飲食業界にとっても色々あった2020年。それでもやっぱり食への欲求は止まらないし、食のトレンドは生まれ続けるものだ! ということで、今年話題となった食トレンドをおさらいしようというこの企画。ことスイーツにおいて今年のトレンドと言えば、外せないのが日本茶を使ったお菓子やドリンク。

そこで、連載「スイーツ探訪」でお馴染みのお菓子の歴史研究家・猫井登さんに、甘味ファンを夢中にする、抹茶&ほうじ茶スイーツのおいしいお店を前後編に渡って解説していただきましょう! と、本題に入る前に、まずは日本人でも意外と知らない抹茶とほうじ茶の特性から、おさらいスタート。

今さらながら……「抹茶」ってどんなお茶?

色鮮やかな緑色をした粉末状の抹茶。抹茶も大きな分類では「緑茶」の一種とも言えますが、緑茶を単に粉砕したものが抹茶ではありません。そもそも栽培方法や加工方法が全く異なります。一般に飲む緑茶は「煎茶(せんちゃ)」と呼ばれるのに対して、抹茶の原料となるお茶の葉は「碾茶(てんちゃ)」と呼ばれます。

お茶の葉は一般的に、太陽の光がたっぷりと当たるよう栽培しますが、碾茶は一定期間、茶畑を覆うようにして日光が当たらないようにするのです。日光が遮られることで、お茶の葉は葉緑素を自ら増加させ、濃い緑色になり、旨味成分であるテアニンが豊かになります(陽をたくさん浴びると、テアニンが渋み成分であるカテキンに変化します)。こうして育てた茶葉を、蒸して(揉まずに)乾燥させて粉砕して粉末にしたものが抹茶なのです。手間暇が多くかかる分、抹茶は煎茶に比べて高価になるのです。

「ほうじ茶」って緑茶と何が違うの?

ほうじ茶は赤茶色をしていますが、実は緑茶の一種です。ほうじ茶は茶葉を焙(ほう)じているので、あのような色になるのです。焙じるというのは、コーヒーでいうところの焙煎(ばいせん)です。焙じることにより、苦味や渋味の成分であるタンニンが少なくなり、飲みやすくなります。また香ばしい香りが気分をリラックスさせてくれる働きがあるともいわれています。

いずれにせよ、抹茶もほうじ茶もお茶であることに変わりはありません。餅は餅屋、お茶はお茶屋、というわけで……お茶スイーツを味わうなら、やっぱり老舗のお茶屋さんが展開するお店にまず注目!

歴史を誇る老舗茶屋が手がける最先端の日本茶スイーツスポット3店

1.「中村藤吉本店 銀座店

「中村藤吉本店」は、1854年創業。京都宇治で166年の歴史を誇る老舗です。京阪電鉄宇治線・宇治駅を降りてすぐにある本店の建物は、国の重要文化的景観に指定されています。宇治の本店のほか、平等院店、京都駅店などがあります。

今回ご紹介する銀座店は、2017年に「ギンザ シックス」にオープン。オープン当初は3時間待ちともいわれましたが、今は広々とした店内でゆったりとお茶スイーツを楽しむことができます。

「茶ごろも」

そんな同店でおすすめのメニューといえば、まずは「茶ごろも」1,650円でしょう。数量限定、注文を受けてから葛を練って作られ、練りたての葛の食感を楽しむことができます。

特製の抹茶餡を、注文を受けてから作った吉野本葛を使用した練り立てとろとろの葛餅で覆い、その上から上質の抹茶「宇治の昔」を濃茶に仕立て、一服分をかけたものです。色と濃度から、相当な苦味・渋味を予想しますが、甘味さえ感じられる豊かな旨味が口中に広がります。中に隠れた葛餅と抹茶餡を一緒にいただけば、程よい甘さに。塩味の香の物が付いているのも粋な計らいです。

「生茶ゼリイ深翠」

もうひとつのおすすめは、銀座店限定の「生茶ゼリイ深翠」1,430円です。こちらのお店を代表する人気商品の盛り合わせで、抹茶ゼリー、白玉、抹茶アイスクリーム、特製抹茶餡、丹波種黒豆、栗甘露が一度に味わえます。

