お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない!と言っても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第33回は、様々な文学作品の舞台としても知られる歴史ある街、東京・神楽坂のスイーツスポットを紹介します。後編は、人気のパティスリー2軒とプリンの名店1軒が登場!
【猫井登のスイーツ探訪33・後編】神楽坂のスイーツショップを巡る
食べログマガジン編集部
前編では、パン屋さん、和菓子屋さん、神社内のカフェと回りましたが、後編はまずどちらへ?
猫井先生
後編はパティスリーからスタートしましょう!
【4軒め】「オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド 」
食べログマガジン編集部
うわぁ~、大きなシャンデリアがあって豪華な感じのお店ですね!
猫井先生
1997年、フランス北部・リールにできた比較的新しいお店ですが、ロンドンやニューヨークなど世界に40店舗以上を展開しているパティスリーです。こちらのお店は日本初上陸、2020年6月のオープンですね。
食べログマガジン編集部
リールってどんな場所なんですか?
猫井先生
ベルギーと国境を接する地域で、お菓子もベルギー色が強いですね。
食べログマガジン編集部
ベルギー色の強いお菓子ってどんな感じなんですか?
猫井先生
まあ、一番わかりやすいのは「ワッフル」ですよね。ベルギーのブリュッセルやリエージュのものとは少し異なりますが。あと、店名にもなっている「メルベイユ」は、ベルギー三大古典菓子のひとつとしても有名なものです。今でこそ、リール一帯はフランスとベルギーに分かれていますが、歴史的にはどちらもフランドル伯の領地だったわけですから、お菓子も同じなのは当然と言えば当然です。
食べログマガジン編集部
なるほど〜。「メルベイユ」って、どのようなお菓子なのでしょうか?
猫井先生
基本的には、しっかりと焼いたメレンゲに生クリームをこんもりと絞り、チョコレートを削ったものを表面にまぶしたお菓子ですね。こちらのものは小ぶりですが、もっと大ぶりなものも多いですね。
食べログマガジン編集部
たくさんをちょっとずつ食べたいタイプの人にとっては、小ぶりの方が色々なフレーバーを楽しめてうれしいところです。窓付きの箱のコフレもあってプレゼントにしても喜ばれそうですね! おすすめのフレーバーはありますか?
猫井先生
まずは伝統的な「メルベイユ」。チョコクリームとダークチョコレートの組み合わせですね。あとは黄色い「エフェメール」。エフェメールとはフランス語で「儚い」という意味ですが、この場合は「期間限定商品」という意味でしょう。今日は、マンゴーのホイップクリームにパッションフルーツのホワイトチョコレートをまぶしたものになっていますね。
食べログマガジン編集部
カラフルな見た目もかわいいです。ピンク色のものはどんな味わいなんですか?
猫井先生
ピンク色の「エキセントリック」は、メレンゲにチェリーホイップクリームを絞り、クリスタルメレンゲチップ(メレンゲの粒)でコーティングしたものですね。チェリーの甘酸っぱさがいいですよ。「マニフィック」は、メレンゲをプラリネホイップクリームで覆い、さらにキャラメリゼしたヘーゼルナッツをまぶしたものです。ナッツ感あふれる一品で、個人的にはこれが一番好きですね。メレンゲのカリッ、ネチッとした食感、香ばしいナッツの余韻を残して、口の中でクリームがふわっと溶けていく感じがいいんですよね。
食べログマガジン編集部
選ぶのも楽しいですね! そして、ワッフルも忘れてはいけませんね!
猫井先生
リールのワッフルは薄く長い楕円形に焼いて、間にバタークリームを挟むのが特徴ですね。バニラ風味のバタークリームはシャリシャリとした砂糖の食感が残っていて、面白いですよ。
食べログマガジン編集部
確かにこちらのワッフルは舌みたいな形が特徴的ですね。形と言えば、ショーケースの上にある大きな丸いパンも気になります。
猫井先生
こちらは「クラミック」ですね。17世紀頃からあるとも言われ、伝統的にはコリント種の小粒で酸味のある干しブドウをブリオッシュ生地に入れ、食パン型で焼くことが多いですね。干しぶどうを入れず、あられ糖だけを入れたものは「クラックラン」と呼ばれますね。こちらのお店では、チョコチップを入れたものが一番人気です。甘さ控えめで、わりとあっさりとしているので、朝食にもぴったりですよ! あとは、せっかくなのでメレンゲも忘れずに!
食べログマガジン編集部
そうでした! フランスの人ってメレンゲ好きなイメージがあります。ケーキの土台も日本=スポンジ、フランス=メレンゲという印象が強いです。
猫井先生
フランスだと、どのパティスリーでも見かける定番のお菓子ですね。カスタードクリームを作るときにたくさんの卵黄を使いますからね。余った卵白に砂糖を加えて泡立てて絞り、お店の最後にオーブンの余熱で焼くわけです。しっかりと火が通って中央部分がキャラメル化したメレンゲはなかなかの味わいですよ。