〈静岡グルメかくありき〉第2回

朝から晩まで、静岡ずくめ。静岡限定グルメで食い倒れる、一日をプランニング

近くておいしい静岡市のとっておきグルメを3回にわけて紹介する短期集中連載、第2回のテーマは、静岡の地域限定グルメ。駿河湾でしか捕れない桜えび、まぐろが有名な清水での鮨三昧、黒おでんにもつカレーと、ここでしか食べられないスペシャルグルメを味わいつくす、欲張りな一日をプランニング。

地元の人が太鼓判!地域限定グルメを味わうなら、ハズさないこの4店で決まり

今回おさえたい地元グルメは「海鮮」「黒おでん」「もつカレー」。取材にあたり、地元の人からの評判が高いお店をリサーチし、数ある候補のなかから選んだのがこちらの4軒。漁港近くの食堂から横丁まで、地元の人が足繁く通うハズレなしの名店&必食メニュー揃いでお届けする。

 

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ランチは、まぐろ鮨と、桜えびずくめの二択。どちらを選ぶ?いえ、両方でしょう!

静岡に行ったらやっぱり魚! なかでもマグロは、せっかくなので、職人が握る贅沢な鮨でいただきたい。静岡限定食材の代名詞、桜えびも食べずには帰れない。決めかねるなら、現在春漁が行われている桜えびは、超繁忙期で行列必至なのでオープン同時に訪れてブランチにし、まぐろ鮨は遅めの昼食にする、なんて食い倒れプランに挑戦してみるのもおすすめ。

使うのは生まぐろのみ。職人の技がおりなす鮨の味に惚れる至福のひととき

1. 清水区清水 江戸前鮨「江戸銀」

「江戸銀」の大将・佐藤利幸さんは、江戸前鮨の職人。偉大な鮨職人、初代・近藤銀造が、大正13年に自分の名前の1文字“銀”をとってつけた屋号、“江戸銀”の暖簾を受け継いでいる。厳しい修行を経験したのちに独立。東京・中目黒に自分の店を持っていたが、5年前JR清水駅直結の、「河岸の市 まぐろ館」内に「清水江戸銀」を開店させた。

 

だが佐藤さんによると、江戸前鮨と清水の鮨は、全く違うそうなのだ。「こちらは魚を下ろしたらすぐに食べますが、江戸前はシャリに合わせて魚を熟成させるために、ひと仕事ふた仕事します。魚にはすぐに食べておいしい魚と、寝かした方がおいしい魚がありますから、それを見極め、提供するのが江戸前の鮨職人の仕事です」

「まぐろづくし上(6カン+中巻き)」2,500円

 

「最もおいしい生のまぐろを食べていただくこと」が大将のモットー。だから使うのは常に生まぐろのみ。そのため時期によって産地が変わり、この日はインド洋産と気仙沼産。トロを中心に、赤身や背トロ(背ビレの下の部分)などの部位違いのネタも並んでいる。中巻きのまぐろは、はみ出すほど巻かれていて豪快だ。

 

鮨を口に入れた瞬間、ふわっとまぐろのいい香りが鼻に抜け、口に広がった。すると、空気を含ませて握られたシャリが、噛んでもいないのに解け出していく。「口の中でネタと一体になって、初めて鮨になるんです。それが江戸前の鮨なんですよ」と大将。江戸前の技に心から感動しつつも、あまりのおいしさに箸も止まらない。数種類の、最高のまぐろを味わえるので、まぐろ好きは絶対に食べるべき一品だ。

シャリを取り、握り終わるまでがとにかく速い。無言で、無駄のない動きで、次々に握る。その姿にはつい見惚れてしまう。
「魚はみんな、“自分はおいしい”と思って泳いでいます。そして“一番おいしい方法で、人間に食べてもらえ”と私たちに言ってくる。自分たちはそんな魚の声を聴き、心の中でお客さんが満足していただけるよう思いながら、黙って握っているんです」

「今日のマグロは、磨いたあとで(周りの皮などを取り除いたりして、身を綺麗にすること)、一週間寝かしています」。仕込み方は、捕れた時期、魚の状態によって異なるそう。

