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本田直之グルメ密談―トップシェフが内緒で通う店
11回目を迎える本連載。今回は京都のスペイン料理「aca1°(アカ)」のシェフ、東 鉄雄さんが登場。独自のスタイルでモダンスパニッシュを築き上げ、オープンから瞬く間に予約困難な店となった「aca1°」。多忙を極める東さんが、足を運びたくなる店とは?
進化する京都の焼き鳥
本田:京都はやっぱりいいよね。結構食べ歩いてるでしょ? B級もよく行くの? シェフの行く店、すごく興味がある。
東:僕がB級グルメ選ぶ時って「あ、やっぱりいいよな~」と再確認しに行く感じで。A級はテンション上げに行ってるようなところがありますが、結局その空気感というか、ワイワイできるとか、癒やされるとか、昔からある味で自分を落ち着かせに行くとか。これや!これ!みたいな、味のあるところが好きですね。例えば「くちばしモダン」。
本田:なんか全然予約取れないみたいだね。
東:でも結構遅くまでやってるんですよ。22時半頃なら多分入れると思います。比較的早くに終わる和食の料理人の方々が22時すぎにいたりとか。元々大将の藤田麦さんも「草喰 なかひがし」中東さんの下で修業されていた方なんですよ。
本田:そういう出自で焼き鳥やってるって面白いね。
東:自分でお店始めてからも、東京に勉強しに行って食べ歩いてますね。うちも以前、よう来てくださりました。研究熱心ですし。珍しい料理も食べに行かれますし、勉強家やなと。店もできて5年くらいじゃないですか?
本田:メニューも面白いね。鶏の種類がいっぱいあるし。“ひね”(採卵期間が終わり、通常だと廃棄処分になる鶏のこと)とかね。
東:ちゃんと自分で鶏さばきに行ったりされてるみたいで。大原では朝市が日曜日に開かれるんですが、そこへ必ず野菜買いに来られてて。で、大原の養鶏場で朝しめて。その養鶏場のご主人がやってらっしゃる宇治の養鶏場の方にも行っているようです。
本田:大原まで1時間弱かかるけど行く料理人って多いの?
東:朝市は多いですね。毎週行ってると農家さんが顔を覚えてくださるんですよ。ナスタチュウムのお花とか育てている方がいらっしゃるので、その畑に勝手に入って取りに行ったり。「自由にやってください」って言われたり。そういう関係作りとかも楽しくて。
本田:朝は早いの?
東:そうですね。朝6時くらいから。6時くらいに行くとフレンチ「MOTOI」のシェフの前田(元)さんとか中東さんとか。あと鰻屋さんもいらっしゃってますね。大原は、市場やスーパーに出てる野菜と全然ちゃうんですよ。本来の旬がわかります。
本田:「くちばしモダン」ではなにがおすすめ?
東:つくねですね。うまいんですよ。骨とかも一緒に砕いていて、コリコリっていう食感も楽しくて。卵と一緒に混ぜて、白飯と一緒に。結構な種類があるんで、お任せすることが多いですね。
本田:まあ、その方がいいよね。よく知ってないと選べないでしょ。
東:そうですね。勉強っていうか、人に会いに行くっていう感じで行きますね。
本田:ひねってどんな感じなのかな? 力強い感じ? 硬そうなイメージだけど。
東:ちょっと硬いですけど、でも食感は弾力があって僕は美味しいなと。あんまりひねって使わないですかね、焼き鳥屋で。
本田:焼き鳥屋であんまり聞かないね。(生後)600日とかってね。ああいうメニュー表記も珍しいなと思うんだけど。他ではあんまり見たことない。これは元々何で知ったの?
東:元々藤田さんが働いていたところが「とりと」さんっていう、京都で有名な焼き鳥屋さんだったんですけど。「草喰 なかひがし」のあと多分そこで修行されて。
本田:京都の有名な焼き鳥屋って、あとどこ?
東:くちばしモダンのほかは、「トリコ」。よく聞くんですけど、まだ行けてないですね。焼き鳥屋は最近増えてるし、人気ですね。
本田:今や東京は焼き鳥屋も本当に予約が取れない。
東:やっぱりそうですか。でも京都は、焼き鳥ってまだまだ“チェーン店”っていうイメージが強くて。焼き鳥屋さん自身も言ってますね。「焼き鳥って値段取れないですよね」って。コースで一万円超えるとかってなかなかできないですよね。手間とか、焼きの技術でいうと、すごい技術職やと思うんですけどね。東京では「鳥しき」に行ってみたいけど、全然予約がとれない。
本田:ぜひ、行ってみて。あの直火使いはすごい。火にものすごく近くて、かつ焼き鳥がデカい。店主の池川ヨシ(義輝)は常にやけどしてるような状態で爪の一部がなくなってるからね、焼きすぎて。
東:マジっすか!
