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〈サク呑み酒場〉
今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。
イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!
渋谷駅から徒歩8分、渋谷区東の通りを一本入ったところに「串打ち大地」はある。2018年10月に、建て替えにより閉店した「やきとん大地」の兄弟店で、こちらも「やきとん大地」に負けず劣らずの隠れ家的な店だ。
店内はシックな造りでまさに大人の隠れ家。それでいて、店員たちは気さくで話しやすく、酒と食事、そして会話をゆったりと楽しめる空間だ。
豚の旨味と相乗効果をもたらす、てんこ盛りパクチー
最初につまみを頼み、各種のやきとんが焼きあがるのを待つのもよいが、苦手でないならば「パクチーれば」を頼んでみるのも手だ。同店の仕入れ力がわかる質の高いレバーを、最高級の紀州備長炭で焼き上げ、その上からたっぷりとパクチーをかけた一品で、国産パクチーのきつすぎない爽やかな香りと味がレバーにマッチしている。パクチーがあまりにも豪快にかかっているので、肝心のレバーが見えないのはご愛敬だ。
レバーにはさらにもうひと仕事が施されており、特製オイルで和えたみじん切りのパクチーの茎やネギのソースがのっている。これに、パクチーの葉で隠れてしまっているが、パクチーの葉や茎のペーストをつけて頬張ると、レバーの脂との相乗効果で思わずニヤリとしてしまう。国産のパクチーは特有のクセが強すぎないうえ、レバーの脂がそのクセを中和してくれるので、パクチーが「得意ではない」程度の人ならパクリと食べることができそうだ。むしろ、パクチーのおいしさに目覚めてしまうかもしれない。
しかし、これだけパクチーがかかっていると、当然、余ってしまう。それこそが、今回「パクチーれば」を最初に頼んだ狙いだ。残ったパクチーとペーストやタレを混ぜ、これをつまみに酒を飲みながら、次の料理を楽しむのだ。
確かな目利きと、数時間かける仕込みがおいしさの秘訣
やきとんは1本ずつ好きなものを頼むこともできる。「5本盛り合わせ」なら、リクエストも考慮しつつ、その日のオススメを揃えてもらえる。
この日は、たん、かしら、おっぱい、上がつ、あぶらの5種。あぶらのみタレで、残りは塩で肉本来の旨味を堪能できる。
「大地」がやきとんの名店として名高いのは、その味にあるわけだが、味を決めるのは肉の質だけではない。もちろん、店主・芳賀さんの17年以上の経験から来る目利きで仕入れる肉の質は最高だ。焼き加減も、その肉が一番おいしい瞬間を切りとっている。だが、同じくらい大切なのが仕込みだと言い、理想の焼き加減と食感に仕上げるために、肉のカットの仕方、サイズ、保存にも部位ごとに最適な温度や方法を心掛けている。どの部位も数時間かけて仕込んでいるのだ。
例えば、独特の食感が特徴の「おっぱい」は、豚によって乳房の硬さや乳腺の数、太さが異なるため、一つひとつ丁寧に掃除して余分な脂を取り、乳腺を抜いていく。そこまでして、ようやく旨味と歯ごたえを味わうことができるのだ。こういった個体差がある内臓部分は、その都度、個体と部位にあわせて“掃除”の方法を変えるのが当たり前だという。いかにおいしく仕上げるか。串1本ごとに、妥協せずに仕事をしていく。そのこだわりには唸るしかない。焼く前の串を見せてもらうと、肉の大きさが整然としていて、肉の表面がとてもきれいに仕上がっている。生肉の状態で“美しく見える” 串だ。
そのほか、弾力と旨味がある「たん」。こめかみから鼻にかかる質の高い部位を使った「かしら」。豚の胃で、旨味が強く歯ごたえがある「上がつ」。脂の甘みとタレの旨味、カリっと焼き上げられた香ばしさが絶妙な「あぶら」など、どれもが職人の仕込みによって、上品な味わいに仕上がっている。
組み合わせが斬新な「しば漬けポテトサラダ」で箸休め
この発想はなかった! と膝を打ちたいのが、「しば漬けポテトサラダ」だ。マヨネーズは、つなぎのためにわずかに入っている程度。しば漬けの酸味が効き、大葉とみょうががアクセントをつけている、酒のつまみになるポテトサラダだ。
なお、同店ではシェアをするときは、人数に合わせて最初から皿に取り分けて出してくれる。1人呑みなら、ハーフサイズなども用意してくれるため、「食べきれないかも」との心配がないのがうれしい。
