【食を制す者、ビジネスを制す】

第10回 自腹じゃない食事は楽しいのか?

 

もし、あなたが大企業の社長になったとしたら、日常生活の何が変わるのだろうか。

まず変わるのは、一日の生活の中で、自腹を切ることがほとんどなくなることだ。朝食後に自宅を出てしまえば、ほとんどの行動は社業として認められるため、自分の財布を出すことはほとんどなくなり、経費扱いとなる。

専用のハイヤーもつけば、専用の部屋もつく。一人でランチを取りたければ、秘書室が松花堂弁当などを用意してくれる。夜は夜で会合を二、三軒はしごすることが日課となる。一人になっても、コーポレートカードを使えば、そのほとんどは経費扱いだ。

しかし、取引先などに気を遣わなければいけないこともあり、必ずしも好きなことばかりできるわけではない。例えば、三菱グループなら、会合時にビールならキリン、集まりは東京會舘といった具合だ。役員専用車も地位や会社の格を表すものとして、好き勝手に車種を選んでいいわけではない。例えば、社長がトヨタのセンチュリーであれば、ほかの役員はクラウンだったりする。子会社の社長も本体社長がベンツなら、自分はベンツ以下のグレードの車種ということになる。

 

社長のプライベート時間はほとんどない

かつて丸の内にある東京會舘本館では、よく大企業の社長たちを集めた財界関係のパーティーが開かれていた。その際、社長の専用車は駐車場に入ることなく、路上で待機している光景がよく見受けられた。社長たちは会合やパーティーでは、最後までいることはほとんどない。会合をハシゴするからだ。注目されている忙しい社長ほどそうだ。反対にどこの誰だかわからないような社長は、ずっと一人で会場をうろうろしていたりする。

こうした会合やパーティーのときに、社長たちの人間ウォッチングを楽しめる。有名になってしまったがゆえに名刺交換したい人で絶えず行列ができて困惑している人。知人数人で固まって最後までずっと話しこんでいる人。有名人とツーショットで写真を取りたがる人。人見知りのため連れてきた部下だけに囲まれて、煙草を所在なげに吸っている人。有名社長なのに実権がなく、誰も寄ってこない過去の人。奥さんが会場に到着したと秘書から聞いて逃亡を図る人……。

社長同士は見栄の張り合いという面もあるから、そうそう本音で話せるわけでもない。ほとんどが世間話か挨拶程度で、新聞や雑誌で見る他業界の社長の顔を確認したり、名刺交換したりするためだけに来ている人もいる。

そんな社長の休日は土日のどちらかはゴルフで、ほかにも現場の視察に出かけたりして、プライベートな時間はほとんどない。本当に一人で休め、家族と過ごせるのは、土曜の夜から日曜の午前中までだったりする。日曜の夜は海外の状況把握や月曜日の会議のための準備もあり、落ち着かないようだ。

 

三菱首脳御用達の東京會舘のカレーライス

そんな忙しい大企業の社長たちが、仕事関係の会合前後によく寄っていたのが、東京會舘の「メインバー」だ。現在、丸の内本館は建て替え中のため、内幸町の富国生命ビル内で営業されているが、かつての本館では、皇居前という好立地もあり、財界人たちが夕方から飲んでいることもちらほら。当時の三菱財閥の当主も早い時間からお酒を楽しんでいたという。

出典:お店

 

2019年1月には本館でも営業が再開される予定だが、富国生命ビルの臨時店舗も雰囲気が良く、サービスは変わらず一流。ぜひ寄ってみてほしい。

さらに注目してほしいのは、東京會舘のカレーライスだ。欧風カレーの王道中の王道と言えるカレーで、意外性は少ないが、歴史を刻んだ何とも言えない味わいがある。今はこちらも同じ富国生命ビル内で営業されており、「東京會舘レストランロッシニ」で食すことができる。実は、このカレーライスが興味深いのは、三菱グループの最高意思決定機関である「金曜会」でランチとして供されていることだ。

 

まさに財界のエスタブリッシュメントたちが、一斉にカレーライスを食しているのを想像してみると、なんだかおかしい。私も東京會舘のカレーライスを何度か食したことがあるが、いつも仕事がらみのランチなので、じっくり味わったことがない。そんなとき覚えているのは、ランチビールのノド越しの味わいだけだ。今度こそ、じっくり味わってみようと思うのだが、いつになることやら……。