〈食べログ3.5以下のうまい店〉


巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、食べ歩きをライフワークに活躍する人気フードライター、森脇 慶子さんが30年来通う日本料理店「湖月」をご紹介。

教えてくれる人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

青山の閑静な路地に佇む正統派の日本料理店

格子や曲線を描く犬矢来など京町家を思わせる店構えの「湖月」

都内屈指のおしゃれタウン青山。高感度な複合施設や洒落たカフェなどが多く集まるエリアだが、主要道路を一本路地に入るとほっと落ち着く閑静な街並みが現れる街でもある。

そんな静かな一角で、青山通りをまだ都電が走っていた1967(昭和42)年から営業を続ける日本料理店が「湖月」。

 

 

森脇さん

もう30年以上前、先代の頃に取材がきっかけで伺うようになったのですが、それ以前からおいしいとの噂は耳にしていました。今どきの派手な和食ではありませんが、丁寧な仕事を良心価格でいただけるのはうれしい限り。また、コースだけでなくアラカルトがあるところもいいですね。古き良き京都の街場の割烹店を思い出します。

食べログ点数は3.16、口コミ件数は28件と少なめだが、その大半が4.0以上を付けており、安定した評価が得られていることは間違いない。森脇さんのコメントからも長く愛され続ける名店であることがうかがえる。

※点数は2023年10月時点のものです。

ドイツがルーツの名店を「吉兆」出身の料理人が引き継ぐ

40年以上経つとは思えない、よく手入れされた居心地の良い店内

「湖月」のルーツは昭和30年代半ば、海外で日本料理店がまだ珍しかった時代に、先代夫婦がドイツ・ハンブルクのアルスター湖近くに開いた日本料理店にある。帰国後、青山に店を出すにあたり、ゆかりのあるアルスター湖と先代主人の出身地・京都に近い琵琶湖からとった「湖」に、先代が好きだった「月」を合わせて「湖月」としたそうだ。

2代目店主佐藤重行さん。妻の麻衣さんとともに温かな雰囲気を醸し出す

2代目店主を務めるのは、先代女将の引退により2012年に暖簾を継いだ佐藤重行さんだ。

調理師学校卒業後に入社した「東京吉兆」で6年間みっちり修業した後、青年海外協力隊としてシリアに渡り日本料理の講師を2年間経験。帰国後の1997年から、亡くなった先代に代わり料理長として「湖月」で腕を振るうようになり26年になる。

大小さまざまな招き猫が並ぶコーナー。そのほとんどは常連客からの贈り物だ

佐藤さんが料理人を目指したのは、高校時代にラーメン店で読んだ漫画『ザ・シェフ』の世界に引かれたことがきっかけだ。

「当初は漫画さながらフランス料理の道に進むつもりでしたが、調理師学校時代のアルバイト先が高級おでん店で、そこで日本料理の繊細さや奥深さを説かれ、思い直して日本料理を選びました。今思えば人生の大きな岐路でしたね」と佐藤さん。

カウンターに置かれた柿の焼き物は佐藤さん作。今は多忙で作陶する時間がとれないが、一つの焼き物を通してカウンター越しに会話が生まれることもあるという

「東京吉兆」の最初の修業先は“東京の本店”といわれる「銀座吉兆」。「いらっしゃるお客様はそうそうたるもので、駆け出しの頃の仕事は文字通り“修行”。早朝から深夜まで、仕事に追われ一日の終わりが来ないほど、とても厳しいものでした」と佐藤さん。百貨店内の「正月屋吉兆」では客層など全く異なる環境で刺激を受けつつ、6年間で「最高を見極める目と技、接客の妙」を身につけ、この経験が現在の佐藤さんの基盤となっているという。