旬の素材の良さを生かしつつ、ひとつひとつ丁寧な仕事を施している

2019年4月、兵庫県姫路市に一軒の日本料理店がオープンした。場所は姫路駅前の繁華街から少し離れた幹線道路沿いに立つマンションの1階。あまり人通りも多いとは言えないロケーションながら、地元姫路はもとより、市外からも食通が足を運ぶちょっとした話題店になっている。それが「日本料理 淡流」だ。

マンションの1階ながら、店頭には凜とした雰囲気が漂う

その味に魅せられた一人が、食べロググルメ著名人の山本憲資さん。「自分も取材を受けた雑誌『婦人画報』の和食特集でこの店の紹介記事を読み、存在を知りました」と出合いを振り返る山本さん。

教えてくれる人

山本憲資
Sumally Founder&CEO。1981年生まれ。一橋大学商学部でゲーム理論を専攻した後、大手広告代理店の電通に入社。その後、コンデナスト・ジャパン社に転職し、雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、“モノ”を通じてユーザー同士が繋がるSNS「Sumally」を立ち上げる。

地元素材の良さを価値ある料理に昇華させ発信していく

表千家の講師でもある店主の中江悠文さん。食事の最後には茶を点ててくれる

店内のカウンターで出迎えてくれたのが店主の中江悠文さん。姫路の隣町・高砂市出身で、22歳の時にオーストラリアに渡る。その後ヨーロッパや中東の和食店で働いた後に、東京・赤坂の料亭を経て、名店の誉れ高い「銀座小十」の料理長を務める。実に異色であり華々しい経歴の持ち主なのだ。

「地元播州の食材は派手ではないですが、その良さを引き立てる料理で、魅力を発信していきたいです」と語る中江さん。それだけに野菜も魚介も市場を通さず、直接生産者の元へ自ら足を運び目利きする。「毎日旬の素材でその日の料理を考え、提供させていただきます」

シンプルにして清潔感溢れる店内。カウンター席も十分ゆとりを設けている
カウンター席とは入口も異なる個室には茶室も併設されている

料理は17,600円(サービス料別)からのコースのみ。先付けから、前菜、椀物、造り、焼き物、煮物、揚げ物、ご飯に最後のお茶菓子まで、季節の素材を使った品々がおよそ10品提供される。確実に楽しむなら、遅くとも前日までの予約を心がけたい。今回は、そのコースの一部を紹介することにしよう。

爽やかな酸味で味覚が覚醒するコースの幕開け

地元で取れた蓮の葉を器にして盛られた先付け

この日の先付けは、大胆にも蓮の葉に盛られたヴィジュアルが印象的な「車エビと夏野菜」。大振りの車エビのまわりには、カボチャ、オクラ、焼きナス、フルーツトマトと、まさに夏を代表する野菜が並ぶ。それらの具材には、だしを加えたスダチのゼリーがかかる。

ハスの葉の下には氷が敷き詰められ、冷たい状態のままで楽しめる

「暑い季節の先付けには、酸味を利かせた料理が多いです。さっぱりした味で舌を一旦リセットして、これからお出しする料理を楽しんでいただければ」と狙いを語る中江さん。これ以外に「豆腐のすり流し」なども、先付けの人気メニューだ。

 

山本さん

車エビの弾力、香ばしい焼きナスのほっこり感、フルーツトマトの甘みなど、様々な食感や味が楽しめます。それぞれの具材に、スダチゼリーの爽やかな酸味がよく合います。これほど異なる素材を使っていながら、一品料理として絶妙なバランスが保たれているのに驚きます。