江戸前鮨と清水の鮨の一番の違いは、シャリ。清水は甘めのシャリになるが、江戸前鮨は赤酢と塩を使い、甘くしない。色も写真のように少し茶色っぽくなる。「ウチでは、ヨコ井の『與兵衛』という、本来の江戸前鮨が使う赤酢を使っています。一番マグロに合っているのも赤酢のシャリで、鮨全体がまろやかになります」。米は、山形のはえぬき。

地元で捕れた魚も1〜2品がセットになった「本日のおすすめ握り(9カン)」3,300円

 

この日のネタは、気仙沼産のマグロ、駿河湾産のメジマグロ、アジ、イサキ、エビ、アオリイカ、北海道のイクラ、三保産のタチウオ。できるだけ地元の魚も1〜2品は入れたいと思っているそうだが、納得できなければ築地や川崎から直接取り寄せているそう。こちらもやはりネタ一つ一つに細かな仕事がなされていて、口の中でネタとシャリが一体に。

 

また、ビッグサイズの卵は、暖簾分けの店の本店と同じレシピの、地養卵を使用したもの。ガリは、築地にオーダーしている丸のままの酢生姜をスライス。通常は常連さんのみに提供しているものなので、ガリ好きな人は頼んでみては。

 

「まめに通ってくれるご近所の方、東京はもちろん、名古屋、鹿児島、沖縄など、遠方から清水まで、わざわざ私の鮨を食べに来てくれる人がいる。それは本当にありがたい。最初は『静岡なのに江戸前?』と思うかもしれませんが、食べてもらえれば、この鮨のうまさはわかってもらえると思います」と大将。一緒に働いている娘さんによると、「頑固さは天下一品」らしい。

港町・清水で、江戸前鮨のおいしさを伝え続けている職人の心意気。丁寧な職人の技、一級の味を堪能しに、次の休みは、清水までちょっと足を延ばしてみてはいかがだろう。

旬の桜えびをとことん!漁港近くの人気食堂は行列の絶えない実力店

2. 清水区由比「浜のかきあげや」

「漁師の沖漬け丼セット」1,000円

 

日本では唯一、静岡県の駿河湾だけで水揚げされる桜えびは、静岡グルメを語るうえではずせない食材。桜えび漁が盛んな由比漁港で水揚げされたものを提供する食堂として、平成18年にオープンした「浜のかきあげや」。「桜えびのかき揚げを多くの人に食べてもらいたいと始めましたが、お客さんからのリクエストを取り入れていくうちにメニューが増大。そんな中で生まれたのが〈漁師の沖漬け丼セット〉です」と、由比港漁協の出羽義昌さん。

 

沖漬け、かき揚げ、味噌汁で、異なる桜えびの甘みと香りを味わえるお得なメニュー。途中で昆布だしを入れてお茶漬けにし、味に変化をつけられるのも楽しい。コメは静岡コシヒカリ、味噌も静岡産を使用。

春漁の桜えびは、大きく育っている時期なので、しっかりとした歯ごたえがあるのが特徴。早起きをして、今しか食べられない、ピンク色の海の恵みを召し上がれ!

かき揚げは、桜えびがびっちり詰まったサクサクジューシー、とっても香ばしい仕上がり。最小限のツナギ(小麦粉)だけで薄く揚げられるよう、最初に桜えびと小麦粉だけで混ぜ、その後で水を足して柔らかさを調整。刻んだネギも入れて、さっと揚げれば出来上がり。

「桜えびドーナツ(4個入)」250円

 

ドーナツミックスに、丸のままの桜エビを混ぜ込んでいるため、ほんのりした甘さとともに、エビの風味が強く感じられる。数量限定商品で、毎日売り切れてしまう人気商品。

目の前の由比漁港を眺めながら食べる桜えび料理は、格別のおいしさ。海風と太陽もスパイスに!

