定食王が今日も行く!

あの大河ドラマ俳優も朝ドラ女優も食べた!? 創業45年の老舗の和牛定食

 

 

役者たちが集う渋谷の隠れ家で

70年代へタイムスリップ

 

渋谷の“奥”がここ最近注目を集めている。“奥渋谷”と呼ばれる東急百貨店の本店通りから、代々木公園周辺には、NHKやシアターコクーンに出入りするテレビ、舞台関係者の行きつけとなっている老舗が多くある。洋食店「牛舎」は渋谷の東急ハンズからNHKに向かって井の頭通りを歩く途中のNHK関連のオフィスが入居するビルの地下にある。知らなければ通りすぎてしまうだろう。しかし、この知る人ぞ知る感がたまらないのだ。

 

創業は昭和47年(1972年)。当時の朝の連続テレビ小説では、真木洋子主演の『藍より青く』、大河ドラマでは仲代達矢主演の『新・平家物語』が放送された年だ。店の外には、その時々のNHKのサイン入り連続ドラマのポスターなどが貼られ、製作者や出演者などが訪れたことをうかがわせる。

 

また店のショーウィンドウにはカープの聖人とも言われる衣笠祥雄選手が1983年に2000本安打を達成した際のサイン入りの記念証明書や、当時の広島カープの選手たちの寄せ書きサインなどが飾られている。さらに店内にもカルガリーオリンピックの戦利品をはじめ、当時を思わせる品々があちこちに飾られている。数十年近く変わらないというディスプレイからも、その変わらない仕事ぶりがうかがえる、昭和50年代に舞い戻ったような錯覚に陥る空間だ。

 

 

つゆだくの和牛焼肉と

ポテサラのハーモニーで昭和の味に浸る

 

その歴史の長さから、「いつものやつで!」という常連さんも多い。牛舎という名前にもかかわらず、創業当時から続く“いつものやつ”とは、「ポーク生姜焼き」のことだ。しかし、私のお気に入りは牛舎ならではの「和牛焼肉」だ。

 

 

基本的にはポーク生姜焼も、和牛焼き肉も調理法は似ており、塊肉を薄くスライスしており、秘伝のタレがよく絡む。一部希少部位以外は厚切り至上主義が主流の和牛を、最近では珍しい薄切りにして、ジャブジャブと秘伝のタレで炒めるところに、この店ならではの昭和感を感じる。その肉の柔らかさと、ほんのり甘めな味付けに、どんどんご飯が進む。

 

白飯もツヤツヤ輝いており、その芯を残した炊き加減が絶妙でうまい。老舗ならではのおもてなしで、ご飯と味噌汁がおかわり自由なのもうれしい。

 

 

同じプレートに盛りつけられたポテサラとサラダにも、その秘伝のタレが染みてしまっているが、そのごちゃ混ぜ感が、なんだか昭和っぽくて懐かしい。

 

 

味噌汁がマグカップで提供されるのも老舗洋食店らしいプレゼンテーションだ。具材は上に浮かぶ揚げだけでなく、ワカメや豆腐がちゃんと入っており、実家で食べるような味わいに、ホッとする。

 

創業以来レシピを変えていない店は、時代や味覚が変わることによって時代錯誤な味になりがちだが、この店の普遍的な味わいを生み出すレシピには唸らされる。ハムカツ、カニクリームコロッケ、カレーライスなど、ほかのメニューもとっても昭和感を感じさせるものばかりだ。

 

 

80歳の修理士が支えた

80年モノ!?のレジスターが引退

 

この店の昭和な空間を彩る名物のひとつといえば、イロハニホヘトのボタンがついたレジマシン。創業時にすでに使われていた古いものを使っていたそうだ。アメリカで1930年代にR.C. Allen Systematic社が製造していた製品を、日本向けに作りかえたものだとか。今月(2017年8月)訪れた時には、すでに引退を果たしており、新しいマシンが導入されていた。どうやらこのマシンを修理できる人が、日本にはひとりしかいないとか。その方が80歳を越え、ご高齢で入院をされてしまっているため、やむを得ず新しいマシンを導入したそうだ。

 

長年の歴史をもつ老舗は、食べること以上の体験がある。数十年も前の人たちや、憧れの著名人とも同じ空間を共有し、時空を超えた追体験ができるのも醍醐味だ。45年前の味と雰囲気をそのまま体験できる奥渋谷の「牛舎」。タイムトラベルした気分を楽しみながら、昔ながらの和牛定食を召し上がれ。