〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

自家製ピッツァが自慢のイタリアン

内観

東京で屈指の高級住宅街である文京区・白山は、実はイタリアンが密集する街。「シチリア屋」「ヴォーロ・コズィ」「トラットリア ダディーニ」といった名店が並ぶ。なかでも近隣の家族連れに支持されているのが「ミラン」。2010年に白山駅前でオープンした後、2023年5月に白山通り沿いに移転し、赤いピッツァ窯を新調してピッツァを中心としたイタリアンとして再スタートを切った。

店主の本田健吉さんとサービスを担当する本田真奈美さん

ミランを切り盛りするのは、シェフの本田健吉さんとサービスの本田真奈美さん夫婦。2010年のオープン当初は店の常連だった真奈美さんが、健吉さんとの結婚とともにスタッフに。独立前は仕事柄、不規則な食生活を送っていたという健吉さんだが、真奈美さんが加わってから食材を吟味し、店で提供するようになったという。

ワインセラー

二人が共通して好きなのが、自然派ワイン。健吉さんは2012年頃にシェフ仲間のすすめで自然派ワインの祭り「FESTIVIN」を訪れ、どハマりして以来、ミランでも少しずつ提供をスタート。世間の自然派ワインの定着とともに割合を増やしていき、現在ワインは自然派ワインだけを提供している。ワインセラーには昔からストックしておいた貴重な生産者のワインもあり、好きな人なら「飲んでみたい!」と思う銘柄がいくつも並んでいる。

アジと甘夏のサラダ✕スパークリングワイン

アジの甘夏のサラダ(1,600円)

前菜のおすすめはたっぷりのハーブミックスが盛られた「アジと甘夏のサラダ」。皿の上には、わさび菜やからし水菜、ルッコラなどがどっさり。これらは山梨の「うえのはらハーブガーデン」から届き、季節ごとに異なるハーブミックスが使われている。こちらは、ほろ苦さと香ばしさがしっかりとあるルッコラをはじめとしたハーブと、大きめに切られたアジ、甘夏がレモンドレッシングで爽やかに味付けされた一品。ローストしたアーモンドものせられ、楽しい食感が味わえるサラダとなっていた。

ディヴェッラ・アレッサンドラのブラン・ド・ブラン ドサッジョ・ゼロ 2019(グラス1,400円、ボトル8,400円)

サラダに合わせたいのは、イタリアのスパークリングワイン。「1杯目は乾杯もあわせてスプマンテがおすすめです。こちらは酸味が強いタイプなので、柑橘やアジを引き立ててくれます」と真奈美さん。キリッとした伸びのある酸が脂ののったアジや甘夏の甘みを爽やかにしてくれる組み合わせで、食事のスターターとしてもぴったりだった。

山菜のピッツァ✕ほろ苦オレンジワイン

自家製ストラッチャテッラチーズと山菜のピッツァ(2,800円)

ミランに来たら必ず頼みたいのがピッツァ。ピッツァ生地は5種類の粉から作られ、48時間熟成。生地の加水率は83%で、かなり軽く食べられるようになっている。この手法は健吉さんがいろいろ試した結果、たどり着いたもの。生地にはイタリアと日本の粉が使われ全粒粉も入っているため、生地だけでも味わい深い。ミランには約8種類のピッツァメニューがあり、マルゲリータなどの伝統的なピッツァもあるが、季節ごとのオリジナルピッツァも用意されている。

自家製のストラッチャテッラチーズがとろーり!

「自家製ストラッチャテッラチーズと山菜のピッツァ」は春だけの限定メニュー。ピッツァ生地の上に、刻んだふきのとう、せり、こごみ、わさび菜、うるいをのせて焼き上げ、自家製ストラッチャテッラチーズをのせたら完成。ストラッチャテッラチーズとは、ブッラータチーズを割ったときに出てくるフレッシュチーズのこと。焼き立てのピッツァにのせると余熱でとろとろになり、山菜の上でミルキーにとろけていく。

イル・チェンソのプラルアール2020(グラス1,300円)

山菜のピッツァにあわせたいのは、イタリア・シチリア州のオレンジワイン。「ミランのピッツァ生地は味がしっかりしていますし、山菜に苦みがあるので、味の濃いオレンジワインがおすすめです」と真奈美さん。山菜は刻んであるためシャキシャキした食感で噛むほどに苦みが出る。それを軽い食感のピッツァで食べるとミルキーなチーズの味が山菜の苦みに重なって絶妙の味に。果実味や旨み豊かで、タンニンもしっかりあるオレンジワインとの組み合わせは、ほろ苦さを堪能し尽くせる大人のアッビナメントだった。

牛肉のタリアータ✕深みフルーティ赤ワイン

富士山麓牛のもも肉のタリアータ(2,500円)

肉料理のおすすめは「富士山麓牛のもも肉のタリアータ」。「富士山麓牛は、富士山麓でのびのびと育った赤身がおいしい牛肉です。シンプルにタリアータにして、バルサミコソースをかけています」と健吉さん。つけあわせにはじゃがいもと九条ねぎが添えられている。

ラ・カッシネッタのバロルド・バルベーラ・ダスティ2021(グラス1,400円、ボトル8,400円)

タリアータにおすすめなのは、イタリア・ピエモンテ州の赤ワイン。「ラ・カッシネッタのバロルド・バルベーラ・ダスティは、味わいがしっかりしていながら、飲み心地がいい赤ワインです。後味もしっかりして深みがあるので、赤身によく合います」と真奈美さん。果実感がのってフルーティーな味が、甘みのあるソースにもマッチしていた。

本田さんの「私が恋した自然派ワイン」

ダミアンのリボッラ・ジャッラ(グラス1,600円)

本田真奈美さんが恋した自然派ワインは、初めて飲んで驚いたオレンジワインをあげてくれた。

「ダミアンは飲んだときのおいしさが衝撃的で、2013年から買い続けています。インポーターさんにも『日本で一番、ダミアンを買ってるレストランかも?』と言われるほどです(笑)。

ダミアンのリボッラ・ジャッラは、ブドウの旨みを余すところなく感じられるオレンジワインです。貴腐ブドウを使っていますが、甘いだけではなくミネラルや柔らかさもあってバランスが良く、しっかりしたワインではあるけどするする飲めます。グラスでそのまま飲んでもおいしいですが、食事にあわせるとよりワインの良さも広がるワインです。値段的には少し高いですが、グラスで提供しているので、ぜひこのクオリティのワインを一度は飲んでいただきたいと思います」

イタリアとフランスのワインを中心にラインアップ

ミランではワインセラーにぎっしりワインが並び、真奈美さんが古くから買い集めた入手困難な生産者のワインが目を引く。とはいえセレクトの中心は、初めての自然派ワインを飲む人でも飲みやすい、食事に合うワイン。実際に試飲会に行ってテイスティングをして、品質に見合った価格のワインが選ばれている。ワインはイタリア、フランス、スロベニアなどのものが多い。ボトルは100種類(5,000〜20,000円)、グラスは15〜20種類(800〜2,000円)と豊富に用意してある。飲んでみたいタイプを真奈美さんにリクエストしてみよう。

白山通り沿いのすっきりとしたロケーション

ミランのある白山通りは、片側4車線ある広い通りになっている。「僕は海の前に店を持つのが夢でした。白山通りは海ではありませんが広くて見通しがいいので、最高のロケーションです」と健吉さん。

外観

店内からは通りの様子を見ながら食事することもでき、外には小さな立ち飲みスペースもある。これからの陽気な季節はピッツァをつまみに自然派ワインを飲んで、ミランで心地よく過ごしてみよう。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