〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

ワインショップ併設ならではのうれしいサービス

外観

大塚駅近くの春日通り沿いにある「kawasemi」は、シャルキュトリやパイ包み焼きなど手の込んだ料理が自慢のビストロ。通りからガラス張りのウォークインワインセラーが見えているとおり、ワインショップ兼ビストロでもある。「じっくり仕込む料理が多いので、料理人もソムリエもお昼からお店にいます。せっかくなので、ソムリエが接客してワインショップとして小売もしているんです」とソムリエの伏見由衣さん。

併設のワインショップ兼ビストロのワインセラー

ワインショップであり、ビストロのセラーでもある庫内には常時200種類以上、1,000本のワインがずらり。種類豊富なワインショップがビストロに併設されていることで、メリットは2つある。1つは小売価格に2,500円の抜栓料を支払えば店内で飲めるため、通常のレストランよりもリーズナブルにボトルを開けることができるところ。

2つめはコラヴァン*が導入されているため、セラー内の200種類以上あるワインから好きな銘柄を選んでグラスワインとして開けられるところ。セラーの中で気になったワインがあれば自由に選べるのだ。白ワイン、オレンジワイン、ロゼワイン、赤ワインと、いろいろなワインをグラスで飲みたい人には夢のような体験ができるだろう。

*コラヴァン……コルクを抜かずにワインが注げるツール。1カ月程度ワインの酸化を防ぐことができる

左からソムリエの吉川恭平さん、同じくソムリエの伏見由衣さん、シェフの亀井優さん、料理人の菊地孝一さん

2022年8月にオープンしたばかりの店だが、系列店の池袋「iitoki」などで一緒だったスタッフが多く、シェフとソムリエの連携もバッチリ。「ワインは自然派が中心ですが、亀井シェフの料理は伝統的なビストロ料理でソースもしっかり作っているので、クラシックなワインにも合います。お客様にペアリングを頼まれたり、ワインの相談をされた時には、ナチュラル・クラシック問わず料理の個性と季節感を汲み取ってご提案しています」と伏見さん。コースにもアラカルトにもぴったりの一本を2人のソムリエが見つけてくれる。

シャルキュトリー盛り合わせ✕スパイシーなオレンジワイン

シャルキュトリー5種の盛り合わせ(1,780円)。上から時計回りに赤キャベツのマリネ、豚肉のパテ・ド・カンパーニュ、鶏もも肉のガランティーヌ、霧島ポークの肩ロースハム、鴨胸肉の燻製、鶏肉のレバーパテ、中央はキャロットラペ

まず店内で注文したいのは「シャルキュトリー5種の盛り合わせ」。手間も時間もかかるこれだけの種類のシャルキュトリーがすべて自家製というのだからすごい。レバーパテはしっかりと燻製されていたり、霧島ポークのハムにフェンネルシードのさわやかな風味がつけられていたりとオリジナリティもあって、ワインによく合う味。3種盛り合わせもあるので、一人で訪れても注文できるのもありがたい。

ポッペルヴァイのエイヴェンチュア2022(グラス1,100円、ボトル7,500円)

シャルキュトリーにおすすめなのは、オーストラリアのゲヴュルツトラミネールを使ったオレンジワイン。「シャルキュトリーは前菜として召し上がる方が多いので、当店では白やロゼ、オレンジワインをおすすめしています。こちらのオレンジワインは、特有のライチやバラの香りに加えて、キュッとした酸のニュアンスもあるのでシャルキュトリーを重たくせずにあわせていただけます」と伏見さん。シャルキュトリーにも負けないボリューム感がありつつ、香りのスパイシーさや酸のフレッシュさがアクセントになった魅力的なマリアージュだった。

白身魚のパイ包み焼き✕アロマティック白ワイン

海老 白身魚 帆立のパイ包み焼き(3,280円)

魚料理で頼みたいのは名物「海老 白身魚 帆立のパイ包み焼き」。kawasemiの名物だけあって、かなりの手間暇がかけられている。層になっているパイの中身は、海老、きのこと野菜のソテー、白身魚、帆立で、それらを小松菜で包んだもの。ソースはオマール海老を殻や味噌までミキサーにかけた濃厚さが魅力。幾重にも包まれたおいしさをパイのサクサク感と海老の濃厚なソースでいただく時間は、一口で味わうのがもったいないほどの幸せに包まれた。

