2020年8月。本来ならオリンピックで盛り上がっていたはずの1カ月。思わぬ形で特別な夏となってしまったわけですが、せめて色々な国のカレーを食べて食の祭典気分を味わいたいなと思い、今月のカレーは多種多様な4店となりました。

南インドカレーをベースにした人気間借りカレーの独立店。ネパール人シェフがスナックを間借りして出すダルバートのお店。日本にしか、いや、ここにしかないと言えるオンリーワンの馬肉カレー。そして、ホテル併設のマレーシア料理店。

味の方向性もお店のスタイルも多種多様です。働き方も外食の楽しみ方もさらに多様化していくであろう今後。移動の仕方も考えながら、できるだけ外食を楽しんでいくことができたら良いと思います。

【第1週のカレー】カレー好き待望! 間借りで人気を博した有名カレー店が遂に独立店舗をオープン「エピタフカレー 」

東京における間借りカレーの聖地として知られる新宿ゴールデン街。こちらでその礎を築いたパイオニアとも言える存在の「エピタフカレー」が、コロナ禍の真っ只中に独立店舗をオープンしました。

場所はゴールデン街からも徒歩圏内の東京メトロ・新宿三丁目駅近く。開店当初はテイクアウトのみの営業だったのですが、現在はイートイン、テイクアウト共に営業中であり、店内は透明シートによる仕切りが随所に施され、感染防止対策もしっかりしているので安心できます。

カウンターメインの白を基調とした清潔感あるお店は、ゴールデン街時代とはまるで違う雰囲気です。

メニューは基本的に週替わりで、3種ある中から、ホタテのミーンモレーとポークビンダルーMARKⅡの「2種あいがけ」1,100円に、「チキンピクルス」400円をトッピング。ご飯は少な目(-50円)でいただきました。

ホタテのミーンモレーとポークビンダルーMARKⅡの「2種あいがけ」

まず看板メニューとも言えるポークビンダルー。週替わり3種の中の1つはこれがほぼ確実に入ります。しっかりとした酸味を包み込むような辛味。刺激的なグレイビーの中に入った豚バラの甘味がその刺激をおいしさに昇華させているという見事な三位一体。南インドカレーをベースにしているお店ですが、日本の米にも合うカレーであり、ご飯は日本米とインド米のブレンドになっています。それがここの持ち味と言えるでしょう。

ホタテはココナッツベースで柔らかくも奥深い味わい。刺激的なビンダルーに対して優しいホタテで、相性も良いです。

「チキンピクルス」

チキンピクルスは冷製のセミドライカレーといった趣。柔らかいチキン、スパイス、ビネガー、オイルが渾然一体となり、これ単品ではおつまみにもなりそうな逸品。ご飯と一緒に食べて良し、カレーに混ぜても味変となって良し。ナイストッピングです。全体的に感じるのは酸味使いの妙。尖った酸味、まろやかな酸味、奥深い酸味、全てを酸っぱ旨さに変換しています。

店名であるエピタフカレーのエピタフとは、プログレッシブロックバンド「KING CRIMSON」の名曲『Epitaph』からきているそうです。歌詞には“Confusion will be my epitaph”つまり「混乱が私の墓碑銘となるだろう」という言葉があります。

マスターは爽やかに見えて……というか実際人当たりの良い方なのですが、もうひとつの顔であるDJになると豹変する狂気を持ち合わせたアーティストであり、まさに良い意味での混乱を内に秘めた方。だからこその個性あるカレーであり、その墓碑銘を店名にしているということからも、このカレーに対する覚悟と決意が感じられるのです。21世紀のカレーマンである僕にとって、味のみならず精神性も含めて大好きなお店のひとつです。

※価格はすべて税込

※本記事は取材日(2020年8月1日)時点の情報をもとに作成しています。

【第2週のカレー】スナックで本格ネパール料理が食べられる! カレーで結ばれた夫妻が営む神田の間借りカレー「ダルバート シャンティ」

神田に「バー&スナック シャンティ」というスナックがあります。縁あって行ってみると実に楽しいお店で通うようになりました。そんなバー&スナック シャンティでの、ある日のママと僕の会話から今週のカレーをスタートさせましょう。

 

バー&スナック シャンティのママ

今度カレーのお店を出すことになったから、良かったら来てね!