また、現在、桜えびの春漁期間(6月初旬頃まで)なので、平日でもかなりの混雑が予想される。週末は一時間以上待つことも。桜えびのかき揚げ以外は、売り切れになることもあるので、早めに訪れた方が安心。

15時のおやつは、静岡おでん&本格やきいもを

3. 葵区東草深町「大やきいも」

明治時代、詳しい時期は不明だが、やきいも屋として店を始めたそうで、100年以上の歴史を持つ名店だ。「大やきいも」という店名は、この店の名物、大窯で焼くやきいもに由来する。4代目店主・中村修身さんが子供の頃は、学校帰りの学生たちが、おやつ感覚でおでんを食べながら集う場だったそうだ。

「“おでんは80年前には販売していた”という話を、ご年配のお客さんから聞いたことがあります」。店の歴史を示すものは残っていないが、店の雰囲気は、家具類の配置も含めて、中村さんが子供の時と何も変わっていないという。

家業を継ぐと決めた時、中村さんは「この雰囲気をできる限り変えずにやっていこう」と心に決めた。変わらないことで不便なこともたくさんあるが、簡単だから楽だからと新しいことを取り入れた結果、やきいもやおでんの味、店の空気感が変わってしまうのが嫌だったのだ。古くから地元の馴染み客に、「当時と全然変わってないね」と言ってもらえるのはうれしいし、この店のためにもなると感じたという。

やきいも 100g/200円(仕入れ状況により、変動あり

 

やきいもは、焼き窯に塩を敷き、その上にカットしたさつまいもを置いて焼き上げるので、ところどころに焦げた香ばしさが残る。ほんのり塩味にもなるので、より甘みを引き立たせるのもこの店ならではの伝統の味。取材時、販売していたのは、ホクホクした素朴な味の紅あずまと、ねっとりしっとりした紅はるかの2種。友達とシェアして、味比べをするのも楽しい。*時期によりさつまいもの種類は変わる。

 

焼き窯は、かなり旧式のタイプ。さつまいもの状態、気温でも焼き方が変わリ、木屑を燃料としているので、焼いている約30分間は窯の前を離れられない。やきいもの職人は中村さん一人。負担も大きいが、「このスタイルを変えてしまうと、うちのやきいもじゃなくなる。言葉ではうまく言えませんが、このやり方を貫くことに大きな意義があると思っています」

中村さんが焼くやきいもは、焼きたてはホックホクでジューシー。でも、冷めても味が引き締まって、違ったおいしさが出る。商品は全てテイクアウトできるので、少し多めに購入し、半分はお店で焼きたてを食べ、残りはお土産にするのもおすすめ。

「私が理想とするやきいもは、甘みがあり、柔らかく食べやすいこと。教えてもらった焼き方よりも長めに火を入れ、もっと柔らかく、もっと甘くなるようにと工夫しています。だから、店でやきいもを食べた後、『おいしかったからもっと買って帰る』と言ってもらえると本当にうれしいですね」と、照れながら話してくれた。

大学いも:写真は300円。ほかに、ほかに、200円、400円、500円、800円(箱入り)がある。

 

大学いもは、外はカリッと中はしっとりとした、小細工なしの王道スタイル。揚げたさつまいもの風味と、秘伝の蜜の甘さのバランスが絶妙な一品。ちなみに、ゴールデンウィークから始まるかき氷のシロップ(イチゴ、メロン、レモン、カンロ)も企業秘密。販売中にぜひ味わいたい。

真っ黒い出汁と、串に刺さったおでんネタが特徴の静岡おでん。一見、味が濃そうなイメージだが、食べてみると実にあっさりしていて、何本でも食べられてしまう。魚の削り節と青のりが混ざった粉状のふりかけも、忘れずにトッピング。

 

「おでんネタは、出汁を出してくれるものしか入れない」が、おでんのモットー。こちらも先代から受け継がれていることで、「注ぎ足しの秘伝の出汁には、ネタの旨味が凝縮される。だから出汁を薄めてしまう大根は入れません」。

牛すじ130円、おでん各種90円(写真左より:じゃがいも、コブ、卵、牛すじ、黒はんぺん)

 

子供の頃、おでんが食べ放題だった中村さんに、お気に入りのおでんネタを教えてもらった。
「静岡ならではのネタなら、黒はんぺんと牛すじ。じゃがいもも、滑らかなイモとあっさりした出汁の相性が最高です。また、理由はわからないのですが、先代は、おでんを食べるときは必ずコブも食べなさいと言っていたので(笑)、今もその習慣は残っていますね」。そこにその時の気分で、卵や練り物も加えるそう。
やきいもやおでん、店の佇まい、考え方まで、先代達が守ってきたものを大事にし、守り継いでいる中村さん。その思いが詰まった店内で食べる静岡おでんややきいもは、懐かしい子供時代へと心を引き戻してくれそう。

 

静岡で“アペ”するなら、もつカレーと焼き鳥で

4. 清水区真砂町「金の字」本店

静岡のソウルフードといえば、B級グルメとしても有名なもつカレー。その元祖が、この「金の字本店」だ。昭和25年、初代の杉本金重さんが、名古屋のどて煮と、兵隊仲間から教わったカレーを組み合わせて考案されたメニューで、その後、初代の息子の重義さんが二代目を、孫にあたる要平さんが三代目を務め、当時の味を今に伝承している。

酒が進み会話が弾む、もつカレーの元祖「金の字本店」で、まずは一杯!

