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〈食べログ3.5以下のうまい店〉
おいしい店は食べログ3.5以上」なんて言う人もいるが、それは東京や大都市の話。
口コミ数が比較的少ない地方都市では、「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことも十分あり得る。
そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回の推薦者は、料理雑誌をはじめ食の取材を多く手がけるライター&カメラマンの佐藤潮さん。近所にあったら毎日通いたいと思わせる普段使いの隠れ家ビストロだ。
教えてくれる人
佐藤 潮
北海道札幌市出身。2005年から編集執筆のほか撮影も行う。これまでに「東京カレンダー」「おとなの週末」「食楽」「料理王国」「フライデー」といった媒体でグルメ記事を制作。チベットやアマゾンの奥地など世界各地の料理も食べ歩く。高級フレンチから昆虫の素揚げ、ジンギスカンキャラメルまで、どんな食べ物でも楽しくいただくのがモットー。共著に「夢がかなう世界の旅」(ぴあ)。
地元で15年の小さな人気店「ビストロ・サンミ」
スープカレー、ジンギスカン、海鮮丼と札幌に来たら食べたい3大グルメ。が、最近では「北海道イタリアン」「北海道フレンチ」など北海道の食材を使用し、食通をも唸らせるイタリアンやフレンチが多数。食べログの点数は3.17だが、近所にあったら毎日通いたいと佐藤さんが絶賛するビストロ。すすきのの手前の仲通りという隠れ家にぜひ行かねば!
※点数は2021年12月時点のものです。
旬の食べたいものが並ぶ、北のビストロ料理
「すすきのの店は、扉を開くまでわからない」。多くの旅人がそう言う。「ビストロ・サンミ」も、ビル4階にある11席だけの小さなお店。佐藤さんは、友人の行きつけだったことから10年ほど前に初訪問したそうだ。「一通りコース料理を食べて、オーソドックスながらとても丁寧に調理されているのが伝わりました。ワインとの相性も高く、落ち着いた雰囲気で居心地もよく、それから通い出したんです」とすっかりファンに。
店のオーナーシェフで1人で店を切り盛りする三味さんは、東京のフレンチとイタリアン数軒で28歳までしっかり腕を磨き、札幌に戻って2年後にこの店を開いた。「最初はフランス料理を出さなくちゃと固く考えていたんですが、お客様と打ち解けていくにつれて、自分が今おいしいと思うものをお出しすればいいんだな、と気持ちが自由になったんです。そのお陰で15年続いたのかもしれません」と、いい笑顔に。
人見知りなシェフの、旬を楽しむビストロ料理
佐藤さんによれば、ビストロサンミの味は「心に染み入るようなビストロ料理」だという。「北海道の旬の食材を積極的に使っていて、その持ち味を上品な調理で引き立てています。奇をてらったような料理ではなく、あくまで基本に忠実」メニューブックには濃厚オニオングラタンスープやエスカルゴなど、ザ・ビストロ! な定番料理が、また黒板メニューにもワインが進みそうな料理が並んで、目移りしてしまう。
三味さんは、実はとても人見知りな性格。これはひょっとして、一見さんにはハードルが高いのでは!? 「いえいえ、初めての方も大歓迎なんですが、なにぶん小さな店なので満席のときはごめんなさい。あと、料理の最中は振り返って“どうぞ”くらいしか言えないこともあって……。ほんと、1人でやっているのですみません!」と三味さん。恐縮しきりの心優しい(そして人見知りな)三味さんだが、魚や肉の火入れをするときは背中に集中力が漂う。
まずはこれ!「滝川産合鴨のロースト」
佐藤さんがぜひオーダーしてほしいと教えてくれたのは「滝川産合鴨のロースト」。たっぷりとボリューミーだがお値段は手頃で、ワインが進む進む! 札幌から北に向かう滝川市で肥育されるチェリーバレー種の合鴨は北海道のシェフの定番食材で「スノーホワイト」という銘柄名で呼ばれるのだそう。鴨、豚、鹿といったビストロらしい肉料理を大切にする三味さんは、この鴨を10年前から愛用している。
佐藤潮さん
見事なロゼ色の焼き加減! 脂が適度に削ぎ落とされており、赤身のおいしさが際立っています。道央のエルムケップ山からの鉄分豊富な伏流水で育てられた鴨だけあって、赤身が本当に良質なんです! ありがとうエルムケップ山!!