 

カレーおじさん\(^o^)/

え? どういうことですか?

 

バー&スナック シャンティのママ

実は旦那がネパール人でシェフなのよ。その人のお店を開くの。

 

カレーおじさん\(^o^)/

え? どこかで働いてたシェフ?

 

バー&スナック シャンティのママ

色んな所で働いてたんだけどね、実は私も昔カレー屋さんで働いてて、そこで出会ったのよ。

 

カレーおじさん\(^o^)/

え? どこ?

 

バー&スナック シャンティのママ

もう無くなっちゃったんだけどさ、築地にあった「カリカリ」っていうお店。

 

カレーおじさん\(^o^)/

え!? 僕カリカリ通ってましたよ! 今は神楽坂に移転して店名変わって「想いの木」になった所ですよね。めちゃめちゃおいしいお店じゃないですか!

 

バー&スナック シャンティのママ

流石、よく知ってるわねぇ(笑)。

と、こんなことがありまして、当時学芸大学にオープンしたお店に行ってみたら最高においしくて。そのお店は残念ながら閉店してしまったのですが、その後溝ノ口に期間限定で移転オープン、さらにその後、僕が出会ったきっかけとなる神田のスナックシャンティのランチタイムに夫婦間間借りオープンとなったのです。

学芸大学時代は本格ネパール料理から独創的な料理まで、様々な料理で楽しませてくれたお店ですが、現在の店舗はスナックの簡易キッチンでの調理となるので、ダルバートとカレーメインです。それでいて、ダルバートは随所に本格的なネパールの味を感じますし、かつての独創的なスタイルの料理も限定メニューとして楽しめるのです。

今回いただいたのは、カシコマス(山羊のネパールカレー)とククラコマス(チキンのネパールカレー)の2種盛り「ダルバートセット」1,200円。これに「スパイシー卵」100円をトッピングしました。

「ダルバートセット」に「スパイシー卵」をトッピング

ダルバートとはネパールの定食で、ダル(豆)とバート(ご飯)を基本とし、それに様々なおかずが付く定食なのですが、基本のダルは日によって豆を変えているので何度食べても飽きが来ません。優しく滋味深い、ホっとするようなおいしさのダルです。

カシコマスは骨付き、皮付きの山羊肉を使用した本格的なネパール味。スパイス使いはネパールらしくいたってシンプル。だからこそ素材の旨味が引き立つのです。

ダルバートは「ダルバート弁当」700円としてテイクアウトでも楽しめる

ククラコマスは多くの方に食べやすい安心のカレー。この日のサグは菜の花を使用していて、それもまたマニア心をくすぐります。サグというと日本ではほうれん草が多いのですが現地では青菜全般を指し、菜の花を使ったものもポピュラーなのですが、日本ではまだ少数派。原価が高いので食べる側としてはその分お得なのです。

スパイシー卵も贅沢感をプラスできるトッピング。ラプシ(ネパールの果物)の代用的に梅干しのアチャールがのっているのも、本格ネパール感と日本の食材の融合を感じ、うれしくなります。玉葱などはママの地元北海道の野菜を使っているという、ネパールと北海道の愛のダルバートと言っても過言ではないでしょう。

「中華プレート」

ダルバートのみならず、限定メニューでは「中華プレート」1,000円なども時折登場します。こちらは学芸大学時代に僕が一番好きだった限定メニュー「中華ターリ」のミニマムな形なのですが、ここでしか食べられないおいしさとなっていました。

お店は基本スナックなのですが、だからこそパーテーションなどもしっかりしていて感染対策もなされていますし、テイクアウトもあり、お得な価格でネパールカレーのお弁当がいただけます。

とかく夜の街と騒がれてしまう昨今。スナックも厳しいということで、今までは昼限定の間借りだったのですが、最近では夜にもこのカレーを提供しているそうです(売切次第終了)。

テイクアウトはほかに「カレーライス弁当」500円なども用意。前日までの予約優先となる場合もあるため、当日購入の場合は事前の問い合わせがおすすめ

場所はJR神田駅からすぐ近くのビルでアクセスも良いです。神田といえばカレーの街ですが、本格的なネパール料理を味わえるお店はまだまだ少ないです。毎日食べても飽きの来ない優しいおいしさを是非!

