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【おいしいパンのある町へ】
Vol.6 東京・清澄白河「コトリパン」
利便性の良さや情緒ある街並みから、近年人気が急上昇中の街、清澄白河。東京都現代美術館(※大規模改修工事のため休館中)やブルーボトルコーヒーを目指し、休日には区外から多くの人が押し寄せる新名所となりつつある。
駅を出たら、清澄庭園を横目に歩くこと約10分。ありふれた住宅街でパッと目を引くオレンジ色のすだれを発見。ひよこのロゴマークを掲げる店名は、その名も「コトリパン」。ちょうちんの存在が一見焼き鳥屋のようだが、清澄白河でその名を知らない人はいない、と言われるほどの名店だ。
“脱サラ職人”が手がける、親しみやすいパン
2018年4月にオープン6周年を迎える「コトリパン」の共同オーナー兼シェフを務めるのは、大川泰功(オオカワ・ヤスノリ)さん。36歳のときに脱サラし、まったくの未経験からパン屋で働き始めたという異色の経歴の持ち主だ。「小さい頃から“もの作り”が好きで、アパレルや建築関係の会社で働いていました。サラリーマンを辞めて何をするか考えていたとき、“衣と住にまつわる仕事を経験してきたから、今度は食に携わってみよう”と思い立ったんです」
幅広い食の業界でも、成形やデコレーションなどの過程が楽しいパン作りを選択。大手チェーン店での修行を経て、門前仲町にある個人店で経験を積んだ。「ハード系のパンを揃えるいわゆる高級店で、オープン当初はけっこう話題になっていました。でも少し経つと客足がどんどん減ってしまった。街の人々のニーズと商品が、合っていなかったんですよね。働き始めてから2年くらいで閉店してしまいました」
この街のように、いつ訪れても安心できる場所でありたい
「でも僕は、きっとこの街が求めるパン屋を作れるはずだ、と思ったんです」と語る大川さん。そして当時の同僚だった辻由香里さん、パート店員の菅原博子さんと3人で、独立を決意。「ひいきにしてくれるお客さんのためにも近場で開業したいね、ということで閉店前に常連客のみなさんに住所を聞いたところ、隣駅の清澄白河から足を運んでくださっていた方が多かったんです。さらに門前仲町からも徒歩圏内ということで、この場所を選びました」
オープンから6年弱ながら、街並みや客層が目まぐるしく変化していると言う大川さん。大型マンションの増加に伴い、チェーンのカフェやレストランが続々と誕生。しかしその変化が、個人商店同士の絆をより深めたとか。
「大きな店に勝つためには、小さな店同士が力を合わせることが不可欠。例えば『アライズコーヒー』では、うちの食パンを使ったサンドイッチなどを提供している。ありがたいことに、オープン直後に売り切れてしまう人気商品なので、集客につながるそうなんです。サンドイッチを召し上がって気に入ってくれたお客さんは今度、うちに直接来てくださる。個人商店とお互いの商品を引き立てる戦略で、共存を図っています。この街の魅力は、街の良さを守ろうとする人がたくさんいること。『コトリパン』もこの街のように、いつ訪れてもホッと安心する……そんな存在でありたいな、と思っています」
ワンコインでお腹いっぱいになってほしい!
オープンを待ち構えるかのように、近所の常連客が次々と来店。11時半を過ぎると近隣のオフィスビルで働くOLやサラリーマンによる行列ができ、12時にはほとんどの商品が売り切れてしまう。連日300人以上の来客数を誇る理由は、味はもちろんのこと、そのコスパの良さだ。
「前の店の教訓からも、一番重要視しているのが価格設定です」と宣言する大川さん。日々棚に並ぶ80~100種類のパンはどれもボリューミーながら、120~200円というリーズナブルさ。そこに込められているのは、おいしいパンをお腹いっぱい食べて欲しい!というスタッフきっての願い。
「コンビニに行くような感覚で、いつでも気軽に立ち寄れるパン屋って、いいですよね。 ワンコインで3個買えたら、お腹いっぱい食べられるな、と」。さらに毎日来ても楽しんでもらえるよう、新商品の試作にも怠らない。「どんなに美味しいパンも、毎日食べていたら、誰だって飽きますから。季節にとらわれず、とりあえず気になる食材があったら片っ端から取り入れてみる、というのがモットー。店頭に出してみて売れたら通常メニューにして、売れなかったらもう作らない(笑)。そんな感じなので、かなり頻繁に新メニューが並びます」
オープン当初から試行錯誤を重ね、数え切れないほどの商品を開発してきた「コトリパン」。なかでも売り上げトップを誇る、人気商品を教えてもらった。
絶品食パンを求めて、オープン前から行列!
