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フレンチと和の技法、そして極上肉が融合したコースに舌鼓を打つ!
「EN」で供されるのは41,800円のコースのみ。「和牛とフランスの牛は肉質も脂質もまったく異なります。うし松であつかう但馬牛は熟成もさせないので、いかに肉の個性を大切にしながら、フレンチの技法を盛り込むかということを考えました。牛を一頭買いするので、さまざまな部位を使うことができるというのも強みのひとつです」と北山シェフ。席に着いたゲストはまず、その日に調理される牛の塊肉とご対面。肉のツヤやきめ細かいサシは思わず見惚れるほど美しく、どういうふうに調理され、どんな美味に昇華されるのかと想像しただけでも期待に胸が膨らむ。
「フランス牛と和牛はまったく違う食材のイメージ」と北山シェフはきっぱり。しなやかな肉質、脂の上品な甘みや口どけ、香り。それらを丁寧に引き出しながら、フレンチの要素を組み合わせるために火の入れ方、ソースのレシピなどを徹底的に研究したという。例えばコースの序盤に登場するイチボのタタキは、肉の甘みを引き立てるために2種のソースをつくり、特におだやかな酸味使いを意識。コンポジションとは、異なる性質を持ったものを組み立て完成させるという意味だが、柑橘やネギの風味が重なることでイチボのしとやかな甘みがさらに増す。部位によって、爽やかな酸を添えるものもあれば、サーロインのように豊かな脂をたたえた部位には、まろやかなテクスチャーをレイヤードすることも。4日かけて仕込む牛の白湯スープと合わせたサーロインのポシェは、まろやかな旨みと甘みが口の中で渾然一体となり、幸福感に包まれる。
時間を見極め、とろとろに仕上げたテールは和牛の旨みの凝縮感も桁違い!
コースは前菜からお茶菓子まで10品前後が登場するが、中盤よりも前に和牛テールの赤ワイン煮込みが。コースを構成する際に、いかに緩急をつけるかも料理人のセンスの見せどころだが、北山シェフは「最後にご飯をお出しするというのもあって、味が濃いものは中盤よりも前に。牛テールの煮込みはフランス料理の定番ですが、これは時間をかけて煮込むほどよいというわけではありません。噛み締めたときに肉の味がしっかりする時間を見極め、赤ワインやフォンと一緒に4〜4時間半かけて煮込んでいます」と話す。
炭火でじっくりと焼き上げる和牛のしなやかな旨みに陶然
肉や野菜の火入れに炭火を用いるのも「EN」の特徴。「オーブンを使えばある程度料理人がコントロールできますが、部位によっては炭でふっくらと火を入れて、香りもほのかにまとわせた方がいい場合もあります。カウンターのレストランなので、目でも楽しんでいただきたいという思いもあって、炭台はあえてお客様から見える場所に設置しました」と北山シェフ。肉が焼けるのを待ちながら、美食の時間に身を委ねるのはなんとも贅沢だ。
火入れがものをいう「黒タン」は贅沢な1本焼きで!
肉の仕入れと火入れに絶対的な自信があるからこそ、タンは1本焼きで提供。個体にもよるが、500g前後の芯タンを、炭で時間をかけて焼き上げる。タンは脂がのっているため炎が立ちやすいが、表面を焦がさないようにパリッと仕上げ、噛んだときのサクッとした食感とのコントラストを楽しませる。「ソースはうし松の焼肉をイメージしてネギタン塩ソースで。遊び心も少し加えつつ、豊かな旨みと酸味がふわりと合わさるように、肉の旨みのソースを加えるなど工夫しています」(北山シェフ)
東京で「牛肉が食べたい!」という気分になったら、星の数ほどの選択肢がある。ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ、焼肉……。だが、新しい食肉体験を望むなら、前もって予約を入れて、ぜひ、このレストランを訪れたい。
「新しい星を発見するよりも新しい料理を発見する方が、人を幸せにする」
和牛を主役に据えた新しいガストロノミーが、日本の食肉文化の進化を示し、世界にその名が広まる予感に、気持ちが高ぶらずにはいられない。
※価格は税込