※価格はすべて税込

※本記事は取材日(2020年8月9日)時点の情報をもとに作成しています。

【第3週のカレー】290円で馬刺しも食べられちゃう! 神田カレーGP優勝店が手がける異色の新店がオープン「ばち 赤坂」

ダイエットのためには筋肉をつけた方が効果的で、その際にはしっかりと肉を食べた方がより良いということが、ようやく認知されつつあるような気がします。筋肉をつければ基礎代謝が上がり、脂肪燃焼効率が高まって体脂肪率が落ちやすくなるのです。つまり、筋肉をつけると太りにくく痩せやすい体質になるということ。筋トレ歴35年になる僕ですが、確かにそれを体感しています。

そして、筋肉をつけるためには肉などのたんぱく質を摂るべきといわれています。ダイエットに向いている肉というと鶏のささみが有名ですが、それ以上に僕がおすすめするのは馬肉と羊肉。前置きが長くなりましたが、そんな馬肉と羊肉の料理をメインした居酒屋が2020年8月3日、赤坂にオープンしました。

馬偏に羊と書いて「ばち」と読むそうです。「ちょっと待て、これ、カレーの連載だよね?」と思った方、ご安心ください。何しろここ、カレーもあるのですから\(^o^)/

「馬刺し」(一人前)

まずはカレーの前に馬刺しから。この馬刺し、何と290円(一人前)です。290円で馬刺しを食べられるお店、僕はほかに知りません。しかも290円とは思えないクオリティなのです。トロっとした舌ざわりの新鮮な馬肉。都内のほかのお店で食べるなら、600円や700円はするだろうと思えるもの。それが290円です。

写真左から「羊肉串」と「羊レバ串」

羊は串でいただきました。「羊肉串」180円(一串)は絶妙な火入れ加減のラム肉をスパイスで食べる逸品。スパイス感がラム肉とあいまって実においしいです。「羊レバ串」200円(一串)は、ラムのレバーを低温調理したものなので生のような感覚を味わえます。これもお酒のつまみに最高ですね。

その安さの秘密を社長に聞いてみると、「肉を大量に大きく仕入れて、自ら切り分けているからこそ可能な安さです。それでも安さの限界ギリギリを攻めているので、多くの方に食べてもらえないと高くせざるを得ないんですよ。でも、馬肉とか羊肉とかってなかなか気軽に食べられないじゃないですか。それを気軽な金額で食べられるお店を作りたくて」とのこと。素晴らしい!

「ばちカレー」

そしてカレーです。店名を冠した「ばちカレー」800円は、馬肉のスジ肉をしっかりと煮込んだものがベースとなっており、これにラムのレバーも時折入っています。ドライタイプでスパイスもエッジを利かせてあり、肉がゴロゴロと入った中にあえて半生程度の火入れでシャキっとした玉葱の食感がたまりません。これはここでしか食べられないオンリーワンのカレーですよ。

何故こんなにおいしいカレーが作れるのか。実はこちらのお店、「神田カレーグランプリ2019」で見事グランプリを受賞した秋葉原の名店「カリガリ」が手掛けたお店だからなのです。社長曰く「カレーでやっとグランプリ受賞させてもらって、カレーじゃないお店を始めようとこちらを開いたんですが、ふと思いついてカレーにしてみたら、これがおいしくて。ならもうこれも出してしまえということで」とのこと。出してくれて本当にうれしいです。

カリガリ本店のカレーともまるで違うアプローチであり、馬肉羊肉の料理店でありながらカレー専門店も手掛けている方だからこそ作れる奇跡的なカレーなのですから。カレーも羊串も、卓上にある七味、クミンシード、特製カリガリマサラで味変可能。そのままでも十分おいしいのですが、より辛くしたり、香り高くしたりしながら、自分好みに変えていけるのもうれしいです。

