ライターが仕事を放棄するほどのポモドーロ「ラ・ブリアンツァ」(六本木)

4z2a4426麻布十番で15年やっていた本店を2016年5月に六本木ヒルズに移した“おっくん”こと奥野義幸シェフの「ラ・ブリアンツァ」。

 

最初の出逢いは共通の友人が開催した食事会だった。とにかく明るい人でテーブルは笑いが絶えず、帰りにはもう「おっくん」と呼んでしまっていたのである。実はまだお店に伺ったことがなかったのだが、せっかくご縁ができたので早々にと思っていたところ、意外にも早くチャンスが訪れた。

 

友人にある人を紹介するというプライベートのような、でもちょっと仕事のような。そんな時は美味しくて融通がきく、しかもあまり高くないお店にしなければならない。お店の人とも仲良しというのが鉄則。

 

それなのに、なぜか直感で「おっくんにお任せすれば大丈夫。」と一度しか会ったこともなく、初めて訪問するお店なのにそこに決めてしまったのである。予約時におっくんは「どんなシチュエーション?」と聞いてくれて、説明すると「任せてください。」と。こういうことを聞いてくれるシェフは少ないので信頼したのを覚えている。

4z2a4413

当日のお任せコースは大好評。ワインも美味しくてリーズナブルなものを提案してくれて私は鼻高々。それから私のなかに「おっくんの店に行けば大丈夫。」、「安定のおっくん。」という、シェフからすればありがた迷惑かもしれない安心感が芽生え現在に至っている。

4z2a4402

こちらのシグネチャーといえば「トリュフのオーブン焼き ピエモンテ風」。ココットのなかにはとろんとした半熟卵。オーブンで焼いて溶けたチーズを混ぜて頂くのですが、これでもかと削ってくれるトリュフが半端ない。どうやらトリュフの消費量は、都内トップクラスらしい。

 

それも、とても美味しいのだが、ぜひ食べていただきたいのが「ポモドーロ」。まず上に載っているブッラータチーズが最高に美味しい! そのチーズを崩してトマトソースと一緒に食べてみる。

4z2a43834z2a44194z2a43794z2a4393

4z2a4460

「うーん、うまい!」。トマトが甘っ! ブッラータのフレッシュなクリームのコクとトマトが作りだすハーモニーにうっとり。「最高に美味しい!」の上はなんて言葉があるのか? ライターとしては最悪なことだけどうまく見つからない。

 

あぁ、もう死んでもいいかも。絶品も悶絶も通り越してもう表現のしようがないのだ。何度食べてもこの気持ちになれるって本当にすごい。

 

「おっくん、このブッラータはイタリアから仕入れているの?」と聞くと「あ、これカリフォルニアのです。」と奥野シェフ。「もう4~50種類食べたんじゃないかなぁ。現地で食べるならイタリアですけど、輸出用ならアメリカです。イタリアが美味しいものを輸出してないわけではなく、たまたまブッラータはアメリカ産が好みなんです。」だそう。

 

フレッシュタイプのチーズに対する賞味期限の規定が変わったのでガンガン日本に入ってくるようになった。シェフいわく、アメリカはビジネスとしてきちんと作ってくるので実際食べてみたら非常に美味しい。

 

反面イタリアでは現地で食べるものと輸出用は違う。だから日本においてはアメリカのものも侮れないというわけだ。何度もしつこく言うけれど、とにかくこのブッラータは本当に美味しい。

 

奥野シェフは毎年アメリカとイタリアに行き、現地のレストランのキッチンに入って食材、スタイル、流行などを吸収してくる。取材の日、同行の編集者がグルテンアレルギーだと言ったらすかさず「グルテンフリー麺もZEN PASTAもありますよ。」と。

 

え、何それ、そんなものがあるの? いまローマでは美意識の高い人が増え、ZEN PASTA(乾燥しらたき)がモデルやお洒落女子の間で流行っているのだそう。デュラムセモリナ粉命だと思ってたイタリア人が……、まさかの……、ダイエット大国のアメリカならわかるけど。でもパスタと思えば我慢できるのか。

 

そろそろ2020年の東京オリンピックに向けて日本のレストランもハラルフードやヴィーガンなどについて考える必要がある。いずれにしてもおっくんの作るZEN PASTAは次回トライしてみたい。

奥野シェフが“おっくん”に至るまで

4z2a4470

といったように、彼は考えがとてもグローバルで建設的なのだ。アメリカの大学を卒業し金融会社を勤務したのちにイタリアで料理人修業が始まったという経歴から来るのだろうか。料理にも店の在り方にも良いと思ったらすぐに取り入れる。この日もレストラン業界の次なる時代に何が来るかという話で盛り上がった。

 

「お客様がいまうちに来ていただいている理由はリストランテなのにコスパが良いからだと思います。例えばお寿司屋さん、いまものすごく高いか回転寿司かのどちらかでしょう。お洒落でミドルレンジ、つまりちょうどいいってお店がないんですよ。」と自身の店を客観的に分析する。

 

確かに新しいお店は始めからコース料金が高く設定されているし、既存店も徐々に上がってきている。ちょっと前はそうそう超さなかったひとり頭の予算2万円がじわじわ気がつかないうちに上がっていって、気がついた時には3万円近くになっていた。1万円前後で素敵なお店、これがなかなか難しい。

 

こちらは六本木ヒルズの洗練されたリストランテでお任せコース6,800円。5〜6,000円のワイン1本をふたりで飲んだら、ひとり1万円ちょっと。そりゃ、誰もが来たくなるはずだ。

4z2a4430

それらすべては客目線だからできること。でも最初からそうだったわけではなかったのだという。自分が美味しいと思うものを作っていればわかってもらえる、その人たちが通ってくれれば良い、そんな風に思っていた。でも6~7年前にあるライターさんが人生を変えた。その人の話を聞いているうちに他人の評価に否定的だった考えが「あぁ、同じ業界なんだから一緒に頑張ればいいんだ。」と思ったそう。

 

今までただ自分の世界に没頭していただけということに気がついた。お客様からどう見られているのか、お客様が美味しいと思ってもらえなければ意味はない。お客様がまた来たいと言ってくれる店にしよう、そう思えた。すると食材や味付けを変えていないのに客から声を掛けてもらえるようになり、予約も増え、いつしか“おっくん”と呼ばれるようになった。「これは自分の中で本当に大きかったです。」という。

 

だから普通なら断られるところだがなんとか時間をずらして席を用意してくれたり、冒頭にも書いたようにどんな食事なのか聞いてくる。接待だと言えば奥まった席にしてくれたり、ひとりだとシェフズテーブルに案内してくれる。

 

私はいつも「おっくんコース」にしてもらうのだが、私の好きそうなものや体調、お腹の空き具合を考えてその場でフレキシブルに組み立ててくれるのだ。あ、減らしてとお願いしたことはないが、もしそんなことがあったら料金も全額取らないんだろうな。4z2a4448

「これほどの美味しさの違いには、何があるのでしょうか?」との問いに臆面もなく「愛です、愛。料理は愛です。」と答えた。はい、その通り。おっくんの店に行くと確かに愛があふれているのを感じるし、皆様にもぜひおっくんの愛を感じてもらいたいと心から願う。

4z2a4480

本日のお品書き

甘いトマトとブッラータチーズのスパゲティ/2,000円