【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回から短期集中で関西編全3回をお届け。関西編第1回は、京都で200年以上も続く水炊きの老舗店が登場。牛肉だけではない、京都の肉文化に迫る。

Vol.17 門外不出の味でタイムスリップ!肉と京都編

古くから「牛肉文化」が根付く京都。市内には300軒以上の焼肉店があると言われており、牛肉料理を割烹スタイルで提供する店も多い。

 

近江牛や飛騨牛、神戸牛など近隣の県が日本を代表する銘柄牛の産地であることも関係しているのだが、京都人の牛肉愛はとにかく深いのだ。

肉といえば、豚より鶏より牛!というイメージの京都だが、じつは白濁したスープが特徴的な鶏の水炊きも人気。何代も続く老舗のなかでも、200年以上ものあいだ、門外不出の味を守り続けているのが「鳥彌三」だ。

 

暖簾は現在、8代目の浅見泰正さんに受け継がれており、かつては坂本龍馬が贔屓にしていたことでも有名。登録有形文化財に指定されている店の中に入ると、しんと静かな空気に包まれ、タイムスリップをしたような気分になる。母屋は江戸後期の建築で、木造2階建ての数寄屋造。市中を焼きつくした禁門の変でも奇跡的に焼失を免れたのだという。

鴨川に臨む個室があり、夏は京都の風物詩である納涼床で食事をすることもできる。風情のある空間で供されるのは先付、水炊き、雑炊、水物のコース13,000円(税・サービス料込)。

水炊きはもともと九州にルーツがあると言われており、福岡・博多から派生したことで“博多煮”と呼ばれていた。鶏の骨を煮だしてスープを作り、具材を入れて食べるというスタイルだが鳥彌三のスープも同様。鶏ガラと京都の水だけを銅鍋に入れて、3日間、煮立ちすぎないように目を離すことなく作った乳白色のスープは旨みに富み、心の深部まで癒やされる味わいだ。

 

まずはスープをいただき、そのあとに丹波産の地鶏や野菜を自家製ポン酢や塩などで食す。鶏肉は弾力があり、ジューシー。やや大ぶりにカットされているため、食べごたえがある。具材を煮込むうちにスープもさらにコクを増し、その変化を楽しむのも味わい深い。

名物の肝煮のほか、常連客に人気なのが鶏のから揚げ。衣はサクサクと軽快な食感で、身は歯を押し返すような弾力がありながら、上質な脂を湛えており、うるうると瑞々しい。

情緒漂う空間で極上の水炊きを堪能すれば、京都にはまだまだ味わうべき肉文化があると実感するはず。“牛肉文化”だけではない、京都の食肉文化の奥深さを体感したい。

 

写真:富澤 元
取材・文:小寺慶子