TOKYO HIP BAR
Vol.17 秘密の部屋で提供される魔術系カクテル
21世紀の今でも
お酒が薬として効く!?
液体を混ぜ合わせたり、香りづけしたりすることで自在に味を作り出すバーテンダーはさながら魔術師のようにも思えます。古来の人々はお酒にはさまざまな力を感じていて、薬としての効能をみていた時期もあるそうです。例えば1920年代以前のハンガリーの薬剤師は、まだ現代科学による薬がない時代にハーブや果物などを煮込み、その成分を抽出して薬として飲ませていたと言われています。
時は21世紀、とあるバーではエネルギー溢れる旬の果物・野菜や、ハーブ・紅茶などをそれぞれに適したお酒に漬け込み、熟成させて出しています。ほの暗い店内は、溶けた蝋燭や、剥製の角などが飾られた秘密めいた空間。そのバーは環境問題にアートや音楽などの視点を持ち込み活動している「リバースプロジェクト」によるバー「PR bar(piedpiper rebirthproject bar)」です。
クリエイティブな活動をしているリバースプロジェクトだけに、バーのメニューもクリエイティブ。ここで提供されるのは、“アポシーク”と呼ばれる現代の漬け込み酒。アポシークとはドイツ語で「薬局」を意味する言葉。その名の通り、ハーブや食材からさまざまな成分を引き出すように、ジンにはローズ、ウォッカにはコーヒー、テキーラにはハイビスカスなどが漬け込まれ、熟成されたそのお酒は、素材の風味を凝縮させた別の液体へと昇華されています。
魔術師バーテンダーが拓く
カクテルの新境地
PR barディレクターの宇塚 健さんはニューヨークでの経験も長いバーテンダー。日本には馴染みのないような味覚にも果敢に挑みます。例えばアポシークを使用したカクテルとして、独特な味わいで魅了するのはゴボウを漬け込んだウォッカを使用したBurdock(バードック)Chocolate Martini。ゴボウのウォッカにチョコレートリキュール、シェリー、オレンジビターズを加え、削られたナツメグがかけられたカクテルは、ゴボウのうまみが、チョコレートのカカオの味わいをうまく引き出します。食後のカクテルのようにも見えますが、むしろ食前にも合うような、デザートカクテルではない、チョコレートカクテルの新境地を切り開いています。
ゴボウは生薬・漢方薬にも使われ、血液浄化やニキビなど肌の薬としても使用される有り難い根菜。またごぼう抜きという言葉もあるように力強さや縁起の良さもあります。
もうじき訪れるバレンタイン。チョコレートにゴボウの成分を染み込ませたウォッカのカクテルは、思わぬ薬効を2人に及ぼしてくれるかもしれません。