若者たちに客上手になってもらうべく、タベアルキスト・マッキー牧元さんが、食に関する知識から攻略法までお届けする連載。裏テーマは“青年よ、大志を抱け”。さあ、「鮨屋なんて怖くない」も、ついに最後です。今回は、いかに鮨屋さんで酒を飲みつまみを食べ、握り鮨を食べるかのお作法であります。

 

外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

「コース仕立てのお店」の場合

最近の鮨屋さんは、ほとんどがコース仕立てになっていますので、つまみもその後の握りも、お任せで出てきます。お酒も、様々なお酒が出されます。

 

しかし中には日本酒を頼むと、鮨屋に限らず「どんなお酒がお好みですか」と尋ねてくるところがある。このあたりはまた別の機会で詳しく解説しますが、自信がなければ「お任せします」というのが無難です。

 

また酒の値段が表記されていない場合もあります。ワインのボトルを取る場合は、聞くこともできますが、グラスなどで出てくる日本酒の値段をいちいち聞くこともできない。

 

例えばコースで12,000円だったら、予約時に「15,000円くらいでお酒とお料理をお願いたいのですが」と予算を伝えておくか、予約の際に大体のお酒の価格帯を聞いておけば、安心でしょう。

 

握りの量とつまみの量は、どのお鮨屋さんもちょうどお腹いっぱいになるように計算していますが、どうしてももう少しつまみを食べて酒を飲みたいという人もいる。そういう時は、「もう少し、つまみたいのですが」とリクエストしましょう。もちろんコースとは、別料金とはなります。

 

そして握りです。終わりに近くなりますと、「握りは以上となりますが、よろしいでしょうか」「こちらでひと通りとなります」などと伝えられます。

 

まだ食べたい人は、リクエストを。今食べた中でもう一度食べたいと思うものをリクエストするのも粋です。

 

客名人になると、今日の魚の中で最も職人が自慢したい、今日のアジは良かった、マグロの赤身が良かったと思うものを一つか二つ、必ず注文するそうです。

僕も気取ってやってはみていますが、中々名人の域には到達できてません。

 

ただし、一つ一つのネタの値段を聞くことは論外なので、追加料金はわからないことを理解しておいてください。

 

また、「途中でつまみをやめて握りを食べたくなった」や、「握りを食べているうちに、どうしてもお腹いっぱいになってしまった」という場合も、無理せずに、ご主人にお願いする。これは、失礼にはあたりません。

 

「コース仕立てではない店」の場合

寿司屋の従来の姿であり、「職人とお客さんがカウンター越しに1対1で話をしながら食事を組み立てていく」という、寿司屋本来の醍醐味を味わうことができます。でもこれは場数を踏まないと、中々スムーズにはできない、上級編と言えましょう。

 

まず座って、今日は握りから行くかつまんで飲んでから行くか考える。

 

「少し切りましょうか?」「おつまみから行かれますか?」と、様々に聞かれたり、聞いてはこない場合もある。

 

これらのケースの時は、

「少し切ってくれますか」。「軽くつまみたいな」。などと表明して始めます。

昔ながらのお寿司屋さんでは、「さかなを少しください」というだけで、刺身から始めてくれるところもありました。つまり魚=刺身と握りは、別の料理という感覚です。

 

さてこうして始めて「そろそろ握ってください」という時もあれば「もう少し切りましょうか?」と聞かれるときもあります。いずれもケースバイケースで、価格も聞けませんので、やはり上級者編でしょう。

 

「手で食べるか?箸で食べるのか?」

次は食べ方です。「手で食べるか? 箸で食べるのか?」

 

これに正解はありません。

 

「江戸時代から寿司は手で食べるもんだ」という人もいれば、「指先ににおいがつくのが嫌」「箸の方が清潔」という人もいる。

 

だが正解はない。「食べやすい方で食べる」というのが正解です。

 

僕の場合は、必ず手で食べます。それは「手の味」というものがあると、思っているからです。指先で、食感や温度、重さを感じてから口に運ぶ。ここに「味」があると思っている。

 

箸で食べるおにぎりや、手でちぎらずに、ナイフ・フォークで切って食べるパンが、どこか味気ないのと同じように、「手の味」というのを感じたいからです。

 

でも時折箸で食べる時もあります。

 

穴子などに塗られる、「煮つめ」が、すし板に垂れるほどたっぷり塗られていた場合は、指先が煮つめだらけになるのを嫌って、箸で食べる時もあります。

 

箸で食べる場合、大方のお寿司屋さんは箸置きがありますから、そこに箸を休ませますが、ない場合は、箸袋で箸置きを作っておく。あるいは醤油皿の端に箸先だけをかけるのがいいと思います。

 

握りをのせるすし板や、一段高くなっているつけ台に置くのも、よろしくない。また、醤油皿に完全に乗せてしまうのも「渡し箸」といって、マナー違反です。

 

それでは、いよいよ実践編です。

実践編

1. 握り鮨は、魚を舌側にして食べるのか、酢飯を舌側にして食べるのか?

一時「魚を舌側にして食べるのが通」と言われた時代がありました。確かにそうすると、魚の味が先に来ますから、魚の風味がよくわかる。

 

しかし煮切りを引いてある場合は、先に煮切りの味が来るのでしょっぱさから入ってしまうという欠点もあります。

 

どちらが正しいのか? 魚によって食べ方を変えるのがいいのか?

