店主の思いが詰まったジビエを余すところなく楽しめる「おまかせコース」とは?

前菜の盛り合わせ(写真は11,000円のコースの一例)。シェフ渾身のシャルキュトリの盛り合わせ。ヒグマのリエット、鴨胸肉のスモークなど5種を少しずつ

初めて「グルマンズ」を訪れるなら、まずは11,000円からのおまかせコースでシェフの有り余るジビエ愛を堪能するのがおすすめ。「食いしん坊たちの愛情レストラン」をテーマに掲げるだけあって、その内容の充実ぶりに驚くこと間違いなしだ。前菜はさまざまなジビエで作るシャルキュトリの盛り合わせ。これだけでボトルが1本空きそうなほどの“ワイン泥棒”ぞろいで、ヒグマとアナグマと鹿のカンパーニュや、イノシシの舌と頬肉などを“フロマージュ・ド・テート”風に仕上げた一品など、序盤からわくわくが止まらない。

イノブタのロースト

そして、ジビエの店に来たならば「お肉づくし」で楽しみたいという願望を満たしてくれるのも、食いしん坊のツボに刺さる理由だ。半頭で仕入れるイノブタはロースとバラを一緒に提供。表面をしっかり焼き付け、中は低温でロゼ色に仕上げたイノブタの旨みの深さは思わず言葉を失うほど。「たけのこは野生のイノブタの大好物。それが描かれた絵皿に盛り付けたのは、せめてもの供養ですね」。どこで、何を食べて育ったのか。そうしたバックグラウンドも含めて伝えるのも、中里さんが大切にしていることのひとつだ。

 

川井さん

その時々の素材を活かしたパテドカンパーニュやリエットが楽しめる前菜も毎回楽しみ。どこで育ったジビエなのか、どんな餌を食べていたのかなど、シェフとの会話が弾んで楽しいです。

オニオングラタンスープ

シャルキュトリの加工技術、肉の火入れなど料理の細部に中里さんの「命を生かしきる」という思いが伝わるが、その心がじんわりとしみ渡るのが、川井さんもあまりのおいしさに度肝を抜かれたというオニオングラタンスープ。あらゆるジビエの筋や骨をこんがりと焼いて、イノシシならイノシシ、鴨なら鴨と分けて出汁をとることでより濃厚な旨みを抽出できるのだという。アナグマやヒグマの脂でじっくり時間をかけて炒める玉ねぎと強烈な旨みにあふれるスープの味わいに陶然とすると同時に「いただいた命を少しも無駄にしない」というシェフの心意気に胸を打たれるはずだ。

とろとろの玉ねぎ、あらゆるジビエの旨みが溶け出したオニオングラタンスープは体の芯まで温まると評判
 

川井さん

濃厚とはまさにこの味を指すのだなと思うほど旨みのあるスープで、その素材を活かした味を楽しめます。命をいただいていることを意識し、動物の生態を含めて食べている餌などの情報まで頭に入れて食べるようにしています。ストーリーを知り、イメージを膨らませることでジビエ料理はもっと楽しくおいしくなるのだと思います。

アナグマとみかんソース

ジビエを究めるということは、個体を知るということ。ジビエは餌が味に大きく影響するため、どんなものを食べていたかを想像して、料理に反映させるのも中里さんのスタイルだ。「みかんを食べていたアナグマは独特の甘みがあって、爽やかな香りがある。雑食性なので魚なども食べますが、果物も大好きなんです。アナグマでフォンを取って、みかん果汁に合わせたソースで食べると脂のぷるんとした甘みがより引き立ちます。ヒグマはハンターさんからその週に使う分だけ届けてもらっています。急速冷凍をかけて−40℃で保管をしておくんです。そうすることによって脂の香ばしさや噛むほどにどんどん味が膨らむヒグマの個性を損なわずに調理ができるんです」と中里さん。

ヒグマのモモ肉
 

川井さん

鹿、猪、鴨のみならず、熊などジビエ全般が得意で、気になるにおいは一切なく処理も完璧。調理方法もフレンチ風だったり、スパイスを使ってみたりとその個体の性質、状態などを考えて一番おいしい方法で食べさせてくれるのがうれしいです。

ジビエの旨みがたっぷりと凝縮されたカレーはついおかわりしたくなる!

ジビエカレー

コースに登場する料理の中でも常連客のファンが多いのがジビエカレー。“カレーの街”神保町にも近いエリアで「専門店顔負け!」と絶賛されているカレーは、オニオングラタンスープと同じくジビエの端材まできちんと使い切るための料理でもある。ライスは鴨出汁で硬めに炊き、バターと合わせてコクをプラス。何種ものジビエの出汁を合わせたソースとの“華麗なる”ハーモニーにうならずにはいられない。

名パティシエ直伝のレシピで作る極上の“鴨プリン”でフィニッシュ!

プリンには鴨の卵を使用。食後酒とともにゆっくり堪能すれば、豊かなコクに心までとろけそうに

たっぷりジビエを堪能した後のデザートは、なんと鴨の卵を使ったプリン。鴨の卵は鶏卵に比べて味が濃厚でプリンに使うとまろやかな舌触りに。ほろ苦いカラメルソースと相まって至福と口福を運んでくれる。

 

川井さん

いつも最後にいただくのは硬めのプリン。日本を代表するパティシエ直伝のプリンで、甘さとカラメルの苦さのバランスが絶妙。満腹でも「甘いものは別腹」を実感できます。

今はジビエシーズンの真っ只中。中里さんのジビエ愛もイマジネーションもどんどん高まっているこの季節に店に訪れれば、ひと味もふた味も違う食肉体験に出会うことができる。ワインを飲み、真心がこもったジビエ料理に舌鼓を打てば、たちまちハートを“ハント”されるはずだ。

※価格は税込

文:小寺慶子、食べログマガジン編集部 撮影:菊池陽一郎