これまでに約2万7,500杯のラーメンを食べてきた自称「日本一ラーメンを食べた男」大崎裕史さんのとっておきは、なんとモダン・イタリアン!?  2度の来訪で「これは多くの人が喜べる、そして楽しめるお店だ」と確信した理由とは?

口内調理に特化したワンスプーン、デザートのような煮穴子、多国籍サンドイッチ、冷やし出汁茶漬け風パスタなど、名物シェフの人生を詰め込んだような個性派料理の数々に、今日も客席から感嘆の声があがる!

馬肉、らっきょう、チェリーなどがのったスプーンを口に運べば、いざショータイム!

〈食いしん坊が集う店〉

食べることが好きで好きで、四六時中食べ物のことを考えてしまう、愛すべき「食いしん坊」たち。おいしいものが食べたければ彼らに聞くのが間違いなし! お気に入りの“とっておきのお店”を教えてもらった。

教えてくれる人

大崎裕史

1959年生まれ。自称「日本一ラーメンを食べた男」。25年以上、年間700〜800食を胃袋に収める無類のラーメン好き。とはいえ外食率95%なのでラーメン以外にも、フレンチ、イタリアン、中華、B級グルメと「食」の守備範囲は広い。一方「職」の守備範囲も広く、2005年には株式会社ラーメンデータバンクを設立。ラーメンイベント、ラーメン複合施設、カップ麺、チルド麺、冷凍麺などを複数監修している。また、TV・ラジオ・雑誌にも多数登場。

奇をてらう訳ではない、自由な発想の料理すべてに独自の哲学が宿る「IZA」

シェフのステージとも言えるカウンター席。見事なベリーウッドの一枚板だ

食べログの点数は3.72と七里ヶ浜エリア最高得点であり、2021年の「食べログ イタリアン EAST 百名店 2021」にも選ばれながら、突如閉店した「リストランテ シーヴァ」。その元オーナーシェフが、移転の告知もなく鎌倉駅西口近くの路地裏に開いたのが「IZA」である。

仲間内でゆったり美食を楽しむならテーブル席も選べる

空間を贅沢に使った予約必須の少人数制で、メニューは昼夜ともに16,500円のコースのみ。「前の店舗の名前に頼らず、どこまで評価を集めることができるか、試してみることにしたんです」と出迎えてくれたのは、新進気鋭の料理人である芝先康一シェフだ。

稚鮎の春巻きを仕込む芝先シェフ。春巻きということは中華!?
 

大崎さん

14〜16皿と多くの料理が楽しめるお店。一皿一皿が凝っており、遊び心も含めて大変楽しめ、そしておいしく味わえます。イタリアンなのかフレンチなのか和食なのか、いろんな「技」が使われていて食材の組み合わせや食べ方もおもしろい、全体的に「私好み」な感じでした。

多彩な料理を作ってきた経験を一皿ごとに詰め込んでいる

日本フランス料理界の巨匠・三國清三シェフに憧れて料理人を志した芝先シェフは、念願かない19歳から「ミクニ マルノウチ (mikuni MARUNOUCHI)」で修業を開始。フレンチの道を究めるつもりだったが、同じキッチンで働いていたイタリアンの名手によるペペロンチーノに感動し、イタリア行きを決める。

「パスタって麺を茹でてソースを絡めるだけでしょ?と、それまで完全にイタリアンをなめていました。でも、シンプルな中に数多くの技が詰まっていて、見様見真似で作っても全く再現できなかったんです。今になり思い返してみると、パセリのチョイスからもう間違っていましたね」(芝先シェフ)

イタリアンの技に魅せられた芝先シェフは星付きレストランで本場の技術を学び、帰国後26歳で広尾の名店「イル テアトリーノ ダ サローネ (IL TEATRINO DA SALONE)」のシェフに就任。33歳で独立を果たし、約5年間の営業で「リストランテ シーヴァ」を七里ヶ浜随一の名店にまで成長させた。

「いよいよ行動を起こす時」「無我夢中で働く」といった意気込みが込められた店名

「どんなに技術が優れていても、イタリアで生まれ育っていないと出せない味があります。だから、日本人としての発想で思うがままに料理を作るスタイルに行き着いたんです」と話す芝先シェフ。現在の料理は常連客から「複雑だけど、まとまりがある、おいしい味」といった評価を受けているが、店側としては「とにかく楽しんでほしい」がテーマだという。

次はどんな料理が飛び出すか!? ワクワクが止まらない少量多皿のコース

 

大崎さん

カウンター6席の目の前でシェフが作ってくれ、解説してくれるのでとても楽しく食べることができます。感心することもあれば笑えることもあり、大変楽しいひとときを過ごせました。

口の中で混ざり合い、料理が完成する「スプーン」

草原や森をイメージしたケースに盛り付けをする芝先シェフ
 

大崎さん

日本独特の“口内調理”をワンスプーンで実現。店主の解説付きで魔法にかかったかのように口内がおいしくなっていく。

2022年8〜9月の実況付き「スプーン」は熊本産の馬肉がメイン食材

「最初のサクサクした食感がアマレッティというビスケット、冷たいのはゴルゴンゾーラチーズのシャーベット、そして肉々しいのが馬のもも肉です。次第に感じる強い塩気は豚の背脂、シャキシャキとした食感で酸味があるのはラッキョウ。そして甘さはアマレーナチェリーのシロップ漬けによるものです。さらに噛んでいただくと、今後はピンクペッパーが弾け、ローズマリーの香りが追いついてくるはず。最終的には馬の旨み、ピンクペッパーとローズマリーの香りで終わっていきます」(芝先シェフの実況より)

風味が広がる最高のタイミングで芝先シェフの実況が入る

「複雑すぎてちょっとよく分からない」という客に「では、いまお客様の口内で起きている味の変化を説明します」と芝先シェフが始めたのが実況の演出。「情報と味が本当にシンクロしてて、めちゃくちゃおもしろい」と大好評だ。

「コロナ禍で色々なことを人と共有するチャンスが一気に減りました。ここに来たお客様だけでも、味覚を共有していただけたらうれしいです」(芝先シェフ)