〈食べログNo.1には理由がある!〉ホルモン編

食べログのジャンル別ランキング〈ホルモン〉において、ホルモン専門とするお店のなかで都内1位(2020/6/25付ランキング)に輝いたのは、ご存じ「鹿浜 スタミナ苑」。焼肉、ホルモン好きなら一度は訪れたいと願う名店中の名店が今もなお支持されるのは何故か。その不動の人気の理由を探るべく、“肉バカ”としておなじみ、 食べロググルメ著名人でもある小池克臣(こいけ・かつおみ)さんとお店を訪問。

教えてくれる人

小池克臣(こいけ・かつおみ)
横浜の魚屋の長男として生まれるも、家業を継がずに、外で、家で、肉を焼く日々を送る。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、ほぼ毎晩、牛三昧。さらには和牛そのものの生産過程や加工、熟成まで踏み込んで研究を続ける肉の求道者。著書に『肉バカ。No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社刊)。公式ブログ「No Meat, No Life.」。食べロググルメ著名人としても活躍し、多くのファンを持つ。

小池さんが語る、「鹿浜 スタミナ苑」がナンバーワンであり続けるワケ

「それまで脇役にすぎなかったホルモンを主役の座に押し上げたのがこの店。さらに素晴らしいのは、人気が出てからも変わることなく、いいものを出し続けていることです」。小池克臣さんがそう語るのが、1967年創業の焼肉「鹿浜 スタミナ苑」。予約不可ゆえ、行列した著名人の逸話は数知れず。小池さんも20年以上通っている、その魅力とは――。

1. 他店の追随を許さない、肉の鮮度のよさ

2. 寝る間を惜しんで行われる丹念な仕込み

3. 新境地を切り開くハイレベルなサイドメニュー

メニューはほぼ制覇しているという小池さんが、必食の皿を案内しつつ、3つの視点からおいしさと人気の理由をひもといていく。

鮮度のよさと、仕込みのていねいさが光るミックスホルモン

ミックスホルモン(塩)2,200円。

「この店のホルモンの素晴らしさが凝縮されたひと皿です」というのが、こちらのミックスホルモン。それも“タレ”ではなく、“塩”だ。ハツ、センマイ、ギアラ、ホルモン(シマチョウ)、子袋の盛り合わせをオーダー。塩だれで味つけされることで「新鮮さや部位ごとの味や食感の違いがシンプルに伝わってきます」とのこと。焼いて、まずは何も付けずに食べるのがおすすめだそう。

内臓業者との真剣勝負を重ねてきたからこそ、最上級品が届く

鮮度が命といわれるホルモン。その鮮度が、「どこよりもいいんです」というのが、ここ「鹿浜 スタミナ苑」のシンプルにして最大のポイント。では、なぜ、それほどまでにいいものが届くのか。そこには、ただ“内臓業者との付き合いが長い”というだけでは終わらない理由が!

 

小池さん

肉用牛の減少とともに、内臓の量もどんどん少なくなっている昨今。新規の店だと、高いお金を払っても、いいものを売ってもらえないのが実情です。長い年月をかけて築いた内臓業者との信頼関係があってこそ。ここは、ホルモンを主役の座に押し上げた老舗ですから、当然いいものが届くのですが、それでも気になるところがあれば容赦なく突き返す。そんな業者との真剣勝負を何十年も続けてきたからこその信頼関係で、最上級のものが届くんです。

寝る間を惜しんで行われる仕込みが、新鮮なホルモンをさらにおいしくする

小池さんいわく「どんなに鮮度のいいホルモンが入ったとしても、仕込みがなっていなければ、おいしい料理にはなりません」。ホルモンを活かすも殺すも仕込み次第。「臭みがいっさいないので、ホルモンが苦手な人でもいけますよ」というこの店では、いったい、どんな仕込みをしているのか。

 

小池さん

ホルモンは毎日、夜に配達されるのですが、そのまま置いておかず、営業が終わるとすぐに仕込みを始め、夜通しかけて作業を行うんです。しかも、薬やお湯を使ったりせず、うまみを逃さないよう、冬でも冷たい水で、ひとつひとつ手でていねいに汚れを落としていく。だからこそ、鮮度のいいものを、さらにおいしく提供できる。それを、名声の上に胡坐をかくことなく、何十年と続けている。揺るぎないおいしさは、その真摯な姿勢の賜物なのでしょう。

盛り合わせは、部位による味や食感の違いがよくわかる。

店に届いたとびきり新鮮なホルモンを、時間を置かず、寝る間を惜しんでていねいに掃除する。でも、おいしさの理由はそれだけで終わらない。

 

小池さん

ここの焼き台は、炭火ではなく、ロースター。部位によって隠し包丁を入れたり、開いたり……、ロースターで焼いたときにもっともおいしくなるよう、厚さや大きさ、味付けなど、下ごしらえにも工夫が施されている。だからこそ、それぞれの食感や味の違いがよくわかるんです。ホルモンの魅力のひとつは、“コリコリ”、“サクサク”、“ジュワー”など、部位によって食感や味わいが明確に違うこと。その醍醐味を教えてくれたのが、この店です。

さらにホルモンを堪能したいなら、このひと皿!

近年は、ほんとうにたくさんの部位を楽しめるようになったホルモン。もちろん、ここでも、ハラミ、ミノ、しびれなど、多彩な部位がメニューに並ぶ。そんな中で、ミックスホルモンに続いて、オーダーすべき一品は?