 

僕も昔は通ぶって、握りをくるりと裏返し、魚を舌側にして食べていました(軍艦巻きなどは、相当高等なテクニックを要し、大変でした)。

 

しかしある日、お寿司屋のご主人二人と、別のお寿司屋さんで食べる機会があった時のことです。

 

そのお二人は、酢飯を舌側にして食べているではありませんか。

 

裏返さないぶんスマートで、パクパク食べているではありませんか。

 

これもどちらがいいかという、正解はないと思います。

 

しかし。

 

酢飯を舌側にして食べると、冷たい魚ではなく、先に人肌に温められた酢飯が舌と出会いますから、こちらの方が自然です。僕は今、どの握りも、酢飯を舌側にして食べています。

 

2. 手で食べる。

人差し指と親指で、酢飯の両脇をそっと支えるようにつまむのが、綺麗です。

写真のように中指と親指でもいいですが、余った人差し指で魚を抑えるのは、美しくないし、崩れやすくなってしまいます。

また、軍艦巻きなどを上から指で挟むように持つ方もいらっしゃいますが、これは逆に上にのったイクラやウニがこぼれやすくなるのと、握りが崩れやすいので、避けましょう。

 

3. 箸で食べる。

箸で食べる際も、酢飯の両脇をそっと支えるように挟む。握りというお神輿を、酢飯の脇を挟んで持ち上げる感じでしょうか。

 

4. 醤油をつける。

 

最近はどこでも「煮切り」を、魚の上に引いて出してくれます(実際は塗る仕草ですが、引くといいます)。そのため醤油はつけません。

 

でも、煮切りを引かないで出す店もあります。江戸前の仕事を守る神保町「鶴八」などは、その代表でしょう。

 

その際は、魚側に醤油をちょんとつける。箸で魚側に醤油をつける場合は、一旦握りを横に倒し、魚と酢飯を挟んで魚側に醤油をつけるというやり方もあります。

 

こうして魚側に醤油をつける際に問題となるのが、いくらやうに、小柱といった軍艦です。こういう握りの時は、生姜を醤油につけ、刷毛代わりにして塗る。

 

ただし中には、「刷毛代わりにした生姜はどうするんだ。残すのも汚いし、しょっぱいまま食べるのも嫌だ」という人もいます。

 

そういう方は、箸先に醤油をつけ、魚にちょんちょんと醤油を垂らすという手もあります。

 

また回転寿司などで、どうも醤油の味が気に入らない、塩味が強く、不自然な旨味が濃いと思った時は、日本酒を頼み、醤油皿に少量入れて混ぜ、魚に塗ることもいいでしょう。

 

5. 一口で食べる

大原則として、握り鮨は一口で食べます。一口で食べてこそ美味しさを味わえるように、寿司職人は握り鮨を完成させます。

 

それゆえに、途中で噛み切ったりすると、職人は落胆するでしょう。自分自身も損をします。もしどうしても大きい場合は、ご主人なり職人に頼んで小さくしてもらいましょう。

 

ただし、初めての店で、食べる前に「シャリ小さくしてください」というのは、マナー違反です。鮨職人は、魚の大きさと酢飯の大きさは、これがベストと練りに練って出しているのです。

 

「この間食べる前に言われる方がいたので、技術の粋を駆使して、小さな小さな寿司を作りました」という鮨職人もいました。

 

また逆の場合もあります。最近の寿司は小さい傾向が多いので、僕はたまにお願いして大きくしてもらう場合があります。

 

「握りの大きさは、よろしいですか?」と、一貫出してから、丁寧に聞いてくる職人もいます。

 

ちょうど良ければ、「大丈夫です」ではなく、「はい、丁度よく、美味しくいただいています」。あるいは「もう少し大きく(小さく)握っていただけますか」とリクエストを出しましょう。

 

6. わさびがきつい。好みなど。

わさびが食べられない場合は、恥ずかしがらずに先に申告しましょう。

 

また、食べられない、苦手な魚介類は、事前に伝えておきましょう。

 

最近の鮨屋さんでは、始まる前に必ず「苦手なものはありますか」などと聞いてくれます。

 

 

いかがでしたか。「鮨屋なんて怖くない~其の4」。これを読んで、どんどん寿司屋に行き、客上手となり、より寿司の魅力にはまっていって欲しいと思います。

 

寿司屋というのはさらしの商売ですから、慣れてくれば余裕ができて、寿司の味だけでなく、職人の一挙手一投足に目がいくようになる。

 

そして『職人芸』や『舞台』を観に行く、という感覚で出かけると、より深みにはまります。

 

さらに場数を踏めば、職人とお客さんがカウンター越しに1対1で話をしながら食事を組み立てていく、そんな寿司屋の醍醐味にもたどり着くことができるでしょう。

さあ、いざ寿司屋へ!

マッキー牧元の「今週はここに行け」

出典:イズミールさん

■経験値を積んでから行きたい鮨屋

「日本で一番難度が高いだろう。まず予約が至難。そして取れたとしてもたいていの方は緊張して、鮨の味を覚えていない。本当は温和な方なのだが、黙って握られているので、怖く感じてしまう方もいる。そして間違いなく、日本一の鮨である」