ちなみにこちら、カレーのみテイクアウトも可能とのこと。トレイニーにもダイエッターにもカレーマニアにもうれしいばちカレー。是非食べてみてほしい逸品です。

※価格はすべて税抜

※本記事は取材日(2020年8月16日)時点の情報をもとに作成しています。

【第4週のカレー】ワーケーションにも◎! 暑い時期こそ食べたいマレーシア料理の穴場発見「パプリカ」

今年の夏休みはかなり特殊な夏休みになってしまったという方も多いかと思います。それ以上に夏休みを取れなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな中「ワーケーション」なんて言葉も聞こえてきて、様々な形で新しい働き方や休み方を模索する夏になっていますが、そのワーケーションにぴったりなお店を見つけました。今週は千葉・木更津の「パプリカ」というお店をご紹介しましょう。

「三井アウトレットパーク 木更津」からも徒歩圏内。車ならすぐです。東京湾アクアラインの入り口も近く、電車よりも車の方がアクセスが良い場所にあるホテル「Jesly Villa Tokyo」の一階に入っているマレーシア料理のレストランです。東南アジアにあるアットホームなホテルといった雰囲気で、レストランのみの利用も可能です。店内も居心地が良く、テラス席もあります。

看板メニューの「ナシレマ」1,200円は、ココナッツミルクで炊いたバスマティライスにチキンルンダン(マレーシアのココナッツチキンカレー)が付き、ピーナッツ、小魚、サンバルソースと一緒に食べるマレーシア名物の定食。

「ナシレマ」

こちらのチキンルンダンはサラっとした口当たりで程良くスパイシー。上品なおいしさです。食欲が無い日でも、これをひと口食べれば食欲もわいてきそうな、元気になる味でした。

「マレーシアンカレーヌードル」

「マレーシアンカレーヌードル」1,400円もおすすめです。カレースープに入っている麺は、ミーというソフト麺のような麺とビーフンの2種類。これに海老やイカなどの魚介、手羽先のスパイス揚げ、油揚げ、野菜などがのって非常に具沢山。マレーシアのカレー麺といえばラクサも有名ですが、いわゆるラクサとも少し違うスタイルであり、個性を感じました。

どちらの料理もオーセンティックでありながらもここでしか食べられないという個性があり、どのような工夫をしているのか店員さんに聞いてみると、こちらのシェフはマレーシアの5つ星ホテルである「シャングリ・ラ ホテル」で料理長をしていた方で、その日の気分で味もスタイルも少しずつ変えているのだそうです。ホテルですから、宿泊客の中には毎日ここで食べる方もいるでしょう。

そうなると同じ味だと飽きが来る場合もあります。しかし毎日違う味であれば同じメニューでも飽きが来ません。ホテルだからこその工夫であり、そして、このクオリティなら毎日味が違っていても、おいしいということには変わりはないのだろうと容易に想像がつきます。

「ティータレ」

滞在したくなってしまいましたが仕事の合間で立ち寄った僕。滞在はできなくともせっかくなのでもう少しゆっくりした時間を過ごそうと、「ティータレ」480円を注文。練乳を使ったミルクティーで、ホットで飲むのが一般的ですがこの日は猛暑だったのでアイスにしてもらいました。アイスでもしっかりした甘味で、スパイスの利いた料理を締めくくるのにちょうど良いドリンク。やっぱり滞在したい気持ちが増してしまいました。

近くには海もありますが、近すぎないので静かな雰囲気です。お店の方もホテルの方も非常にフレンドリー。リモートワークが可能な方は、ここのホテルの部屋で仕事をし、お腹が空いたらここでご飯を食べ、仕事が終わったら海を見に行くなんてこともできるわけです。なんと魅力的なプラン!

マレーシアも非常に暑い国です。そんな暑い国の料理がひと際おいしく感じられる季節である今、おすすめのお店ですよ。まだあまり知られていない、知る人ぞ知るお店ですから。

※価格はすべて税抜

※本記事は取材日(2020年8月21日)時点の情報をもとに作成しています。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

文・写真:カレーおじさん\(^o^)/