店内はカウンターのほか座敷もあり、全部で40席ほど。すぐにいっぱいになるので、できれば予約を。料理は全品テイクアウトできるので、帰りの電車のつまみにもいい。

 

取材で訪れたのは平日の夕方5時だったが、すでにお馴染みさんらしき男性が数名、もつカレー煮込をつまみながらほろ酔い気味に。店が取材されるとわかると、「いい写真を撮って、ちゃんと紹介してくれよ!」と笑顔で声をかけてくれた。要平さんによると、「皆さん、まずここで一杯やってから食事に行くんですよ。一次会の前の、0次会ですね(笑)。女性同士のお客さんも多いですよ」。静岡ナイトを満喫するなら、まずもつカレーで一杯やってからくりだすのが正解なのだ。

もつカレー煮込 一本150円

 

口に入れると、最初に香ばしいカレーの香りとスパイシーな味が食欲を刺激し、その後でもつの風味がふわっと広がる。これはビールに合わないはずがない! カレーがしっかりもつに染みるほど煮込んでいるのに、柔らかすぎない絶妙な食感も、おいしさの秘密のひとつ。

 

もつは下処理に手間がかかる食材だが、金の字でも、時間くらいかけて丁寧に行っている。大量の生のもつを洗ってから下茹でし、さらにまた洗い、水気を軽く切ってから裁断。その後でやっと串に刺す。

カレールーは自家製で、調理担当は要平さんだ。小麦粉、カレー粉、ラード、にんにくを練りながら焼いていくのだが、独特の香ばしさが出るのはそのためだ。だが、使用するのは前日に作って、寝かしておいたルー。香味野菜と鶏ガラでとったスープにそのルーを溶かして伝統のカレースープを作り、もつを入れて煮込んでいく。準備から調理まで、毎日約7時間はかけているというから驚きだ。

もつカレー煮込を食べると、とろりとしたカレールーが皿に残る。「ほかに焼き鳥や、ドレッシング抜きのオニオンスライスをオーダーしてつけて食べる方もいますね。常連の方だと、下味だけの焼き鳥を注文されて、それにルーをつけている方も。特に決まりはないので、自由に食べていただければと思います」と要平さん。

 

焼き鳥各種 一本150〜180円 静岡麦酒(生中)550円

焼き鳥メニューも充実。おすすめを尋ねたところ、定番の人気串から珍しい串までをセレクトしてくれた。要平さんレコメンドは、(手前の皿・左より)とり串、つくね、アカ(豚の脾臓でレバーに似た味わい)、もつ焼き、(奥の皿・左より)砂肝、ねぎま、豚にんにく、レバーの8種。

 

幅白い種類のお酒を扱っているが、せっかくの静岡グルメ旅なので、やはり県内限定の生ビール、静岡麦酒をグビッとやりたい。香りが良く、泡が細かくて繊細な味わいで、もつカレー煮込や焼き鳥にもぴったり。

子供の頃から、この店を継ぐのが夢だったという三代目の要平さん。「伝統の味を守りながらも、よりおいしくしたいという気持ちも、正直あります。同じレシピでも、料理人が違えば味は変わる。だから、“変わった”と言われるのはいい。でも、“味が落ちた”とは言われないようにと思っています。うちのカレー煮込を食べに、遠方から来てくれる方もたくさんいます。地元の人も、はるばる来てくれた人にも、“食べに来てよかった”と思ってもらえるようなものを、これからも作り続けたいですね」

