【食を制す者、ビジネスを制す】

豪邸を見て、うどんをすする。

 

あの人の豪邸はどこにある?

豪邸といえば、企業の創業者などが成功した証として建てるものだけあって、一般人からすれば、計り知れないほど豪華なものであり、趣向に凝ったものが多い。

例えば、ソニーの創業者の一人である盛田昭夫氏の別荘は、かつて箱根の芦ノ湖にあり、敷地は3000坪、テニスコートが2面あり、なんと船も2隻あったという。興味深いのは技術者出身だけあって、緊急時には2階のベッドルームのベッドが自動的に傾いて、直接2階から1階に行けるようにスベリ台のような仕掛けがついていたというから面白い。

また、ソフトバンクの孫正義氏は麻布永坂、ユニクロの創業者である柳井正氏は代々木上原に、それぞれ大豪邸を建てており、これまた共にゴルフ練習場がついているという。さらに、ある大手ゼネコンの創業者一族の経営者は、自分の現代美術コレクションを見せるためだけに東京・広尾にコレクションハウスを所有している。こうした企業オーナーの豪邸は東京なら田園調布や南麻布、松壽などにあり、マンションなら、これに広尾、六本木、赤坂、あるいは高輪近辺が加わるだろう。

 

京都南禅寺界隈がすごい

ところが関西になると、もっとすごい。神戸・御影、西宮・苦楽園、芦屋・六麓荘、さらに芦屋・奥池町など、いわゆる阪神間の高級住宅地には広大な敷地をもつ邸宅が散見される。それも東京では考えられないほどの豪華な邸宅であり、中には美術館のような邸宅も存在する。明治から大正にかけて酒造、製薬、食品、建設、新聞などの事業で成功した創業者が建てた豪邸が多いが、昭和から平成以降に成功した人たちの豪邸も少なくない。

だが、京都に行くと、さらに驚く。例えば、南禅寺界隈には、現在の野村證券の創業者である野村徳七氏が丹精を込めてつくり上げた「野村別邸碧雲(へきうん)荘」がある。数寄屋建築、巨大な庭園を配した別荘で、敷地は6000坪もあり、目も眩むような大きさだ。

こうした大邸宅は、この南禅寺界隈でたくさん見ることができる。ただ、かつては個人の別邸として扱われていたものの、高額な維持費がかかることもあり、今では、その多くは法人が所有するかたちとなっている。例えば、住友財閥を興した住友家の「有芳園」や、パナソニックの創業者である松下幸之助氏の「真々庵」、最近では、ニトリの創業者である似鳥昭雄氏が「對龍山荘」を買い取ったり、日本人ではないが、米オラクルの創業者であるラリー・エリソンが「何有荘」を保有したりしている。

 

祇園四条「権兵衛」の親子丼

こんな豪邸ばかりを見ていると、正直、頭がくらくらしてくる。私もかつて社会科見学の意味で、これらの邸宅を見て回ったことがある(もちろん外側のみだ)が、そのスケールの大きさに大いに刺激されるとともに、どうやったら、こんな邸宅を所有できるのだろうと自分との差にしばし茫然としたものだ。

そんな豪邸見学のあとに、とにかく歩き回って辿り着いた店が「おめん 銀閣寺本店」だった。群馬の上州うどんを供するうどん店だが、これがよかった。まずはビールと鶏肉の山椒焼きを食べて、〆に「名代うどん」を注文。つけ汁で食べるうどんで、きんぴらごぼうなどが付いて、薬味もきれいに盛られているので食欲をそそられるビジュアル。実際に食べてみるとなんだか幸せになれる気がするおいしさだった。

写真:IMASANさん

関西は、東京と異なり、蕎麦よりうどんのほうに存在感がある。京都でも、だしが効いたおいしいうどんを出す店はたくさんあり、どこもうまい。ハズレの店はほとんどないと言っていいだろう。祇園四条にある名店「権兵衛」には、うどんのほかに名物と言っていい親子丼がある。こちらの親子丼は卵のいい溶け具合とだしの効いた味で、京都・南座に集う梨園の人々からの支持も高いという。東京からやってくる名の知れたビジネスパーソンもこちらで軽く腹ごしらえした後に飲みに行くパターンが多い。

写真:よ山人,Jr.さん

 

京都に行くときは、飲食店を決めてから観光したほうがいい。観光で疲れた後に店が決まっていれば、心の余裕もできるし、おいしい料理で癒やされると豊かな気分になれる。豪邸見学のあとに食べると、とくにそのおいしさが身体に染みてくる気がするはずだ。