〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直され始めたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。Instagram:@hiroko_mainichi_gohan

手頃な価格で本格江戸前寿司を提供し続ける三宿の老舗「金多楼」

「ものには妥当な値段というものがある」と言うのは、創業53年を迎える三宿の名店「金多楼」主人・野口四郎さん。最近の寿司バブルに物申すわけではないけれど、これでは一生全うな寿司を食べずに終わってしまう人だらけになってしまう、と、適正な価格を死守している。

大将は、大工の四男坊。神田須田町の「金多楼寿司」で修業し、23歳で独立。修業先の名前を頂戴して「金多楼」を名乗った。握る手元を見ていると、途中でくるりと寿司の前後が入れ替わる。「本手返し」という古い握り方だ。直方体である寿司の6つの面の向きを細かく入れ替えることによって形を整えていく技だが、手間がかかるため、今ではできる職人も少ないという。野口さんは、本手返しをする初代の下で修業したから、必然的に身についたのだそうだ。