「百名店」の京都の和菓子

長い歴史を刻み、職人の心が宿る京都の和菓子。その精妙で奥深い世界を頂く側も知ることができれば、より親しみを持って楽しむことができるはずです。

 

食べログでは全国の菓子店の中で食べログユーザーから高い評価を集める100店として「食べログ スイーツ 百名店」を発表。和菓子店は25店舗、そのうち京都の店は10店舗が選出されました。

 

洋菓子店ばかりが並ぶと思いきや、和菓子の人気は現代でも衰えることはなく、しかもその多くが京都の店という結果でした。これは、“和菓子といえば京都”、“京都といえば和菓子”という考えが、どれだけ時を経ても日本人に根付いているからこそではないでしょうか?

 

今回も「百名店」に集まった京都の和菓子店を、和菓子ライフデザイナーの小倉夢桜さんに紐解いていただきます。

其の四、「中村軒」

宮内庁管轄の庭園の中で最も美しいと評される桂離宮。一度、訪れた方は、その美しさに感動されたことだと思います。

 

桂離宮へ訪れた方が立ち寄るお店といえば、やはりこちらのお店「中村軒」です。旧山陰街道沿いに創業130年の趣きのある店構えが印象的な、昔ながらの和菓子屋です。

 

数々のメディアにも取り上げられているため、京都はもとより他府県からも多くの方が訪れる人気店です。「なつかしい昔の味、あっさりした美味しさ」を創業当時から守り続けてこられています。

 

その一例を和菓子には必要不可欠な餡作りに見ることができます。現在では、ガスを使用して餡の原材料である小豆を炊くのが当たり前となっていますが、こちらのお店では、薪を使用して小豆を炊いています。その薪の種類も小豆を炊くのに一番適した火力を得られるということから使用しているのはクヌギの木。

薪を容易に手に入れることが難しくなりつつあるこの時代においても昔と変わらぬ味を守るために日々努力を続けてこられています。

 

こちらのお店では、昔ながらの雰囲気を残した部屋から中庭を眺めながら季節に合わせたお菓子などをいただくことができます。

取材をさせていただいた日は11月の初旬。京都では、11月になると「亥の子餅」を食べるのが習わしです。

寒中に猪の肉を食べると身体が温まり、万病にかからないとされていましたが、殺生を慎むところから猪をかたどった亥の子餅に代わったと伝えられています。

 

平安時代の宮中では、その年にとれた穀物で作られた亥の子餅を食べて無病息災を祈る「玄猪(げんちょ)の儀」と呼ばれる年中行事が行われていました。その玄猪の儀は民間にも広まり、旧暦十月亥の日、亥の刻に亥の子餅を食べて冬の無病息災を祈ります。

 

また、猪は多産なところから、子孫繁栄を願ったともいわれています。そして、旧暦の亥の月、亥の日に茶の湯の世界では炉開きが行われます。

 

そこで茶席菓子としても用いられる亥の子餅。その理由は、亥は陰陽五行説では水性に当たり、火災を逃れるという信仰があります。その為に茶の湯の世界だけではなく、庶民の間でも旧暦の亥の月、亥の日に囲炉裏や火鉢を出し始めます。

今も大切に受け継がれている習わしの一つに関わるお菓子です。亥の子餅の由来が書かれた可愛らしい包装紙。真心を感じる気遣いがとても嬉しく、ついお店に足を運んでしまいます。

 

そして、これからの時期に私がおすすめしたいのが「お雑煮」です。地域によって、お雑煮の種類は様々。地元のお雑煮は食べることがあっても他府県のお雑煮を食べる機会はあまりないのではないのでしょうか。

 

京都以外にお住まいの方が京都でお雑煮を食べるとなれば、お正月の頃に料亭で食べるのが一般的。そんな気後れしがちなお雑煮をこちらのお店では、気楽に召し上がっていただくことができます。

 

京都のお雑煮は白味噌仕立てです。

白味噌は、甘くてどうも苦手。そのような方も多いことでしょう。私も京都に住んでいながら、その中の一人です。しかし、こちらのお店のお雑煮は別格。甘くなく、鰹と昆布の風味を味わいながら、あっさりといただくことができます。

 

大きめの器の中に白味噌とともに「角がなく円満に!」という願いのこもった白い丸餅と京野菜の頭芋が入っています。その横には、風味豊かな削りたての鰹節が添えられています。

 

京都の厳しい冬の寒さを和らげてくれるお雑煮です。口にしたことがない方には、一度召し上がっていただきたい一品です。

 

こちらのお雑煮は、お餅、白味噌、鰹節、昆布がセットになった通信販売もされています。(頭芋は入っておりません)

遠方にお住まいの方も、気軽に京都のお正月を感じていただくことができます。

 

「手間を惜しまず、お客さんに喜んでもらうことが一番」と語りながら歴史を積み重ねていくお店の味とおもてなしを感じてみてはいかがでしょうか。

 

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