目次
お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない!といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度美味しいこの連載。第三回テーマは、秋を代表するお菓子「モンブラン」を紹介します。
【猫井登のスイーツ探訪3】日本人の心を魅了してやまないNo.1秋スイーツ〜モンブラン編〜
編集(以下、編):またまた「モンブラン」が恋しくなる季節がやってきましたね。今年おすすめのモンブランが知りたいです!
猫井(以下、猫):そうですね。モンブランの歴史については昨年の記事でお伝えしたので、簡単に復習をした上で、今年のトレンドについてお話ししましょうか。
【モンブランの歴史】
- モンブランの原型は、イタリアの「モンテ・ビアンコ」という郷土菓子(つぶした栗にホイップクリームをのせたもの)。
- フランスで1903年創業の「アンジェリーナ」のパティシエがモンテ・ビアンコをベースに、「メレンゲ」を土台に「生クリーム」を絞り、マロンクリームを絞るという「モンブラン」を考案した。
- 日本では、フランスを旅した自由が丘「モンブラン」の創始者迫田千万億氏が、「カステラ」を土台に「カスタード」「生クリーム」、その上から甘露煮にした栗のクリームを絞り、上に「メレンゲ」を置くという日本型モンブランを開発し、全国に広がる。
- その後、フランスで修行したパティシエがフランス型モンブランを持ち込み、日本では茶色い「フランス型モンブラン」と、黄色い「日本型モンブラン」の両方が広まった。
- 日本では上記2種のほかに、両型が融合した「ハイブリットモンブラン」と、フランス型モンブランの構造を維持しつつも「和栗」や「出来立て」を前面に出した「和魂洋才モンブラン」がトレンドとなっている。
編:おぉ〜改めて“和魂洋才モンブラン”って強そうですね! 今年のモンブランの特徴はどうなっているんですか?
猫:大手ブランドが発表した新作モンブランからは、“ブランドの個性を加味した個性派モンブラン”が多く見られますね。
《ピエール・エルメ・パリ》「モンブラン ア マ ファッソン」
出典:ささともんがーさん
メレンゲ+クレーム・シャンティー+マロンピューレというモンブランの基本構造を踏襲しつつも、マロンピューレにピエール・エルメのトレードマークというべき「野バラ」のエッセンスを加え、その酸味によりマロンの風味を高めている。
《ラデュレ》「モンブラン アグリュム」
出典:Tomato88さん
ラデュレらしく香水瓶を思わせる美しいフォルムのメレンゲには、たっぷりの「柑橘系マーマレード」がたっぷりと入れられ、バニラ風味のクレーム・シャンティー、マロンムースの上にはシロップ漬けのマロンが飾られている。
猫:日本人には栗好きが多いのであまり気にならないのかもしれませんが、栗は本来もっさりとした食感の食材で、作り手からすると、何かアクセントを加えたくなるんですよね。フランスでは、「カシス」を加えることが一般的ですが、上記の2点は、このカシスの部分をそれぞれ「野バラ」「マーマレード」に置き換えて独自性を出したと考えるとわかりやすいでしょう。
編:なるほど。ちなみに、モンブランの老舗「アンジェリーナ」はどうでしょうか?
猫:アンジェリーナでは、ベーシックなモンブランとは別ラインで「マンスリーモンブラン(月替わり)」のモンブランを販売していますね。8月は「ココナッツミルク」、9月は「スイートポテト」、10月は「パンプキン」というように、毎月異なる味わいをミックスしたものを販売しています。
《アンジェリーナ》「スイートポテトモンブラン」
栗ペーストに、鹿児島県産の安納芋と、宮崎県産の焼いたさつまいもを加え、ねっとりとした甘さと香ばしさをプラスし、キャラメルパウダーで仕上げたもので、日本人の季節感や味覚に合わせたものとなっている。(現在販売中なのは、10月のパンプキンモンブラン)
編:はぁー。どこのモンブランも魅惑的ですねぇ。ところで、昨年のトレンドだった「和魂洋才モンブラン」は今年どうなっているんですか?
猫:ますます「進化」いや、「深化」して奥深いものになりつつあります。こちらは、実際にお店の取材に行ってみましょう!
編:わーい!
《和栗や》こんなモンブラン食べたことない!雑味ゼロの「プレミアムモンブラン『HITOMARU』-人丸-」
「和栗や」は、2011年にオープンした、東京・谷中銀座の商店街にある和栗専門店。
オーナーの竿代信也さんは、サラリーマンをされていましたが、38歳の時に訪れた茨城県の笠間で食べた栗の美味しさに衝撃を受け、その美味しさを広く知ってもらいたいと40歳の時にお店をオープンされました。以来、栗の鮮度や温度管理、品質に注力し、厳選された栗のみを使った和栗スイーツを提供されています。
こちらで供されるモンブランは絶品と評判ですが、特筆すべきは、秋限定の希少な「人丸」という栗のみで作られた「プレミアムモンブラン『HITOMARU』-人丸-」!
「人丸」は、小粒のため、あまり市場に出回らない栗ですが、甘みが強く雑味が少ないといわれている品種です。こちらのプレミアムモンブランのモンブランクリームは、人丸本来の味わいを感じられるよう、生クリームを合わせるだけ。バニラや洋酒などは一切加えません。構造も至ってシンプルで、ゆるくふんわりと立てた無糖の生クリームにモンブランクリームを絞り、飾りにスティック状のメレンゲを添え、粉糖を軽く振りかけるだけです。
さて、実際に食べてみると……。
丁寧に渋皮を取ってから裏ごししてあるので、鮮やかな黄色、芳醇でありながらも上品な香りがします。濃厚なのに、すっきりとした味わいが特徴で、今まで食べてきた栗の味と比べると、雲泥の差を感じるほど、雑味がなくピュアに栗本来のうまみを感じることが出来ます。
フレッシュな生クリームも人丸の味わいを引き立て、カリッとしたメレンゲも食感にアクセントを与え、最高のハーモニーを奏でる、まさに異次元のモンブランとなっています。
「栗は鮮度が命で、モンブランは分単位で劣化していくスイーツなので、提供されたら、すぐに食べて欲しい。また近時、代々木八幡駅近くに『モンブランスタイル』という新しいお店をオープンしたのでよろしくお願いします」との竿代さんのメッセージどおり、新たにオープンしすでに連日行列の人気店となっている『モンブランスタイル』も必見。
また、「プレミアムモンブラン『HITOMARU』-人丸-」は毎日数量限定で、お昼過ぎには売り切れとなることも多いとか。提供期間は9月下旬〜12月初旬頃となっているので、お早めに!
編:パティスリーで注文を受けてからモンブランを組み立てるというお店はたくさんありましたが、出来立てモンブラン専門店というのはすごいですね! モンブランも“生”で楽しめる時代が来るなんて!
猫:それだけモンブランは、日本人に愛されているスイーツということなのでしょうね。昨年も言いましたが、ここまでくると、もはやモンブランは日本人の感性と技術の粋を結集した完全な「和菓子」になりつつありますね。
取材・文:猫井登