『百名店』の京都の和菓子

長い歴史を刻み、職人の心が宿る京都の和菓子。その精妙で奥深い世界を頂く側も知ることができれば、より親しみを持って楽しむことができるはずです。

 

食べログでは全国の菓子店の中で食べログユーザーから高い評価を集める100店として『スイーツ 百名店』を発表。和菓子店は25店舗、そのうち京都の店は10店舗が選出されました。

 

洋菓子店ばかりが並ぶと思いきや、和菓子の人気は現代でも衰えることはなく、しかもその多くが京都の店という結果でした。これは、“和菓子といえば京都”、“京都といえば和菓子”という考えが、どれだけ時を経ても日本人に根付いているからこそではないでしょうか?

 

今回集まった京都の和菓子店の一店一店を、和菓子ライフデザイナーの小倉夢桜さんに紐解いていただきます。

 

 

其の一、「茶寮・宝泉」

京都下鴨の地に縄文時代より今なお残る広大な原生林の森。

世界遺産「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ) 通称・下鴨神社」の境内にある糺の森(ただすのもり)です。

 

その下鴨神社からほど近く、京都らしい閑静な住宅街に佇む立派な日本家屋が今回ご紹介させていただくお店「茶寮・宝泉」です。

 

2003年に下鴨神社と縁が深い、素材にこだわる和菓子屋「宝泉堂」が、京都を感じながら、喧騒を忘れて和菓子とお茶をくつろいで召し上がっていただきたいという想いから開店された茶寮です。

暖簾をくぐると打ち水をされた石畳、青(緑)鮮やかな苔が目に飛び込んできます。

一歩、足を踏み入れただけで清々しい気持ちになり、非日常的な空間に期待で胸が膨らみます。

店内には、さりげなく細やかなしつらえが施され、自然と五感で京都を感じる居心地の良さ。

自然と心が癒やされます。

今回の取材は、「五山の送り火」が間近な日。

床には、大文字の軸が掛けられ、昨年の「五山の送り火」の火床で焚き燃えきった大きな消し炭が飾られていました。

家庭の魔除け・厄除けとされて京都で暮らしている者にとっては身近な消し炭ですが、これほどまで大きなものを見る機会はとても貴重です。

もちろん、観光客の方々にとっては、京都を感じるまたとない貴重な機会なのではないでしょうか。

こちらのお店に訪れる方のお目当ては、ご注文があってから作り始める「わらび餅」。
今では希少となってしまった本わらび粉。

そのわらび粉だけを原料にして作られたわらび餅は、艶やかな黒色をしており、わらび餅の印象の違いに驚く方もいらっしゃるほど。

お行儀よく並んだわらび餅には黒蜜が添えられて出されます。

 

最初の一つは、黒蜜を付けずにそのまま召し上がるとわらび餅の本来もっている程よい弾力の食感を存分に楽しむことができます。

噛めば噛むほど、口の中に広がるほんのりとした甘みが五感を研ぎ澄ませてくれます。

その後は、お好みで黒蜜をかけて召し上がってください。

 

こちらのわらび餅は、最初に食べる一つ目と最後に食べる五つ目の時間の経過だけで水っぽくなり食感が異なるほど繊細そのもの。

わらび餅を注文された方は、お喋りは後回しにしていただき、まずは完食していただければと思います。

そして、もう一品、四季折々の情景を感じる上生菓子もオススメです。

店内では、五~六種類の中からお好きな上生菓子を選び、お抹茶などのお茶とセットにしてお手入れの行き届いた日本庭園を眺めながらいただくことができます。

 

この日は、色濃くなった木々の緑の中に百日紅が鮮やかなピンク色の花を咲かせていました。

季節の移ろいを感じながらいただくお菓子は、この上ないひと時となることでしょう。

近年では、「おもてなし」という言葉が流行り、行き過ぎたおもてなしに戸惑うことも多く、「日本らしさとは」を考え直す時期ではと思う中、こちらのお店では、「おもてなし」の神髄を随所に感じられることでしょう。