この合鴨ロースト、佐藤さんは「ソースは各種あるようですが、私の好みはサラサラで上品な赤ワインソース。淡白なニュアンスなのですが、これが鴨の赤身にジャストミート!」とのこと。写真は、これを聞いた三味さんが仕立ててくれた赤ワインソース。他にもポルト酒ソースなどバリエーションは豊富で、季節やシェフの気分で何が出るかはお楽しみだ。
佐藤さんがおすすめする定番メニュー3つはコレ!
アラカルトのいいところを集めた「前菜盛り合わせ」
席について最初にオーダーしたいのがこちら「前菜盛り合わせ」だ。オーダーはアラカルトで軽く一杯やるのもいいが、実は予約すると3,000円〜4,000円を目安に見繕ってくれる「おまかせ」にする人が増えている。三味さんがワインの進み具合も見つつ、定番と黒板メニューから見繕って料理を出してくれるのだが、そんなときにも最初に出る一皿だ。
佐藤潮さん
旬の食材によって内容は異なるのですが、5種類くらいがプレートで出てくるので、まずは1杯目と合わせて。レバーパテや生ハム巻きといった定番料理をはじめ、カルパッチョなどイタリア風のものあり。これひとつで色々なお酒と楽しめます。冬の定番はドライいちじくのレーズンバターで、1杯目からピーティーなスコッチもあり!?
この日の前菜盛り合わせは5品。柿とクリームチーズの生ハム巻き、レバーパテ、自家製のドライいちじくバター、クロゾイのカルパッチョ。さあ、どのボトルを頼もうか。ちなみにワインの価格設定もお手頃で、2〜4人で赤白一本かそれ以上オーダーするテーブルが多いらしい。
旬の食材を活かした「クリーミーグラタン」
殻付き牡蠣のグラタンは、冬の限定メニュー。たっぷりのベシャメルソースと牡蠣をハフハフ言いながら食らうのは、楽しいの一言! ちなみにこの日の牡蠣は道東の名産地、昆布森漁港のものだった。
佐藤潮さん
道産殻付き牡蠣をまるごと使用した、冬のごちそう。シンプルなベシャメルソースに牡蠣の旨味が染み出していて、一体感がすごい! 主役であるの海のミルク部分への火入れが絶妙で、熱々ながらプリッとした食感も活きています。すっきり系の白ワインにも、酸味の利いた純米酒にも、ジャパニーズウイスキーにもぴったり。
コースでしか味わえない「北海道の鮮魚のポワレ」
おすすめ料理3品目は、その日の魚のポワレ。実は前述した予約制のコース限定の一品なのだが、佐藤さんがぜひ食べてほしいという逸品だ。写真のクロゾイの写真も皮目パリパリ、白身ホクホクで、これならば北海道のうまい魚を寿司以外でも堪能できる。ソースはトマトベースのこともあれば、寒い季節にはコクのあるスープドポワソンやアメリケーヌソースのこともあって、ワインとの相性は抜群だ。
佐藤潮さん
冬は道産のクロソイやアオソイが定番。皮目が見事にパリパリで、身は引き締まりつつ旨味が溢れ出る感じ。本日のソースのなかでも、私が好きなのはコクのあるトマトベースのもの。自家製のパンを追加で頼んで、最後の一滴まで楽しみます。
ワインもお手頃、食後酒はウイスキーも
ところで、お酒の揃えはどうだろう。旬のビストロ料理に合わせるお酒はワイン、という人が主流だが、食後酒には自身も大好きで醸造所巡りで買い集めたジャパニーズウイスキーも意外に豊富だ。「おいしいウイスキーをショットかオンザロックでちょっとだけ飲んで締めくくってくださるお客様、僕もうれしくなっちゃいますね!」と三味さん。
そういえば佐藤さんも「ワインだけじゃなく日本酒やウイスキーにも力を入れているんですよ」と教えてくれた。お店を使い慣れている佐藤さんは「1軒目でしっかり食事をするのも良いですが、二軒目以降で飲み直したいときにも最適」という。
三味シェフがワンオペで営むビストロ・サンミは、誰もが肩の荷を下ろして食べて飲める場所だ。困ったことに、愛されすぎて常連率が高めだし、笑顔で出迎えるマダムもいない。しかし、内気なお店も嫌いじゃないよという人にとって、ここはきっと、すすきののホームのような一軒になるだろう。
※価格はすべて税込