静岡グルメ旅のシメは、やっぱりおでん。名物店主のいるあの店へ

5. 葵区常磐町「おばちゃん」

杉浦孝さんが営むおでん屋「おばちゃん」は、開店するとすぐにお客さんでいっぱい。表まで杉浦さんとお客さんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる、アットホームな雰囲気が魅力の店だ。以前もおでん屋を開いていたが、地元の人だけでなく、観光客など、静岡おでんを知らない人にももっと食べてもらいたいと、2009年11月にこの店をオープンした。

 

昭和44年にできたノスタルジックな雰囲気漂う青葉横丁には、17軒もの静岡おでん屋が並ぶ。杉浦さんに店名の由来を尋ねると、「『おじちゃん』じゃ誰も入ってきてくれないでしょ?(笑) この横丁、すごく魅力的だと思うんだけど、ちょっとディープな雰囲気もあるからね。でも店の中を覗いて、こんな割烹着を着たおばちゃんスタイルの僕がいれば、これなら寄っていってもいいかなって思ってもらえるかなって。だから僕は、ちょこちょこおでんをつまんで、このユニフォームが似合う体型を維持できるように努力しています(笑)」。

杉浦さんとのたわいない会話と、優しい味わいの静岡おでんの組み合わせには、ほかでは味わえない不思議な癒やし効果が。そんな心地いい空間に引き寄せられてか、今では観光客や出張中のサラリーマン、また名古屋に向かう電車を途中下車までしておばちゃんを訪れる客も増えているという。「そこまでして食べに来てくれるなんて、うれしいよね」と、おばちゃんぽく優しく微笑む杉浦さん。

牛すじから取った出汁を注ぎ足しながら、しょうゆのみで味をつけている杉浦さんの静岡おでんは、とてもホッとする味。ネタは常に、だいたい25品くらいは揃えているそうで、「こんなにネタの種類がある店は、そんなにないんじゃないかな」とのこと。

「牛すじ」150円、「おでん各種」100円、「おばちゃんラベルワンカップ」500円

 

人気は、練り物などの出汁を吸ってくれるネタ。静岡おでん初心者にすすめるなら、「まずは牛すじと黒はんぺん! あとは、柔らかな食感のふわ(牛の肺)、揚げてないさつま揚げみたいな白焼き、もちっとした噛み応えの白身魚のさんかく、練り物に油揚げが巻いてあるしのだ巻きかな。おでんには、青のりとサバやイワシの削り粉が混ざったふりかけをかけて食べてね。カツオ粉に七味唐辛子が入ったふりかけは、ピリ辛が好きな人向けです」

 

「おばちゃん」ラベルが貼られたカップ酒は、浜松市浜北区にある花の舞酒造にオリジナルラベルをオーダーしたもの。「静岡おでんに、静岡の地酒を合わせてもらえたらと思って作ってみました。個人的には、おでんにはやっぱり、気取りのない本醸造が一番合うような気がします」

「静岡のお茶」300円

 

「静岡といえばお茶。きちんとしたものを飲んでほしいから、掛川の深蒸し茶を、八時間くらいかけて水出しで入れています」と杉浦さん。水出しならではのまろやかな口当たり、深く出たお茶の味と香りは、ここでしか飲めない最高の一杯。お酒が飲み合い人には、このお茶を使った焼酎の「静岡割」400円もおすすめだ。

「ここで過ごす時間も楽しんでほしいから」と、店内にはお客さんへの気配りがいっぱい。おみくじの箸袋、カウンターにびっしりと貼られたお客さんが名前を書いたラベルシールなど、一人飲みでふらっと立ち寄っても、自然に会話が盛り上がる工夫があちこちにある。ラベルシールには、「剥がれ落ちる前に、また来てね」という、杉浦さんの思いが込められているのだそう。
壁には富士山の被り物も。意外なことに、これが海外からのお客様に大人気で、店に入るなり、「これこれ!」と被って写真を撮る人も。

オープン当初から置いている都道府県別のメッセージノートは、今は韓国や台湾なども加わり、どんどん増えている。綴られているたくさんの旅の思い出を読んでいると、幸せのおすそ分けをしてもらった気分に。

「静岡に遊びに来てくれた人たちが、おでんを食べたりお酒を飲んだりしながら盛り上がって、楽しい思い出を増やしてくれるのが僕の理想なんだよね」。「おばちゃん」に来れば、静岡グルメだけでなく、楽しいおしゃべりができる誰かにも出会えそうだ。

写真:本多康司
取材・文:神山典子