、飲んでいるうちにお腹が空いてきて肉が食べたくなる、そういう食べる側も作る側も何が起こるかわからない“イレギュラー”がイタリア料理の醍醐味だと思うんです。コース料理は1〜2カ月間、同じものを作り続けるので『今日いいのが揚がったよ』と漁師さんから連絡が来ても一定数揃わないと使えない。作る手順も決まっているのでイレギュラーなことはほぼ起こらないんです。だからイレギュラーな楽しさがあるアラカルトの店をやりたいとずっと思っていました」と、念願が叶ったことのうれしさで笑みがこぼれます。
店内は木材をふんだんに使い、サンダーで削った壁やふんわりとやわらかな光を放つ照明が温かみのある空間を演出。9席のカウンターでは躍動感にあふれるキッチンを目の当たりにし、座っているだけでワクワクします。1席ごとに2口のコンセントとバッグハンガーを設置する細やかな配慮もうれしい。3〜6人で利用できる個室もあり、さまざまなシチュエーションで利用できそう。
食べた瞬間「うまいっ!」と感じる至極の料理
メニューには35品ほどの魅力的な料理名が並びます。胃袋が無限大だったら上から全部と言いたいくらい! 今回はその中から北野シェフおすすめの4品をご紹介します。こちらは「純血但馬経産牛のタルタルのブルスケッタ」です。
薄くスライスしたパンにニンニクオイルを塗りオーブンで焼いたラスクに、淡路島洲本の三坂雅啓さんが育てた但馬牛をタルタルにしてケッパーを混ぜ、パルミジャーノチーズと西洋山葵を削りかけのせています。豪快にパクリとすれば、肉のうまみ、ケッパーの酸味、パルミジャーノのコク、西洋山葵のまろやかな辛み、ラスクのサクサクとした食感が織りなすハーモニーにテンションは急上昇!
「malca」のスペシャリテである「キャビアの冷製カッペリーニ」は、メニューを決める際に試食した北野シェフが「やっぱりおいしい!」とこちらでも供されることに。
ラトビア産の「オシェトラキャビア」はこれだけこんもりのせても塩味がとてもまろやか。熟成させたかのようにとろけます。アサリの出汁を吸わせたカッペリーニに絡み、極上の味わい。
「ボスカイオーラ」とは「木こり風」というイタリア語に由来した、断面が木目に似ているツナと、きのこをたっぷり使った料理。「tens.」では豊洲屈指の鮪仲卸「やま幸」の本鮪で作った自家製ツナと4種類のきのこをたっぷり使って仕上げます。
普通はツナにすることなんてありえない最上級の本鮪は脂がのって“しっとりふわとろ”。シャキシャキとしたきのことの食感のコントラストに舌が喜びます。ケッパーの酸味をアクセントにしたトマトソースが手打ちのカサレッチェによく絡み、目が覚めるおいしさです。
北野シェフといえば炭焼きは外せません。本日は淡路島の三坂さんが育てた月齢84カ月の純血但馬経産牛のリブロースを30〜40分かけてじっくりと炭火で焼き上げました。
ナイフを入れた瞬間、これは絶対においしい!と直感し、食すとそれは確信に変わります。肉の中に閉じこもっていた肉汁がジュワッと広がったかと思うと、赤身のうまみと脂の甘さが押し寄せる。この無限ループに食べる手が止まりません。
添えたのは蒸し焼きにした福島県郡山の鈴木農場の「カリフローレ」。茎はシャキシャキと瑞々しく、花は噛むとホロホロと解ける。「参宮橋『Regalo』の小倉知巳シェフが“イタリア料理はムラが美学”と仰っているのですが、本当にその通りだと思うんです」と言うように、焼きの強弱の違いが食材をよりおいしくしています。味変には優しい甘酸っぱさとコクがたまらない、淡路島の天日塩と生胡椒と黒ニンニクとバルサミコ酢で作った自家製の薬味を。
「今日は何があるんだろう?」と、つい足が向いてしまう
「その日に出会った良い食材で何十種類もの料理が作れることは料理人にとってものすごく楽しいことなんです。僕らが楽しいからお客様も楽しくなるし、お客様が楽しいから僕らも楽しくなるんです。ステイタスではなく本質的な食事を楽しんでもらえる店でありたい」と話す北野シェフ。すっかり「おまかせコース」に慣れてしまい忘れかけていた“今食べたいものを食べる楽しさ”を思い出させてくれました。
「ten=10」になぞらえ22時以降は特別メニューやジャンルを超えた料理も出す予定だそう。「10=充」で日々、挑戦している大人たちの夜を充たすという意味もあると言うように、「tens.」は間違いなく青山の夜のシーンを彩ります。