シャトー・ラ・ネルトのカサーニュ・ド・ラ・ネルト ブラン2021(グラス1,000円、ボトル6,600円)

名物のパイ包み焼きに合わせたいのは、フランス・ローヌ地方の白ワイン。「こちらはシャトーヌフ・デュ・パプの造り手によるローヌブレンドの白ワインです。アロマティックな香りにフレッシュな果実味が、海老の濃厚なスープによく合います」と伏見さん。エレガントさもある白ワインでうっとりするような組み合わせだった。

蝦夷鹿のロースト✕ピュアでまろやか赤ワイン

蝦夷鹿のロースト(2,780円)

しっかり肉料理を楽しみたい人に頼んでほしいのは「蝦夷鹿のロースト」。蝦夷鹿の内もものローストには、伝統の黒胡椒を使ったポワブラードソースをかけて。ウッディな香りのジュニパーベリーを多めに入れるのが亀井シェフならではのポイントだ。ビーツのピュレも添えてあるため、鉄分のある赤身肉が甘酸っぱくいただけるようになっている。

テヌータ・モンテマーニョのミステリウム バルベーラ・ダスティー スーペリオーレ2017(グラス1,200円、ボトル8,050円)

「蝦夷鹿のロースト」にペアリングしたいのはイタリア・ピエモンテ州の赤ワイン。「バルベーラという品種を使った赤ワインで、バルベーラの品評会で2年連続1位を獲得しているんです。鉄分のある鹿肉にとてもよく合います」と伏見さん。チェリーのピュアな風味が鹿肉の野性的な味を引き立てつつ、だんだんとスパイシーさやまろやかさで包んでくれる奥行きのある組み合わせだった。

伏見さんの「私が恋した自然派ワイン」

サンセール ヴィニフィエ パー ジュンコ・アライ2016(小売5,500円、店内8,000円)

伏見さんが恋したワインとしてあげてくれたのは、自身に感動をもたらしてくれた2人の生産者が関わった一本。

「こちらのワインはフランス・ロワールの生産者セバスチャン・リフォーが育てたブドウを使って同じくロワールの新井順子さんが醸造したサンセールのソーヴィニヨン・ブランです。

2014年にセバスチャン・リフォーが来日した時に、彼が注いだ彼自身のソーヴィニヨン・ブランを飲む機会があり、あまりのおいしさにその場で泣いてしまったんです。それから2年後、彼の畑の収穫を手伝いに行った時に、現地で新井順子さんにとてもお世話になりました。今回、思い入れのある2人のワインが8年の時を経てリリースされたと聞いて、直接順子さんから買いました。

こちらのワインは飲むことで今回の石川・能登半島地震のチャリティにもなっています。ぜひお店で購入もしくは注文してみてください」

これから評価が高まるワインをラインアップ

kawasemiには、ワインセラーに約1,000本のワインが眠っている。ナチュラルワインが中心ではあるが、ビストロ料理に合わせやすいクラシックなワインや日本ワインもストックされている。いずれにしても、まだ価格が上昇していない、これから評価が高まりそうなワインに注目。ワイナリーやインポーター経験もあるソムリエ2人が試飲して、利用客に紹介したいワインだけがセレクトされている。フランス、イタリアのほかオーストラリアなどのニューワールドのワインもある。グラスワイン(850〜2,500円)は30種類以上、ボトルワイン(4,800〜25,000円)は200種類以上と豊富にあるのも魅力。直接セラーに入って選ぶこともできるので、興味のある人はセラーの中から選んでみよう。

シャルキュトリーもテイクアウトOK

店内はテーブル席以外にカウンター席もある。ここはキッチンの様子が見えるにぎやかさがあって、一人で訪れた時におすすめ。少ないポーションで頼めるメニューやグラスワインが充実しているので、ふらりと訪れても楽しい時間が過ごせる。

シャルキュトリーのショーケース。この日は12種類のシャルキュトリーやピクルスなどが並んでいた

また、ワインだけでなくシャルキュトリーも販売されているので、気に入ったものを帰りにテイクアウトすることもできる。大塚・池袋付近で、ビストロ料理をワインでいただきたいときには、リーズナブルで使い勝手のよいkawasemiを目指そう。

※価格は税込。アラカルトのみチャージ兼アミューズ500円。

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:片桐圭