フードライター・森脇慶子が注目の店として訪れたのは、先月グランドオープンしたばかりのイタリアンレストラン「テストキッチンH」。迫力のフルオープンのキッチンから生み出される“ワクワク”の詰まった料理の数々をご覧あれ!

【森脇慶子のココに注目 第3回】レジェンドの新しい挑戦と料理に感嘆「テストキッチンH」

山田宏巳シェフ

 

イタリア料理界のレジェンド、山田宏巳シェフ。1980年代後半のイタ飯ブーム華やかなりし頃、“奇跡のトマトの冷製カッペリーニ”でいち早く冷製パスタを打ち出し、パンにオリーブオイルをつけて食べるスタイルを世に広めた(往年の)時代の風雲児だ。が、その現役ぶりをまざまざと見せつけてくれたのが、4月23日にオープンした新店「テストキッチンH」だ。

 

奇跡のトマトの冷製カッペリーニ

 

表参道は骨董通りの路地奥。民家2軒分、およそ260坪もの敷地に建つモダンな館がそれ。夜、暗がりの向こうにぽっかりと浮かびあがるガラス張りのレストランは、どこか異国を訪れたような錯覚さえ引き起こしそうだ。

 

 フルオープンキッチン

 

店内に一歩入れば、まず中央の鴻大なフルオープンキッチンに目が釘づけになる。ゆうにシェフが20~30人は入れるのでは?と思われるほどの広さは、まさにキッチンスタジアム。伝説の名店「バスタパスタ」を彷彿とさせるダイナミックさには、知らず胸が高鳴ってくる。

 

そう、今を去ること30年程前、初めて「バスタパスタ」に足を踏み入れた時のような高揚感が蘇ってくる。「ワクワクするようなレストランを作りたかったんだよね」。こう語る山田シェフの言葉に、深く頷いてしまった。

 

確かに、“ワクワク”が、ここにはいっぱい詰まっている。

 

キッチン内の冷蔵庫には自家製ハムがずらり

パスタにはからすみパウダーをたっぷりかけて

 

フライパンごとテーブルに運ばれ、取り分けられるパスタ、厨房横の冷蔵庫にずらりとぶら下がる自家製ハムの数々にボリートミスト(イタリア風おでん)の大きなワゴン!

 

いちごのかき氷

 

そして、日光の「四代目徳次郎」の貴重な天然水で作る、アイスマウンテンの如き山盛りのかき氷等々。料理が運ばれる度、小さな歓声が上がりそうだ。が、中でも圧巻はキッチン奥に設えた薪焼きの炉窯だろう。

 

 

山田シェフ曰く「大きな店だから、肉も大きな塊で焼きたいと思った」そうで、1羽丸ごとの鶏がグルグルと回りながら薪の炎に炙られているかと思えば、その横では、骨付きの牛肉が薪の熾火でじっくりと焼きあげられている。ゆくゆくは、仔豚1匹やジゴダニョー(仔羊骨付き腿肉)なども焼いていく予定だとか。

 

 

この薪焼きの魅力、それは、肉の表面が乾くことなく、周りはカリッ、中はふわっとジューシーに焼きあがる点にある。というのも、炭と違って生木を燃やすため、強い火力でいながら熱がやわらかく広がり、炎の当たり方も炭に比べやんわりとしているからなのだろう。薪で焼けばこその、燻製にかけたような芳しい香りもまた、食欲に拍車をかけるには充分だ。

 

鹿児島県産経産牛の骨付き肩ロース

 

取材当日焼いてくれたのは、鹿児島県産経産牛の骨付き肩ロース。食用に再肥育した雌牛を、3カ月間ほど熟成させたものだ。処女牛のようなとろけるやわらかさはないが、噛み締める都度、熟女なればこその濃い旨味が薪焼き特有の燻香と相まって、口中に深い余韻を残す。

 

前菜の彩り鮮やかなハム

 

また、前菜のハム類も、生ハム以外は全て自家製。クミンなど香辛料の効いた羊のモルタデッラにノーマルな豚のモルタデッラ、そして山田シェフの十八番でもあるボンレスハムの3種類で、原料の豚は、14種のハーブを与えて育てた漢方豚を使用。臭みが少なくさらっとした口どけの良さが持ち味の健康な豚だ。これらを旬の野菜とサラダ仕立てにした一皿は、見た目も艶やか。思わず、ワインが進むはずだ。

 

ちなみに、気になるお値段は、写真の前菜、パスタ、メインの肉で、5,800円。デザート込みなら、8,000円とお値段も、リーズナブル。狭くて高くて予約の取れないお店が多い中、その真逆を行く、“安くて広くて、しかも思い立ったら当日でもすぐに行ける店”。そんなレストランを、青山のど真ん中に作った山田シェフに、快哉を叫びたい。

 

 

今後は、この広いキッチンを活用して、様々なジャンルの料理人たちとのコラボレーションも企画していきたいとか。だからこその、“テストキッチン”。まだまだ山田シェフのワクワクは、続きそうだ。

取材・文:森脇慶子

 

写真:大谷次郎