牛乳と生クリームもたっぷりと加えているのが最大の特徴の食パンは、「コク深い、リッチな味わいが売りです。トーストするのも良いですが、一度そのまま味わってみて欲しいですね。サンドイッチにもおすすめです」だそう。
また、濃密でしっとりとした生地の秘訣は、一晩寝かせる製法にある。「食パンの種は従来、冷蔵庫で寝かせるとパサパサしてしまうんです。でも何度も試行錯誤を重ねるうち、発酵前に冷やせば水分が蒸発しないことがわかりました」。さらに一晩寝かせることで粉が水分をしっかりと吸収し、よりしっとりすることを発見したんです」(250円)。
ひよこのロゴマークが愛らしい。看板商品のコトリパン
「菓子パン担当の辻が開発した、うちの看板商品。すだれにも使用しているコトリはチョコレートで、一個一個、手描きしているんです」
食パン用の生地に牛乳を増量し、より一層ふんわりと焼き上げた。型に入れて焼くことで水分の蒸発を防ぎ、しっとり感をキープできるんだそう。カスタードとチョコクリームがぎっしりと詰まっており、ふたつの味を楽しめるのも高ポイント(150円)。
インパクト大!まんまる焼きそばパン
数ある惣菜パンのなかでも1、2を争う人気商品が、焼きそばパン(150円)。昔から愛され続ける定番商品とは違ったユニークな見た目に、「コトリパン」のオリジナリティが光る。
「じつはこれ、時短するためのアイデアなんです(笑)。まずコッペパンを切って、均等に焼きそばを詰めていくのって、すごく時間がかかる。型に入れて焼いてみたらどうかと試してみたら、すごく楽チンで、見た目もおもしろかったんです」
外はカリッ、中はしっとりの食感に病みつき! フレンチトースト
バゲットと食パンの2種類を揃えているが、圧倒的に人気なのがこちらのバゲットタイプ(150円)。5cmほどの厚みにカットされたバゲットを、卵、牛乳、バター、グラニュー糖をミックスした液体にディップ。一晩漬け込むことで、芯までしっとり。
「170℃で30分ほど焼いてキャラメル化させることにより、カリッと感を強調させたのがポイントです。想定外でしたが、男性人気がすごく高い。朝のコーヒーのお供として、出社前に買って行かれる方が多いですね」
お土産や差し入れに大人気のラスク
「一度に3袋購入する人も珍しくない」という裏人気商品が、手作りのラスク。食パンを使ったキューブタイプは、定番のシュガーバター味。さくさくとした軽い食べごたえで、何個でも食べられそう。
バゲットを使ったスライスタイプは、170℃で20分程焼いてグラニュー糖をキャラメル化。カリッと焼き上げられており、ハードな食感を好む人におすすめ。「お茶菓子としてはもちろんのこと、手軽なお土産としても愛用していただいています」(各250円)。
大川泰功さんに聞く、清澄白河近辺の一押しグルメ
趣のあるカフェやレストランなどが増え、注目を集める清澄白河。大川さんも通う人気店をチェック!
自家焙煎のコーヒーが絶品! 「アライズ コーヒー エンタングル」
江戸深川のコーヒーショップ「アライズ コーヒー ロースターズ」のカフェ型新店舗が、清澄白河に登場。「自家焙煎のコーヒーは、香りが格別。うちのバゲットを使ったバゲットサンドを提供しています」。焙煎豆やテイクアウトも人気。
ビール好きにおすすめする「ブルックリン デリ クラフトビア」
昭和初期の歴史ある建物をリノベーションした、クラフトビール&デリカテッセンのお店。ビール好きにはたまらないアメリカンクラフトビアのラインナップに加え、ニューヨーク・ブルックリンをこよなく愛するオーナーが作るデリに定評あり。「とくにパスタやキッシュがお気に入り。ランチタイムに『コトリパン』でも販売していますが、すぐに売り切れてしまう人気メニューです」
もっと知りたい清澄白河の“おいしい”
食べログでキャッチした、清澄白河のグルメ情報はこちら。
撮影:山田英博
取材・文:中西彩乃