【森脇慶子の新店開拓・第8回GINZA沁馥園】定番から本格派高級中華まで網羅する銀座の隠れた美食スポット

 

本格派でありながら、どこかカジュアル。正統を本分としつつも、進取の気性も忘れない――。銀座にオープンして間もない創新中華名菜「GINZA沁馥園(しんふうえん)」は、中国伝統の料理を畏まらずに頂ける、隠れたニュースポットだ。

 

まず、手渡されたメニューが楽しい。ページをめくれば、カラーの料理写真が次々と登場し、食欲をそそられる。“フランス産合鴨、マグレ・ド・カナールのステーキ”といった創作的なモダン中華もあれば、フカヒレの煮込みに四川本格担担麺等々の定番もキチンと押さえられ、しかも“成宗佛跳牆”(福建名菜「乾貨」の壺蒸しスープ)のような本格派超高級料理までもラインアップされているその料理の幅広さ、バラエティの豊かさには、思わず目を奪われる。

 

「銀座は、世界中のお客様が訪れる街。その中で、中国の伝統料理を、基本は崩すことなく、日本人としての感性を生かしたこの店ならではの中華料理を創っていきたいですね」と、にこやかに語るのは、この道一筋40年の藤巻正料理長。あの和製中華の老舗「銀座アスター本店」に19歳で入社、35年間勤め上げ、後半は料理長として辣腕を振るった大ベテランと聞けば、メニューの多彩さにも合点がいく。

朝廷の美食家たちも唸った。ルウが決め手の譚家風スープ

 

その振り幅の広さを物語る逸品がご覧の「ふかひれと金華ハム、干し貝柱の『譚家風(たんかふう)』スープ」4,320円(2人前・注文は2人前から)だ。

 

藤巻理長によれば「清王朝末期、譚宗という美食家の有力官僚がいて、自宅で宴会を催した際、その料理がすこぶる旨いと評判を呼び、後に“譚家菜(たんかさい)”として世に広まった」のだとか。この譚さんが、広東の出身。昔から貿易港として栄えた土地柄、広東は西欧との交流が深く、それゆえ、外国の調理法を取り入れた料理も多かったとみえて、“譚家風スープ”もその一つだ。

 

 

というのも、とろみ付けには、中華定番の水溶き片栗粉ではなく、西洋風にルーを使用。バターならぬ鶏油で小麦粉をホワイトソースのルーよろしくゆっくり色づかぬよう炒めて作っているそうだ。一方、ベースの上湯は、老鶏と豚赤身肉、金華ハムや干し貝柱、もみじ(鶏足)にスペアリブを約6時間、弱火でじっくりと煮込んだもの。その、その上湯の澄んだコクにルーのとろみがやんわりと馴染み、なんともまろみのある優しい味わいを生み出している。実に品のある美味しさなのだ。

 

 

また「すっぽんと薬膳煮込みスープ」5,832円(一壺3人前)も、経験値がものをいう料理だ。当帰や党参、枸杞の実など5種類の漢方食材とすっぽんを、水から煮込むこと二時間弱。空気を抜きながらごくごく弱火で煮込む手の込んだ佳品で、「旨味を支えるため、スペアリブと鳥もも肉を少しだけ足しています」と、藤巻さん。

 

白濁したスープは一見濃厚そうだが、口にすれば、意外にあっさり。じんわりと身体に染み渡るようなヘルシーな味わいだ。すっぽんは、沖縄で珊瑚を食べさせて育てたものを使用。一壺で3人分。1/2匹分のすっぽんが入っている。

いよいよ本格ブーム到来か?注目の“毛沢東スペアリブ”

一方、お店の一押し人気メニューは、今、巷で流行りつつある毛沢東スペアリブこと「スペアリブのスパイシー軟らか揚げ、毛沢東好み」3,456円。

 

一度柔らかく煮込んだスペアリブを揚げ、フライドガーリックやクミン、五香粉、花椒など10種類あまりのスパイスと共に乾煎りしたもので、毛沢東の故郷・湖南地方の料理だ。

 

 

ここでは、要の唐辛子も、辛味の丸い朝天唐辛子と香りの高い韓国唐辛子の2種類を使用。香りと辛味がせめぎ合うダイナミックな味わいがなんといっても醍醐味だろう。が、今回は、これを羊肉でアレンジ。羊特有の風味に合わせ、更にガラムマサラをプラスする芸の細かさはさすが。カリっと上がった羊肉の旨味と、サクサクカリカリのスパイスが口中で炸裂する美味しさは、また格別だ。

 

さて、締めにはオーソドックスな“上海和え麺”!も捨てがたいが、中華初心者なら、「春野菜の蟹肉あんかけチャーハン」2,376円(2人前)を試してみたい。

 

 

ネギと卵のみ、のシンプルな炒飯に、うるいやこごみ、プチベール等の春野菜とタラバの身が入った具沢山のあんをかけた豪華な一皿。具材一つ一つの火の入れ加減も上々。目の前であんをかけてくれるパフォーマンスには、小さな歓声が上がりそう。ハラリとした炒飯を彩り豊かなあんがやんわりと包み込む優しい味わいに頰が緩む。一味違う炒飯の魅力を見つけられるはずだ。

 

厨房スタッフには、中国大使館の厨房で働いていた中国人コックもいるそうで、本場と和製中華のさらなる融合を楽しませてくれそうだ。

取材・文:森脇慶子

 

撮影:松園多聞