予想通りのおいしさで迎えてくれる安心感
最近話題のフランス料理で言えば、銀座「ル・シーニュ」や西麻布「蒼」はきわめて現代的な料理だが、両店ともビストロや古典的なフレンチの思想が料理に反映されている。だからフランス料理を知りたいなら、まずはビストロの料理をきちんと押さえたほうがいいと思うのだ。
しかもビストロの料理は、リーズナブルに食べられるところが多い。もう30年以上前になるが、当時でもフランス料理のコースは5,000円以上するなか、前菜・主菜・デザートまでついて昼1,500円、夜2,500円というコースの店が四谷にあらわれた。そこは「パザパ」という名前で今も健在だし、この店で修業して同じようにリーズナブルなフレンチを提供しているシェフは多い。
ビストロ 百名店のリストのなかで言えば「ラミティエ」や「ブラッスリー・グー」がそうだ。どこもボリュームがしっかりあり、味もいい。
「なんでこんなに安くできるんだろう」と当時、友人たちと議論をしたことがあった。結局、高級食材を使わず、シャルキュトリやコンフィ、煮込みなど保存がきく料理を活用、定番メニューを長く出しているから原価を抑えられるのだろうという話になったが、それこそが「パザパ」に限らず、ビストロのビストロたる所以というわけだ。今だって「パザパ」は夜でも3,000円以下で味わえる。
たとえば夏の暑い日にビストロを訪れたと考えよう。フランス料理だからといって恰好をつけず、普段着でビールでも飲みながらメニューを検討すればいい。
この季節においしいのはムール貝だから「ムールマニエール(ムール貝の白ワイン蒸し)」を前菜にして、メインは子羊のローストかトリップのカーン風(牛胃袋のリンゴ酒煮込み)あたり、だとしたらワインはキンキンに冷やしたロゼと赤ワインかな。
ワインリストを見る必要もない。ハウスワインと言えば店の定番が出てくるし、ワインリストのどのワインよりも安い。丸々一本が難しければカラフェ(3分の2くらいの量を水差しに移し替えたもの)でも、グラスワインでもいい。
店によって多少のアレンジや修業先の流儀はあるだろうが、予想していた料理がきちんと現れて、予想通りにおいしい。それが日常で食べる食事の安心感というもの。そんな定番の味を知るためには近所のビストロに通って、季節を問わず一年中書かれている料理を味わうのが早道だ。それには「食べログ ビストロ 百名店」リストがなによりも役立つ。