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謎解きも楽しい、懐石のような品書き
梅谷シェフは、自身の味づくりについてこう話す。「素直に“おいしい”と感じていただける料理を」。とてもシンプルなコメントだけれど、その奥は深い。
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まず品書きが独特!
フレンチレストランで縦書きの構成は珍しく、しかも、障泥烏賊、花椰菜(って読めますか?)といったように、食材が和名で書かれている! ソムリエの磯口さんが言うには「和を意識しているわけではないんです。だけど、和名の謎解きがきっかけになり、会話が広がるといいなって」。
そんな品書きの左端には、二十四節気をさらに細分化した七十二候の、美しい名前が書かれている。日本の細やかな季節の移り変わりを感じられるのがうれしい。
それでは、梅谷シェフ渾身のコース料理を紹介させていただこう。
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船井さん
読めない和名があると「これ何ですか?」って、ソムリエの磯口さんとも話が膨らみます。 ちなみに、障泥烏賊=アオリイカ、花椰菜=カリフラワーでした!
しゃれたプレゼンでありつつ、古典料理の基礎を感じさせる粋
「ル プログレ」の料理を味わい感じること。それは、フランスの古典を敬愛しながら、梅谷シェフらしいスパイスが随所に利いているということ。見た目の美しさはもちろん、味わえばフランスの根っこを感じさせてくれる。
前菜「赤海老 コンソメ」に心が洗われる
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今回は前菜、主菜、デザートの3品を作ってもらったが、どの皿も丁寧な仕事がうかがえる。
前菜「赤海老 コンソメ」は、透き通ったコンソメジュレがまばゆい一皿。口に含めば、丁寧にひいたコンソメのクリアかつ深い味わいがスッと広がり、確かな技を感じるのだ。
また、ミ・キュイ(半生)の赤海老が放つピュアな甘みが、味わいに奥行きをもたらし、レーズンの質朴な甘みや、松の実の香ばしさがいいアクセントに。
皿の底に忍ばせている、爽やかな味わいのクリームはフロマージュブラン?と梅谷シェフに尋ねると、「実はカリフラワーのクリームなんです。カリフラワーと牛乳、少しのカレー粉と唐辛子を加えたものをクリームにしています」とのこと。
確かに、気づくか気づかない程度のスパイス感が広がり、食べ進むほどに感じる起伏が心地よい。
「当たり前のことですがコンソメのブイヨンをとる際、鍋につきっきりでアクをひきます。絶対に濁らさず、とことん澄みきった状態に」と梅谷シェフは真剣なまなざし。「ヴァリエの高井 実シェフの下で働き始めたのが29歳の時。いい意味で、常識を覆される毎日でしたし、高井シェフから学んだフランス料理のテクニックは今もなお、実践し続けています」と言って微笑む。
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船井さん
黄金色をしたコンソメジュレの美しさたるや! 盛り付けの美しさはもちろん、一口味わえばハッと瞠目します。
ソースの精度の高さがうかがえる「黒毛和牛ネックの赤ワイン煮」
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梅谷シェフが「常識を覆される毎日」と話す修業時代のエピソードは、メイン料理「黒毛和牛ネックの赤ワイン煮」に見て取れる。
じっくり煮込んだ牛ネックは、程よい繊維質とねっとりとしたゼラチン感が印象的。艶やかな赤ワインソースの澄んだうまみに、丁寧にとったフォン・ド・ボーの凄みが潜む。
「ソースは、深みはあるけれど“フレッシュ”であること。つまり、煮詰めすぎず手前で止め、最終の仕上げで完成させるイメージです。修業時代、高井シェフから教わった技の一つです」と当時を懐かしむ。
「高井シェフは、今も気にかけてくださいます。お肉屋さんなどヴァリエと同じ仕入れ先も多いですし、仕入れ先の方々も親身に相談に乗ってくださるのが本当にありがたいです」
お二人は、釣り仲間でもあるらしい。揺るぎのない師弟関係、そのエピソードを聞いているだけで胸が熱くなる。
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船井さん
「黒毛和牛ネックの赤ワイン煮」は、味に厚みがあるのですが、重すぎない品の良さが魅力です。今回登場する、シックでいてモダンな器は“美濃焼”。光の加減で絶妙に変化する、皿の風合いも楽しんでください。
巧妙なスパイス使いはデザートに至るまで
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お楽しみのデザートは「林檎 珈琲 芭蕉実 スパイス」。
バナナとオレンジのクーリ(濃厚なソース)に、カラメル色になるまでソテーしたリンゴを忍ばせ、コーヒークリームを添えている。クランブル状の生地は、ベルギーの伝統的なスパイスクッキー・スペキュロス。実は、シナモンやカルダモン、クローブや黒胡椒などを配合したスペキュロスに至るまで自家製なのだ。
頬張れば、バナナとオレンジの甘酸っぱさに続き、リンゴのまったりとした甘み、フレッシュな林檎のサクサク感。さらには、コーヒークリームの高貴な香り、スペキュロスの複雑なスパイス感が追いかけてくる。一口味わうごとに、異なる表情を見せるデザートに、大満足のフィナーレとなるのだ。
これらコース料理に合わせるワイン、そしてノンアルコールのペアリングも「ル プログレ」ならではの強み。少し紹介させていただこう。
季節らしさと個性が光るペアリング
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前日までの要予約で、ティーペアリングを楽しませてくれる。「日本茶をベースにハーブやスパイス、ドライフルーツを使って氷温水出しでご用意します」とはソムリエの磯口さん。
品書きには「時季のノンアルカクテル」や自家製ジンジャーエールなど、考え抜かれたノンアルコールドリンクが単品でそろう。
ちなみにワインペアリングは、シャンパーニュ含むハーフグラス(約60ml)を、料理とともに。フランス産をメインに、イタリア、ドイツ、日本産は甲州ワインも。独創性のあるシェフの料理に寄り添うペアリング、磯口さんに身を委ねるのがいいだろう。
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船井さん
個人的には、ワインも最高ですが、酔わないお茶のペアリング、しかも磯口さんの緻密な味づくりには「たまにはお酒抜きでもいい」という気分にさせてくれます。
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クラシカルなフランス料理の技術をベースに、日本の食材、風土に合わせた「素直においしい」を表現する梅谷シェフ。
厨房で味づくりと真摯に向き合うシェフがいて、誰をもリラックスさせてくれるトークとその引き出しで場を楽しませてくれる磯口さん。スタッフ・津﨑雄聖さん(写真左)も、ヴァリエでアルバイトをしていたそう。
以前、同じ店で一緒に働いていた、彼らによる息の合った見事なタッグが、食べ手を魅了する。
※価格はすべて税込