そのほか、店専用に作ってもらった芳賀さんの地元の世田谷野菜を使ったメニューも多彩。野菜料理も評判が高く、女性にもうれしい品揃えとなっている。
決め手は煮干し。この出汁を味わう2つのシメに迷える贅沢
「大地」で何を頼もうか悩むのは、やきとんだけではない。むしろ、やきとんならば、頑張れば後もう1本を胃に収めることができるからなんとかなりそうだが、シメのご飯ものとなると何種類もは食べられない。それだけ、重要な選択となる。同店で人気を二分すると言ってもいいシメが、「久留米うどん」と「出汁巻丼」だ。
まずは、このコラムの最初に掲載されている外観写真を見てほしい。右端に「うどん」なる看板が出ているのにお気づきだっただろうか。同店は夜からの営業だが、ランチのみの営業で「久留米うどん」を提供している。
九州のうどんは、讃岐うどんのようなコシがなく、柔らかいのが特徴。それでいて弾力がまったくないわけではないのが不思議だ。久留米うどんらしく、煮干しを利かせた出汁が特徴で、数種類の煮干しと鰹節などから店内で作っている。久留米うどんに関しては、出汁の材料、麺などすべて、久留米から取り寄せているという。
一口すすれば、煮干しの香りが豊かに広がり、それでいて上品な塩味で食べ進めることができる。
もう1つの候補が「出汁巻丼」だ。一般的な出し巻き玉子の半分ほどの卵焼きを豪快にご飯にのせ、久留米うどんの出汁を醤油ベースの餡をかけた一皿。煮干しを利かせてあっさり薄口に仕上げた軽やかな餡で、さっぱりと食べられる。ハーフサイズなど量は調整してもらえるが、さすがに「久留米うどん」と「出汁巻丼」を1人で2つ食べるとお腹がはちきれそうにいっぱいになった。数人で行ってシェアするか、うどんはランチで楽しむか、近いうちに再訪してチャレンジするのがいいだろう。
とはいえ、「久留米うどん」のおいしさにハマって毎回頼んでしまい、リピーターなのに最近になってようやく「出汁巻丼」を食べることができたという人もいるのだとか。「なんで今まで食べなかったんだ!」と悔やんでいたというほど、悩ましい選択だ。
シメの後のラスト? これを注文したらラストオーダーの合図となる「まくら」
「串打ち大地」は、戦後まもなく渋谷で始まった名店「いなぼ」の味を受け継ぐ店だ。その「いなぼ」で、最後にしか注文できなかった串が「まくら」だという。そのお約束は「大地」でも引き継がれており、1人1本、最後の注文時にオーダーできる。言い換えれば、「まくら」を頼んだら、「注文は終わりね」の合図ということだ。
もちろん、最後の最後を「久留米うどん」や「出汁巻丼」にして、その前に「まくら」を食べてもいい。そこは、その時々の気分で選ぼう。
「まくら」は、肉の端材を集めて丁寧にミンチにし、しっかりと捏ねてつくね状にした串。つなぎを一切使っていないため、まるで串にささったハンバーグのようだ。くずれないようニラで巻いているのだが、このニラが肉のおいしさを引き立てている。秘伝のタレを纏わせ、程よく香ばしく焼かれた肉はパンチがあり、やきとんのシメにふさわしい一品だ。ただ、あまりのおいしさに酒が進んでしまい、もう1杯と行きたくなりそうで、なかなかに危険な串かもしれない。
豚肉と、豚の脂との相性が抜群。焼酎の蔵元が造るスピリッツ
おいしい食事にはおいしい酒。ビールは「ザ・プレミアム・モルツ」を用意し、その他ワインなども揃えているが、オススメはスピリッツを炭酸で割ったハイボールだ。使っているのは、「不二才」などの焼酎の蔵元である「佐多宗二商店」が造っているスピリッツ「AKAYANE Botanical Spirits」。山椒や生姜、シナモンといった香りが特徴で、中でもシナモンや山椒が人気。特に山椒のピリリとした香りが肉によく合う。
また、果実酒や焼酎なども、芳賀さんが豚肉との相性から「これだ」と感じたものを揃えていて、どれも豚の脂や肉の旨味との相性が抜群。「サク呑み」と言いつつ、いつまでも、お腹いっぱいになるまで、食べて飲んでいたくなる店だ。
■食事
・パクチーれば 480円
・しば漬けポテトサラダ 680円
・5本盛り合わせ 1,100円
・久留米うどん(かけ) 550円
・出汁巻丼 650円
・まくら 220円■ドリンク
・ザ・プレミアム・モルツ 670円
・AKAYANE Botanical Spirits(山椒) 700円
合計 5,050円
※価格はすべて税抜