焼肉好きならハズせない、タンとハラミも別格のうまさ。

「鹿浜 スタミナ苑」の上タンは、2人で1人前しかオーダーできない売り切れ必至の激戦メニュー。そのレモン不要のおいしさの秘密とは? そして、大人気の部位、ハラミは他店とどう違う?

上タン2,300円、特上ハラミ2,200円。
 

小池さん

タンもハラミも、いいものを仕入れること自体が難しいメニュー。特にタンは、それこそ牛1頭に対して1本しか取れませんから、外国産がほとんど。そもそも国産なんて、なかなか口にできませんし、しかも、これはその根元のいちばんおいしいところ。塩とゴマ油で味付けしてあるので、しっかりめに火を入れて、何もつけずに食べてみてください。その柔らかな食感と、濃厚なうまみに驚くはず。

 

小池さん

いい焼肉店というのは、ひと切れで、その部位のおいしさが伝わってくる大きさ、カットの仕方をしています。最適な大きさというのは、部位によって異なりますが、ハラミに関していえば、小さめより、大きめ。ここは、見事な霜降りのハラミを、真ん中から開いてあって、ロースターで焼いたときに、独特の歯応えを残しつつ、脂の甘みやうまみが感じられるようにカットされています。食べ応えもしっかりあるんです。

甘辛い味噌だれをからめたホルモンには、白いご飯が欠かせない

焼肉メニューは、すべて“タレ”か“塩”かが選べるようになっている。ミックスホルモンを“塩”で堪能したら、何種類もの味噌や調味料をブレンドして作るホルモンだれで和えた“タレ”も、ぜひ試してみたい。小池さんのおすすめ部位は、ホルモン(シマチョウ)だ。

ホルモン(タレ)1,300円。
 

小池さん

シマチョウは程よく脂を残して下処理してあり、その脂の甘みが、甘辛いホルモンだれとよく合うんです。あまりカリカリにせず、脂を落としすぎないように焼いて、さらに甘辛いつけだれを絡ませれば、もう、白いご飯なしではいられません。

名声に胡坐をかくことなく、進化し続けるサイドメニュー

「鹿浜 スタミナ苑」が名店たるゆえんは、焼肉だけにあらず。ホルモンへのあくなき探究心から生み出されるサイドメニューのレベルの高さからも見てとれる。

「牛もつ味噌煮込み」1,000円。塩煮込みもある。
 

小池さん

ここのもつ煮込みは、ほかの焼肉店では絶対、味わえないおいしさ。もとは裏メニューだったのが、あまりの人気にグランドメニューに昇格したんだそうです。具は牛もつのみ。野菜も、水分さえも足さない。ホルモンから出る水分だけで煮込んでいるので、とにかく旨味が濃厚。強火で一気に炊き上げて食感を残しているというホルモン自体もそうですが、スープも飲み干してしまうほどのおいしさ。1人1皿で独占したくなる極上メニューです。

 

小池さん

焼肉店のウーロン茶って、ボトル入りの既製品をグラスに注ぐだけのところがほとんど。頑張って煮出していたとしても、香りがあまりなかったりする。でも、ここは、ウーロン茶まで手抜きなし。茶葉の香りが感じられて、いままで行った焼肉店の中でいちばんおいしい。こんな焼肉店、ほかにないですよ!

 

いままでも、そしてこれからも、ホルモン料理の最先端を行く

最近は年に3回ほど訪れているという小池さんと、全力投球の料理で迎えてくれるホルモンひと筋47年の豊島雅信さん。肉好き、料理人からの信頼も厚く、一昨年、著書『行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学』も上梓した。

「僕が初めて訪れたのは20年ほど前。当時は、ここだけが突出してすごかったという印象ですが、ホルモンが市民権を得て久しいいまも、最高のものを出し続けています。“昔はおいしかったのに、最近は……”という焼肉店が少なくない中、むしろ、進化している。ご主人・豊島雅信さんのホルモンへの情熱と仕事ぶりには頭が下がります」と、小池さん。実は、それまでホルモンは苦手だったが、この店に出合って一変。いまでは日常と切り離せない存在に。この店を訪れるときは、「食べたいメニューが品切れでは愚の骨頂」と、1巡目に入店すべく、2時間前には並んでいるのが常だという。

「鹿浜 スタミナ苑」の創業は、1967年。実家が精肉店である兄の豊島久博さんが母と一緒に立ち上げた焼肉店だ。その後、弟の雅信さんが入店。久博さんが正肉を、雅信さんがホルモンを担当し、二人三脚で名店を築き上げた。「ホルモンを制するものは、焼肉業界を制する!」と力強く語る雅信さんの横で、「ほんとうに、この店が焼肉業界に与えた影響は大きいと思います。ホルモンは、正肉に比べると、値段が手ごろなのも大きな魅力ですが、昔はあくまで正肉の脇役にすぎなかった。それを、主役を張れる存在に成長させたんですから。僕自身、この店に、豊島さんの料理に出合わなかったら、ここまでホルモンにはハマらなかったと思います」と、小池さん。

「これからは、豊島さんがおまかせで出すような、焼くだけではない、多彩なホルモン料理に光が当たっていくと思います」。ホルモンの今後について、こう話す小池さんを、「日々、前進あるのみ」と、頼もしい言葉で送り出してくれた雅信さん。お世辞にも交通の便がいいとは言えない、いまもダイヤル式ピンク電話が現役のこの店が、これからもホルモン業界、焼肉業界をきっと牽引していく。

 

※価格はすべて税抜

 

 

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

 

文:齋藤優子
写真:山田英博