広島の麺料理

日本全国で愛されているご当地グルメ。料理名の頭にその料理が誕生した地名が付くことが多く、人気になればその町の知名度もアップするなど、町の活性化に一役買う場合もあります。そんなご当地グルメの成り立ちには2パターンあり、その地域全体で広く愛されている料理が全国に広がる場合(この場合は市内に何軒もその名物のお店があります)と、一軒のお店の名物が全国区の人気を誇る場合があります。「呉冷麺」は後者。一軒のお店の名物が、全国の麺ファンを唸らせるまでになったのです。

教えてくれたのは

村山ゆかり
広島県呉市出身。広島弁のまま飛び込んだ関西のストリート雑誌の編集部を経て、グルメ&タウン情報誌、自治体や企業の広報誌など、気がつけばライター歴20年超。最近は呉市が官民一体となって取り組むリノベーションまちづくりにも参加し、ヒト・モノ・コトがまちで出会う瞬間を言葉に紡ぎ届けている。

1955年の創業と同時に誕生した「珍来軒」の看板料理

2008年より現在の店舗にて営業。週末のみならず、平日も行列ができる
カウンター8席、テーブル28席の店内。11時半の開店直後から満席になることも

終戦から10年後の1955年、呉市本通4丁目に「珍来軒」はオープンしました。高度成長期に突入した当時、造船業が盛んなこの町には日本各地から多くの人が訪れ、昼夜問わず活気が溢れていました。そんな時代背景の中、屋台営業から店舗を構えることを決めた先代が、ここでしか食べられない名物をと考案したのが「呉冷麺」です。まさに、食の激戦区で勝ち抜くための唯一無二のオリジナルを追求し、誕生したのです。

呉冷麺(小・800円)。ほどよいコシの平打ち麺はスープとの絡みも抜群

先代が「呉冷麺」を作るにあたって一番最初に開発したという、ピリ辛スープ。「珍来軒」で提供するすべての麺料理のベースとなる鶏白湯スープに、唐辛子を利かせて、鶏白湯の甘さと唐辛子の辛みを同時に表現。一口目には甘みが、後から辛みが追いかける独自のスープです。2代目店主の檜垣さんもスープ作りは一番大切にしていることと話すほど、呉冷麺の真髄と言っても過言ではありません。

地元の製麺所、大栄食品に特注するオリジナル麺

「先代が製麺所と一緒に開発したのが、この平打ち麺です。鉄工所の社長さんにも参加してもらって麺の形状にもこだわったと聞きました。残念ながらその製麺所は廃業してしまって、今は別の製麺所に先代が開発したものと同じものを作ってもらっています」と檜垣さん。麺のみならず、いろんなプロの経験と知恵を借りて「呉冷麺」が生まれたことを教えてくれました。

元々は地元、呉で取れたエビを使用していたそう

具材は創業当時から変わらず、チャーシュー、エビの酢漬け、ゆで卵、きゅうりの4種類。チャーシューは柔らかく仕上がる豚バラ肉を使用。親子3代で足を運ぶ常連客も多く「先代から受け継いだ味を『昔と変わってないわ~!』と言われるとうれしくなりますよね」と檜垣さんもにっこり。

半分ほど食べたら、オリジナルの調味料「酢からし」の出番!

まんべんなく回しかけます。辛みが苦手な方はかけすぎにご注意を

実はこの「呉冷麺」、卓上の調味料で味変を楽しめるのも魅力のひとつ。半分食べ進んだら「酢からし」と名付けられたオリジナルの調味料を、円を描くようにして全体に回しかけます。量はお好みで。ちなみに、檜垣さんのおすすめは5周(!!)だそうです。

まろやかなお酢に唐辛子を1~2日間漬けておいたもので、これをかけることによって辛みが引き立てられ、スープがキリッとした印象に変わります。珍来軒では飲める酢を使っているので、お皿に残ったスープは最後の一滴まで飲み干すのが正解。

ともに、ソムリエ田崎真也さんプロデュースのお酢を使用

卓上には、酢からしのほかに、黒酢もスタンバイ。酢からしとは対照的に、黒酢をかけることによって甘みが増しふわっとまろやかな印象に。欲張りな筆者は、酢からしと黒酢の同時かけについて檜垣さんに聞いてみましたが、檜垣さん的には「どちらかひとつにするのがおすすめです(笑)」とのことです。