テイクアウト商品も充実しており、香り豊かなほうじ茶の風味とプルプルした独特の食感のほうじ茶ゼリイに白玉と小豆あんを合わせた「生茶ゼリイ(ほうじ茶)」390円もおすすめです。

※価格はすべて税込

2. 「辻利 銀座店

幕末の動乱の中、宇治の茶師たちが幕府の庇護を失い茶園が荒廃していく中、辻利右衛門が売りに出ていた茶畑を買い取り、辻利は1860年創業。彼はそれまで使用されていた茶壷に代わる、保存性の高い茶櫃(缶櫃)を考案してお茶の販路を拡大し、また玉露の茶葉を針状の美しい鮮緑に仕上げる「玉露製法」を確立したことでも知られます。

「辻利ソフト 濃い茶」

ギンザ シックスの地下にある銀座店には、こだわりの抹茶メニューを気軽にテイクアウトできるカフェスタンドが併設されています。抹茶ラテやスムージーもありますが、是非味わいたいのが、通常の抹茶ソフトの2倍量の宇治抹茶を使って作られた「辻利ソフト 濃い茶」584円! お点前用の高級抹茶の爽やかな香りと旨味が堪能できます。

お茶やスイーツの販売スペースではお土産品も購入可能ですが、おすすめは常温でも持ち運び可能な「宇治抹茶わらび餅」500円(2個入り)。抹茶の濃い味わいと本わらび粉を使った、なめらかな食感を楽しむことができます。

※価格はすべて税抜

3.「林屋新兵衛 日比谷店

「林屋新兵衛」は、「京はやしや」がプロデュースするカフェ。京はやしやは、1753年に初代林屋新兵衛が加賀・金沢に茶店を開いたのが始まりとされ、1878年には、三代目林屋新兵衛が土や水、川霧に恵まれた京都・宇治に茶園を開きました。

初代林屋新兵衛が創業した後、三代目が煎茶の茎を利用した「棒茶(ほうじ茎茶)」を開発。その後も四代目は「インスタントティー」「缶詰茶」「固形茶」、五代目は、コーラやコーヒーのない、本当の意味での「茶を喫する店」を開き、茶席の特別な飲み物であった「抹茶」をもっと手軽に楽しめるようにと「抹茶ミルク」を開発。今ではポピュラーとなったスイーツである「抹茶パフェ」も1969年に五代目が開発したといわれます。

「抹茶わらび餅と抹茶葛ねりセット」

こちらのお店でのおすすめは、まず「抹茶わらび餅と抹茶葛ねりセット」1,300円! 写真手前が「抹茶葛ねり」。苦味控えめの抹茶「松の齢」を使い、純生クリーム、奈良吉野の葛、そして和三盆をブレンドして丁寧に手作りされたもの。なめらかな舌触り。香り豊かな抹茶の風味に続いて上品な甘み、苦味が感じられて、口中でとろけていきます。奥の、ぷるん、とろんとした「抹茶わらび餅」との組み合わせが最高です。

そして、このお店に来たら忘れてはならないのが、「古都の庭園パフェ」1,450円! インスタ映え必至!

「古都の庭園パフェ」はお茶セット1,850円も用意

従来のパフェの概念を打ち破るフォルム。ガラスのテリーヌ型に抹茶のアイスクリームやゼリー、スダチのシャーベットを詰め込み、抹茶生地、マスカルポーネクリームでおおった作品。表面の抹茶が苔、黒豆やクランブルが庭石に見立てられています。さすが、抹茶パフェを考案した前衛的なお店がプロデュースするだけのことはあります!

写真左から、「ほうじ茶ラテ」「抹茶ラテ」各700円にも大満足

※価格はすべて税抜

後編は、みんな大好き濃厚抹茶アイスも登場!

後編では、超濃厚抹茶アイスクリームが味わえるお店や、お馴染みのあのお茶屋さんが手がけるサロンなどを紹介します。お楽しみに!

※時節柄、メニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年10月1日)時点の情報をもとに作成しています。

撮影・文:猫井登