〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

料理も空間も使い勝手もいいイタリアン

L字カウンター席

都心にあって料理も空間も洗練されていてリーズナブルに使える店は、かなり貴重。五反田の目黒川沿いにあるイタリアン「VIGO」は、アンティーク家具に囲まれた空間に、L字カウンター、テーブル席、個室まで備えてあるという使い勝手の良さが魅力。料理とワインのおいしさも申し分ない。絶対にチェックしておきたい一軒だ。

シェフの田村直樹さんとサービスの梅島優衣さん

VIGOのシェフを務める田村直樹さんの料理は伝統を取り入れながらも、遊び心があり、それが店のオリジナリティになっている。田村さんの修業先は、イタリアのピエモンテ州やエミリア・ロマーニャ州。ピエモンテでは美しい彩りの一皿で知られる一つ星リストランテ「Gardenia」で修業した。帰国後は「サッカパウ」「ゴロシタ」など都内の人気店で腕を磨いた。現在の運営会社に入社後は炭火焼の業態を経験するとともに、ソムリエを取得。VIGOで出される世界のナチュラルワインのセレクトも担当している。

テーブル席。奥には個室もある

メニューも使い勝手の良さが魅力で、コースもアラカルトもOK。コースは5品4,400円と8品7,700円の2種類がある。素材には、滋賀の淡海地鶏や茨城・西崎ファームのかすみ鴨、千葉・田倉ファームの野菜などが使われている。それを田村さんが修業したピエモンテやエミリア・ロマーニャの手打ちパスタや郷土料理をベースにジャンルレスなイタリアンに仕立て、洗練された盛り付けで提供されている。

生ハムとトルタフリッタ✕ロゼスパークリング

生ハムとトルタフリッタ(1,980円)

VIGOでは、ワインによく合う前菜メニューが豊富に用意されている。中でも、一番人気なのが「生ハムとトルタフリッタ」。田村さんの修業先の一つ、エミリア・ロマーニャ州伝統のおつまみで、トルタフリッタは中が空洞になった揚げパン。もちもちとしたドーナツのような味だが、生地が薄く軽く食べられるのでおつまみにぴったり。あつあつのトルタフリッタと生ハムの塩気が合わさると、ワインがたまらなく飲みたくなる。

極薄のとろける食感があつあつのトルタフリッタにからむ。生ハムは、イタリア産が輸入禁止されているため、イタリアの生産者がすぐ隣のスロヴェニアで作ったもの。イタリア産と遜色ないおいしさ!
マリア・ボルトロッティのダルドゥレイナ2022(グラス1,100円、ボトル6,600円)

生ハムとトルタフリッタに合わせてもらったのは、ロゼの微発泡ワイン。「伝統的にはランブルスコを合わせるのが定番ですが、あえてバルベーラで造られた微発泡ロゼを合わせました。フレッシュな酸があって心地よく楽しめます」と田村さん。うまみもあって、スイスイ飲めて、最初の一杯としてもぴったりのロゼだった。

黒にんにくパスタ✕オレンジワイン

黒にんにくのペペロンチーノ(2人前1,760円、写真は1人前)

VIGOのパスタは、乾麺のスパゲッティだけでなく、アニョロッティ・ダル・プリン(ピエモンテのラビオリ)やニョッキ、ラザニアなど手作りも用意されている。その中で目に留まったのが、黒にんにくのペペロンチーノ。黒にんにくと竹炭を練り込んだタリオリーニをペペロンチーノに仕立てた一品で、黒にんにくのフルーティなコクが利いた味わい。

ドメーヌ・ド・クロヴァロンのレ・ゾリエージュ2021(グラス1,600円、ボトル10,000円)

こちらに合わせたいのは、フランスのオレンジワイン。「フレッシュで飲み心地の良い軽やかなオレンジワインですが、凝縮度はあって黒にんにくのペペロンチーノとちょうどよく合います。酸もしっかりあるので、パスタの油もすっきり切ってくれます」と田村さん。個性のある一皿とワインだが、とてもバランスの良いマリアージュだった。

鴨ムネ肉炭火焼き✕キャンティクラッシコ

かすみ鴨ムネ肉の炭火焼き(2人前4,180円、写真は1人前)

メインディッシュの肉料理には、茨城県・西崎ファームの「かすみ鴨ムネ肉の炭火焼き」。放し飼いされてのびのびと育った鴨は、ピンク色のきれいな色合い。フランス産の鴨と違って、血のような味わいではなく、あっさりした肉質。炭火焼きで皮目はパリッと中はしっとり仕上げられている。極太のアスパラガスとビーツのソースで彩られ、アートのような一皿となっている。

サンジュースト・ア・レンテンナーノのキャンティ・クラッシコ2017(グラス1,900円、ボトル13,000円)

こちらにおすすめなのは、サンジョベーゼの最高傑作との呼び声も高い、キャンティ・クラッシコ。「2017年のキャンティ・クラッシコなので熟成感があって、丸みをおびています。エレガントな味が鴨のムネ肉によく合います」と田村さん。しっかりと凝縮感のあるキャンティ・クラッシコは完成度が高く、ビーツのフルーティなソースをまとった鴨を最高においしく演出していた。

田村さんの「私が恋した自然派ワイン」

ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエールのラ・リュンヌ2022(ボトル14,000円)

田村さんが恋したワインは、自然派ワインのイメージを変えたマルク・アンジェリのラ・リュンヌ。

「サッカパウで働いていたときに、ソムリエに紹介してもらった一本です。それまで自然派ワインというと、にごっていて香りもいまひとつなイメージでした。ところがこちらのワインは、本当にクリーンでナチュラル。

それでいてミネラル感とブドウの凝縮感があって、自然派ワインでも高いレベルを保つとこうなるのか、とその真髄を知ったワインです。店でもボトルで出しているので、ぜひ飲んでみてください」

トレンドを押さえた自然派ワインをラインアップ

VIGOでは世界のナチュラルワインとブルゴーニュ、イタリアのワインが用意されている。自然派ワインはアルザスなどのクリーンなタイプが多いが注目の若手生産者のワインなどもラインアップされている。グラスは希望を伝えれば新しく開けてもらえることもある。グラス6種類(900〜1,900円)、ボトル100種類(5,600〜36,000円)。

1人でもデートでも飲み会でも。さまざまなシーンで利用したい

田村さんはワイン選びも任せられるシェフ兼ソムリエ
目黒川沿いにあるVIGOはビルの2階のこちらの扉から

VIGOには、カウンター席があって1人でふらりと訪れてアラカルトメニューとワインを静かに飲むことができる。もちろんデートにもぴったり。テーブル席や個室ではコースを頼んで仲間と盛り上がるのがおすすめ。とはいえ、店は大きいわけでなく隠れ家的に使えるのもいい。どんなシーンでもはまるので、ぜひ覚えておきたい。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