見た目が美しい! ストーリー性と創意が詰まった、繊細な料理たち

コースは17,600円。3種のアミューズからスタートし、デザートまで11種類ほどが用意されている。ソムリエの常盤努さんが選んだワインとのペアリングコースもあり、スタンダードは9,600円、日本酒なども加えたプレステージは17,600円だ。
※料理は取材時のメニュー。時期によって変わる可能性あり

「蕪と大根のヴルーテ 卵黄のコンフィ」

アミューズの後に続くのは、シェフからのメッセージと添え書きされた一皿。髙遠さんが描いたという型抜きのチュイールがのっていて、それが心を和ませてくれる。蕪のポタージュの中からは、滑らかで謎めいたテクスチャーの卵の黄身が現れる。加熱では生まれないテクスチャーは、いったん冷凍して調理することで新しい食感を生み出しているのだ。
食材の無駄を出さないために端材をさまざまな料理に活用しているが、こちらもそのひとつ。余った蕪や大根の部位を使い切るための料理でもあるが、クリエイティブな遊び心を付け加えているのがオリヴィエシェフらしい。

 

川井さん

2日間冷凍させた卵をじっくり戻してコンフィに。火は入っていません。本来のコンフィは低温でじっくり火を通しますが、なかなか面白い工夫です。前菜で使いきれなかった蕪と大根をポタージュにし、さらに蕪をかたどったチュイール。実はこれも大根や蕪の茎や葉っぱなども使ってかたどったもの。このデザインはデザイナーである奥様がなさったものです。夫婦合作。サステナブルで食材の上手な使い方にちょっと別の店と違う長所を感じました。もちろんおいしいです。

シンプルでありながら、大胆な発想やひらめきに満ちているオリヴィエシェフの料理。それは日本で出会う食材や日本で食べる料理に触発されて生まれたものだ。そのバックボーンには、長年培ってきたフレンチの技法や北欧の食から学んだ新しい感性などこれまでの経験がある。

「蕪のタルトタタン」

シグネチャーはお菓子のタルトタタンをアレンジした「蕪のタルトタタン」。スライスした蕪に葉や茎のパウダーを練りこんだタルト生地は、醤油やバター、砂糖を使って焼き上げられ、香ばしくて甘い。蕪の葉を上に飾り、余すところなく使っている。

 

川井さん

本来りんごで作るタルト・タタンをここでは蕪で作っています。蕪の持つ甘みと醤油、バターが濃厚でおいしい。もちろん、素材を使い切るサステナビリティへのこだわりも素晴らしいです。

「柏幻霜ポーク・赤海老・菊芋・オゼイユ」

髙遠さんが千葉県出身ということもあり、東京から近くて、農産物が豊かな地元千葉県の食材を積極的に使っている。メインディッシュに使われた柏幻霜ポークは肉のきめが細かく、繊維が柔らかくて霜降りがあるのが特徴だ。豚のロースに赤海老を詰めているのが印象的で、ビスクと酸味のあるオゼイユの2つの対照的なソースを合わせている。

キューブ状の自家製ブリオッシュと一緒に提供される

次々と現れる料理は好奇心を刺激し、コースが進むほどにシェフの世界へと引き込まれていく。それはデザートまで続くのだ。中でも「お米のデザート」はその代表。つるりとしたベールに使われているのは千葉県の「露崎味噌・糀店」が作るナチュラルな甘酒。下には、オルチャータのまろやかなアイスクリームが隠され、そこに軽やかなポン菓子の食感が加わっている。ミルキーなオルチャータソースをかけていただくと、さまざまな食感が口の中で絡み合い、笑顔を誘う。

「お米のデザート」
 

川井さん

見たことのない料理で、一つひとつに小さなサプライズがあって楽しいです。それだけでなく、味わいは優しくおいしくクリエイティブ。

入り口にある、スタイリッシュな店名ロゴ

スタイリッシュでありながら、温もりのある接客にも心安らげる。窓からちらりと見える東京タワーの夜景や広いテラスなど、ロケーションの魅力もたっぷりだ。

世界を旅したシェフが、日本と出会って生まれたどこか懐かしくも新しいフランス料理。「挑戦をおそれない」というオリヴィエシェフがこれからどう進化していくのかも楽しみで、早くも話題の新アドレスとなっている。

※価格はすべて税込

文:岡本ジュン、食べログマガジン編集部 撮影:片桐圭