〈静岡グルメかくありき〉第1回

近くておいしい静岡へ、いざまいらん!

今、グルメ旅のディスティネーションとして静岡市を訪れる人が増えているという。一年を通して過ごしやすい温暖な気候のせいだろうか、“のんびり”した雰囲気が漂うなか、一口食べればうなる、話を聞けば歴史が息づく、そんな名店が数多く存在する。

 

駿河湾から南アルプスまで南北に広がる静岡市は自然に恵まれ、海の幸を筆頭に地産食材の宝庫。さらに、家康公が晩年を過ごした地として、また東海道の宿場町として、多くの旅人が往来するなど、歴史的にも文化が栄えた場所。そんな、バックボーンが育んだおいしい食文化が“当たり前”にあるからなのか、主張知らずのグルメスポットが満載。さらに、見るだけでパワーがみなぎる富士山と、旅先としても魅力的。都心から新幹線「こだま」で約1時間30分、「ひかり」なら約1時間で到着。関西方面へ出かける際に立ち寄りグルメを楽しむもよし、週末にふらり訪れるもよし。近くておいしい静岡市のとっておきグルメを3回にわけて紹介します。第1回は、いま再注目の「あんこ」スイーツを求めて、興津へ。

和菓子好きなら訪れたい、“あんこのふるさと”

日本の製あん業発祥の地である興津。明治時代、興津出身の北川勇作が機械による製あん技術を確立。同じく興津出身の内藤幾太郎が北川を援助しながら開業をし大日本製餡組合の創立発起人となり、全国へその技術が伝承された。今のように、あんこを日常的に楽しめるようになったのは、製餡業の発展があったからこそ。そんな“あんこのふるさと”興津で見つけたのは、その歴史が生まれるのも納得の、あんこに一家言あるお店とあんスイーツ。どれも、わざわざ足を運ぶ価値大の絶品揃い!

北川勇作、内藤幾太郎を祀った「製餡発祥の碑」は、承元寺町の八幡神社にある。和菓子好きなら訪れたい。

 

宮様方に愛された銘品、「宮様まんぢう」

1. 宮様まんぢう本舗 潮屋

西園寺公望、伊藤博文、井上馨ほか、明治から昭和にかけて活躍した政治家たちの別荘地として栄えた興津。江戸から数えて17番目の宿場町として東海道を行き交う人々ので賑わう、華やかで“ハイカラ”な町でもあった。そんななか、皇太子時代の大正天皇がお気に入りだったことから名付けられた「宮様まんぢう」は、今なお多くの人を魅了する。

幼少であった皇太子でも食べられるようにと作られた「宮様まんぢう」は、ころんとした一口サイズ。自家製の酒種を用いた昔ながらの製法を用い、ほんのりと酒の香りをまとった独特の優しい風味。ふんわり薄皮に包まれるのは、ほどよい甘さのあんこ。上品でクセのない味わいは、さまざまなシーンで老若男女問わず楽しめる。手土産としてはもちろん、毎日でも食べたくなる飽きのこない仕上がり。

風味を存分に味わうなら、その日の内に食べるのがベスト。皮が硬くなったら、薄く衣をつけて天麩羅にしたり、そのまま焼いても美味。

「宮様まんぢう」を通して、興津の歴史を後世に伝えていきたいと語る、5代目店主の小澤智弘さん。先代より受け継がれた味と看板を守りながら、宮様まんぢうを厳選した米油で揚げた「あげまんぢう」や、こしあんにバターや生クリームを練り込みパイ生地で包んだ洋風の焼菓子「ぱいぽーと」を展開するなど、次世代にむけた和菓子作りも欠かさない。

代々受け継がれている、当時のお品書き。井上馨御用達の旨が記されている。

ご進物としても人気の、「宮様まんぢう」は25個入り、600円から。一番大きいサイズは、143個入りで3,600円。

静岡県静岡市清水区興津本町27-1
TEL 054-369-0348
営業時間 8:00〜19:00
定休日 火曜日

 

あんこ舌の肥えた“興津っ子”が好む、絶品たいやき

2. 興津のたいやき屋

興津の人に愛され続けている“ワンハンドあんスイーツ”といえば、こちらの鯛焼き。みかん農園を営む夫のを手伝うかたわら妻がはじめたのがきっかけ。以来、お嫁さんが後を継ぎ、今は三代目の伏見まゆみさんが切り盛りする。静岡市外のほか、東京、横浜からもこの味を求めて買いにくるほど人気のお店。

あんこは、尻尾までふんだんに詰まっている。「どうせならあんこは多いほうがいいでしょ」と、まゆみさん。笑いながら鮮やかな手つきで、手際よく焼き上げる。型はオリジナル。

あんこは、すべて手作り。一晩寝かせることでコクを出すなど、3日かけて仕込まれる。原料は北海道産の小豆、砂糖と塩のみなので、子どもでも安心して食べられるのがうれしい。

お値段は、なんと100円! 焼きたてが一番だが、時間がたってしっとりしたものもまた違った味わいでおいしい。ぜひ、食べ比べを。持ち帰りの際は、経木に包まれるのも風情があっていい。

四代目候補のさくらさん(写真左)と、まゆみさん(写真右)。この笑顔を求めてくる人も多いのでは?

静岡県静岡市清水区興津中町1903
TEL 054-369-2020
営業時間 10:00〜17:00
定休日 不定休 ※8月1日〜9月中旬は休み

 

33年前から愛される、生クリーム&あんこの先駆け「Nama Dora」

3. ふなじ うしほ屋菓子店

大正のはじめに創業した和菓子の老舗が誇る銘品は、生クリームとあんこをサンドしたどらやき。あんこと生クリームの組み合わせは今でこそ定番だが、こちらはその先駆け的存在で、誕生は33年前にも遡る。三代目が和のものと洋のものを組み合わせた新メニューをと、生クリームとあんこを合わせたことがきっかけ。発売するやいなや一世を風靡し、たちまち看板商品に。多いときは一日に1000個以上売れたとか。

 

 

生クリームは、乳脂肪分45%のフレッシュクリームを使用しコクがある。低農薬の天日干しの小豆を使用したあんこは、コクのある生クリームに合わせて柔らかく甘さ控えめに、また小豆の風味が残るようつぶあんにした。これらはどらやきならではの軽めの生地と好相性。

写真左)生クリーム 120円 写真右)生クリームとあんこ 140円(ともに税別)

 

商品名の「Nama Dora」は商標登録されている。メニューは生クリームのみと、生クリームとあんこの2種類で、基本は店頭販売のみ。一日で届く距離なら電話注文にも応じてくれる。

 

 

シュークリームは隠れた逸品。昔ながらのしっとりした軽めの生地で、カスタードと生クリームを合わせたリッチなクリームをサンド。バニラビーンズがたっぷり入って120円(税別)!

 

「真面目にお菓子作りをしているだけ。材料にこれを使ってます、あれを使ってますとあえて言うのは苦手。食べてもらえばわかる」そう語るのは三代目(写真左)。写真右は四代目。

 

 ※この記事に掲載の情報は2018年3月取材時のものです
写真:本多康司
取材・文:吉村セイラ