〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉
四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。
あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。
其の九 人と人を結ぶ和菓子「老松」
京都最古の花街を巡る、北野さんぽ。
学問の神様として、受験生をはじめとする多くの参拝者で賑わう北野天満宮。
ご祭神は言わずと知れた菅原道真公です。
道真公がこよなく愛したと言われる梅の花。
梅の花
境内には多くの梅が植えられており、「北野の梅」として見頃になる2月には梅の花を目当てに多くの方が訪れます。
その北野天満宮の東側には、京都で最も古い花街である上七軒(かみしちけん)が広がります。
上七軒
毎年、花街では春の訪れと共に「春のをどり」が開催されます。
他の花街に先駆けて上七軒歌舞練場では3月末より「北野をどり」が開催されます。
そこから「京都の春は北野から」と表現されるようになりました。
今回、ご紹介させていただく和菓子店は、その上七軒で店を営む創業100余年の「老松」です。
甘いもので、ひとやすみ。
「老松」外観
格子戸にかかる真っ白な暖簾が映える外観。
初めて訪れる方は、中の様子が見えないことに不安を覚えるかもしれません。
これが本来の京都の姿。勇気を出して暖簾をくぐってみてください。
その瞬間に感じる身の引き締まるような、不思議な感覚。
きっと、快感に変わることでしょう。
手入れの行き届いた店内には、花街らしく、干菓子の木型と共に芸舞妓さんの団扇が飾られています。
芸舞妓さんの団扇
そして、ショーケースに並ぶ数々のお菓子たち。
ショーケース
厳選された素材をふんだんに使用したお菓子を買い求めるお客さんが後を絶ちません。
こちらのお店のお菓子を知人に贈答した際にこぼれる「老松さんのんやぁ」という言葉と満面の笑み。
お店の知名度と信頼度をうかがい知ることができます。
店内には様々なお菓子が並ぶ中、季節の移ろいを表現した上生菓子はいかがでしょうか。
梅一枝
「梅一枝(うめいっし)」
薯蕷(じょうよ)饅頭に入れられた、梅の枝に見立てた焼き印。
寒さに耐えながら凛と咲く梅の花。
これから訪れようとする春の気配が感じられるお菓子です。
北野の梅
「北野の梅」
梅の名所である北野天満宮。
菅原道真公の命日にあたる2月25日には、道真公を偲んで「梅花祭」が北野天満宮で行われます。
こなしで梅を模った意匠のお菓子です。
神々しい雰囲気のお菓子に思わず手をあわせてしまいます。
葵祭
「葵祭」
新緑の5月。
京都では、京都三大祭の一つ「葵祭」が行われる月です。
葵祭に欠かすことができない「ふたば葵」。
葵祭の象徴である藤色で染め分けした道明寺製のお菓子です。
何とも言えない食感が癖になります。
こちらのお店のご主人のお嬢様が立派に斎王代を務められたのは、記憶に新しいところです。
織部薯蕷
「織部薯蕷」
茶の湯の世界では、5月に収穫したお茶を茶壷に入れて熟成させて、11月にその茶壷の口を切る「口切」の茶事に、織部を使うのが慣わしとなっております。
その際にお菓子として用いられるのがこの織部薯蕷です。
美濃の戦国武将でありながら、千利休の一番弟子であったとされる古田織部。
その名前は茶人として名声を極めました。
当時では、ありえなかった左右非対称や焼損ないの美濃茶碗を茶席で使用した事からもわかるように大胆で自由な気風を好みました。
また緑色の釉薬(ゆうやく)を使い、「織部好み」と呼ばれ、爆発的な大流行を生み出しました。
その陶器の雰囲気を上生菓子に写したのが織部薯蕷です。
緑色と井桁を配したのが特徴です。
このような季節に合わせたお菓子が年中販売されています。
また、オーダーでお菓子をお願いすることも可能ですので、特別な日にサプライズプレゼントはいかがでしょうか。
「お菓子は人と人を結ぶコミュニケーションツール」であると語る4代目のご主人。
今まで形式的なお茶会のみならず、コスプレ茶会をはじめとした様々な変わったお茶会を開催してこられました。
楽しいことを追求するその発想力と行動力にはいつも驚かされます。
また、江戸中期の京都を代表する儒者・皆川淇園(みながわきえん)が創立した学問所がマンションに建て替えられるという危機を守り、現在は「有斐斎弘道館」として国内外を問わず多くの方が訪れて日本の伝統文化に触れています。
弘道館
私が和菓子の世界に魅力を感じたきっかけとなったのも、有斐斎弘道館でご主人が講師を務める「京菓子専門講座」を受講したことからでした。
有斐斎弘道館では、ご主人ならではの様々な講座が行われていますので、機会があれば受講されてみてはいかがでしょうか。
伝統文化に触れるとお菓子に込められた物語を感じられるようになり、人生そのものが豊かになったように感じます。
お菓子に込められた物語を感じに出かけてみませんか。
取材・写真・文:小倉 夢桜-Yume-