過去の名作料理3種を融合させた「穴子」
三崎漁港の魚屋で仕入れた穴子は、丹念に下処理してから白ワインとオリーブオイルでマリネし、65℃の真空低温調理で30分ほど火を入れる。そうして登場するのがガスバーナーだ。まるでクレームブリュレでも作るかのように、穴子をカリッとキャラメリゼ。ソースは「もしもヨーロッパの料理人が穴子の煮きりを作ったら?」という発想で、煮詰めたマディラ酒にバターやフォンドボーを加えたものだ。
大崎さん
上からかけているのはフォアグラのかき氷です。まるでデザートを食べているかのような甘さと食感。最初に穴子と言われないと気が付かないかも? もちろん、おいしくいただいた。
こちらは「脂が重たいフォアグラを極限まで軽く食べるためにはどうしたらいいか?」という発想から生まれた「フォアグラのカキ氷」に加え、「穴子とフォアグラのテリーヌ」「穴子のキャラメリゼ」といった過去の名作料理を、芝先シェフが今の感性で再構築した料理だ。イタリアン、フレンチ、和食の要素が詰まっている。
ベトナム料理をリクエストされて作った「パニーノ」
料理誕生のきっかけは「シェフの作ったバインミーが食べたい!」という客からのリクエスト。そこでバインミーの定番具材である鶏レバーペーストを鮑の肝に置き換え、スイートチリソースとナンプラーを加えたソースを考案したという。
大崎さん
ハンバーガーのようなバインミーとパニーノの間の料理。サンドされているのは鮑、なます、鮑の肝のソースなど、味付けや組み合わせがユニーク。
「ランプレドットという牛の内臓を使ったフィレンツェの伝統料理のニュアンスも出したかった」という芝先シェフは、イタリアの定番パンであるチャバッタも手作りで焼き上げた。大根と人参のなます、レモンスライスも香り……たしかに、バインミーを彷彿とさせるおいしさだ。
海鮮茶漬け風の冷やし中華のような「カッペリーニ」
「人がおいしいと感じるものには共通点があります。その方程式に食材や調理法を当てはめ、パズルのように組み立て、複雑な味をまとめているんです」と個性的な料理をおいしく仕上げる秘訣を話す芝先シェフ。
それまでにコース内で提供した「ほろほろ鳥のグリル」のガラで作った出汁、鮑エキスが染み出た煮汁、使用できなかったハーブの茎などで、〆の冷製スープを仕上げていた。
大崎さん
私がいたからなのか、ほとんどラーメンのようなスープパスタでとてもおいしい。いつもあるメニューではないかもしれません。ほろほろ鳥のガラのスープと鮑の煮汁がおいしい。
芝先シェフいわく「大崎さんのようなラーメン評論家に出して良いものか悩みましたが、喜んでくださってホッとしました(笑)」とのこと。スープだけでなく具材も鱒のイクラ、茅ヶ崎名産のしらす、三浦野菜のとうもろこし(ホワイトショコラ)とオクラ、真空低温調理でキクラゲ風に仕上げた徳島の椎茸など、多彩な要素を詰め込んでいる。
茶碗の真ん中に入れた泉州水なすは大阪産。じつはシェフの出身地は大阪なのだ。言われてみると、料理の随所から感じる「とにかく楽しんでほしい」というサービス精神は地元で育まれたものだろう。
「こういう街で生まれて、こういう物を食べてきたから、こういう料理に仕上がっている。自分のアイデンティティが料理に個性を与えているのだと思います」と芝先シェフ。フレンチやイタリアンの枠に収まることなく「IZA」らしい、彼らしい料理で今日もゲストたちを楽しませている。