教えてくれる人

小寺慶子

肉を糧に生きる肉食系ライターとして、さまざまなレストラン誌やカルチャー誌などに執筆。強靭な胃袋と持ち前の食いしん坊根性を武器に国内外の食べ歩きに励む。趣味は一人焼肉と肉旅(ミートリップ)、酒場で食べ物回文を考えること。「イカも好き、鱚もかい?」

代官山に誕生した、隠れ家レストランの華やかさに入店時から気分が上がる!

レストランはビルの地階に。階段を下りると清々しい緑が目に入り、食宴への期待に胸が高まる

「普段、何を食べているか教えたまえ。君がどんな人物かを当ててみよう」というのは、ガストロノミーの祖、ブリア・サヴァランの名言としてあまりにも有名。だが、代官山に新しくオープンした「EN DAIKANYAMA」を訪れると、彼の名著「美味礼賛」に記された「新しい星を発見するよりも新しい料理を発見する方が、人を幸せにする」という言葉が頭に浮かぶ。

入り口正面のワインセラーには通も驚くラインアップがずらり。グランヴァンの品揃えにはワイン愛好家も驚嘆

かつて西郷隆盛の実弟が暮らす邸宅があったことから、その名が定着した“西郷山公園”の近く。渋谷から代官山へと向かう旧山手通り沿いには、文化発信や国際交流の基盤となる施設が多く並ぶ。昔からフランス料理との親和性が高く、界隈には1970年代から続く老舗やフレンチの巨匠の名を冠したレストランも。このエリアでいま食通の耳目を集めているのが、世界に誇れる最高峰の“和牛とガストロノミーの融合”をコンセプトにした「EN」だ。

白を基調とし、まろやかな曲線を意識したメインダイニング。現在、予約は3カ月先まで埋まっている
カウンターのみの空間。隣席との間隔や奥行きもゆったりと贅沢に持たせたつくりに、優雅な気分もひとしお

フランスの星付きレストランで修業した実力派シェフの展望とは?

フランス料理の魅力は数多あるが、そのうちのひとつは、心が自然と弾む華やかさだろう。このところは東京では、ビストロブームが再燃。フランス各地の郷土料理をアラカルトやプリフィクスで供する店に人気が集まっている。気軽に通うことができるレストランで気心の知れた相手とワインを飲み、美食に興じるのも心満ちるが、時にはハレの日気分でいつもよりも少し着飾って出かけるのもレストラン通いのひとつの楽しみ。緑に彩られた階段を下り、入店すればワイン好き垂涎の銘柄が並ぶ圧巻のセラーがお出迎え。メインダイニングはモダンでありながら、全体的に曲線のデザインを取り入れており、季節の草花が飾られた空間には、日本人ならではの細やかな美的センスが宿る。

北山拓磨シェフ。京都出身。専門学校卒業後はフランス各地での修業も経験。5月29日にオープンした「EN」の総料理長に就任し、チーム一丸となって和牛ガストロノミーをコンセプトとしたレストランで飛躍を目指す

カウンター内で腕をふるう北山拓磨シェフは、専門学校在学中にリヨン留学も経験。卒業後はフランス各地のミシュランの星付きレストランで修業を積んだが、中でも刺激を受けたのは、オーベルニュ地方の三つ星店「レジス・エ・ジャック・マルコン」と話す。

オーナーシェフのレジス・マルコンは、仕事をする上でいかにコンセプトを確立させるかに重きを置いていると語っているが、「EN」でも北山シェフは明確なテーマのもとに自身の豊富な経験を重ねた料理をつくりたいと、開店まで試行錯誤を繰り返してきた。

「和牛ガストロノミー」というジャンルはあまり耳慣れないが、これには北山シェフの心を動かしたある出会いがあったという。それは、西麻布で人気を集める焼肉店「うし松」チームとの“縁”から始まった。最高峰の和牛で世界中から食通のゲストを迎えてきた「うし松」は、昨年、焼肉の新しい可能性を広げるため、麻布十番で串に打たない鶏焼肉店「一鳥目 とり松」を立ち上げ話題を集めたが、「EN」ではフレンチ一筋で腕を磨いてきた北山シェフと、すべての銘柄牛のルーツとも言われる最高峰の但馬牛の華麗なるコラボレーションで食べ手に新しい感動をもたらしたいという熱い思いがある。