本田:すごいよ。鳥しきは、“違う”感が。あそこは焼き鳥の最高峰だと思う。「もういいです」っていうまで永遠に出てくる。食べたいだけ食べて欲しいんだって。だから時間制限も実質ないし。
東:京都でもそういう焼き鳥屋さんや特別な技術を持ってる職人が活躍するといいなあって。
本田:変わる感じがするよね。だんだんお客さんもその技術のすごさや料理人の信念に気づいて変わってくるっていうのはあるよね。
東:ただやっぱり京都は「食べたいもの食べさせろ」という文化が結構根強いんですよ。一応コースもありますけど、基本はアラカルト。僕も1年アラカルトやっていたときに、食べてもらいたいものを食べてもらえてないっていうジレンマに悩みました。雑誌に載った料理しか注文されないとか。
本田:なるほどねえ。作り手としては、「これを食べて欲しい」っていうのはあるよね。
東:そうなんです。まあ、それも京都なので。
本田:そうね。
京都は知る人ぞ知る、焼肉の名店ぞろい
東:京都は焼肉もいいですよ。僕がおすすめなのは「祇園食道園」。祇園界隈で知る人ぞ知る店です。路地の奥の奥にあるんです。
本田:(検索して)食べログにも営業時間もほとんど詳細情報が出てこないね。
東:看板にライトが当たってないので、あんまりわかんないんですよ。僕は深夜に誘われて行くことが多いですね。めちゃくちゃ追究してるかって言ったら、そんなでもないようにも見えるんですけれど、味付けも美味しいし、居心地がいい。
本田:ビビンバ700円とか、安いよね。上ミノ1,250円。ホルモンなんだね、基本。
東:基本ホルモンです。そこに祇園で働いてる先輩とかに連れてってもらったり。もう一軒、「大詔閣」という焼肉屋もよく行きます。行くのは木屋町が多い。2時位までやってるんです。味はかなり濃いめ。
本田:昔ながらの焼肉っていう感じだよね。ガスのグリルで。
東:焼肉屋だと「ニュー万長」とか他にもいろいろありますけどね。ここは紹介制のようになっていて、あんまり一見さん入れないで、営業日もようわからへん感じです。まあでも古い(笑)。今はお母さんと娘さんたちとやってはるんですけど、お母さんの気分で料理出してくるみたいな店で。最後粕汁とご飯で締める(笑)。なんでなんやろみたいな。
本田:なんか、おばちゃん怖いとかそういう感じの店?
東:まぁちょっとなんか、怖い、勢いある感じ(笑)。でも、雰囲気ありますよね。
本田:肉はどういう感じ?
東:いい肉多いですよ。やっぱり韓国人のおばあちゃんがやってるんで。
本田:なるほどね。良さそうだな。これは知り合いを見つけていかねばならない。よさげだな、これ。他にはどんな店に?
休日に家族と頬張る焼きそば
東:「ふくい」もいいですよ。昔からやってるお好み焼き屋なんですけど、たまに家族で行くんですよ。近くにスーパー銭湯があるのでそれとセットで。昭和の初期くらいからあるんですかね。ここもそんなにいっぱいメニューがあるわけじゃなくて、シンプル。普通のお好み焼きなんですけど、焼きそばが美味しくて。麺がサクサクなんですよ。めっちゃうまくて。お母さんがやってくれるんですけど、僕、料理人やからちょっと触りたくなるんですよね、ああいう鉄板とか。触ろうとしたら、「触らんといて」、みたいな(笑)。お好み焼きも美味しいけど、ここはお好み焼きより焼きそばですね。この昭和な建物ってめっちゃ貴重やなって思いながら。結構人気で外で人が並んでたりしますよ。
本田:これもたまたま見つけたの?
東:たまたまですね。昔、先輩から話だけ聞いてて、家族とスーパー銭湯行った時に、ちょっと行ってみよっかって感じで。
本田:で、それがコースになっちゃったんだ?(笑)
東:そう。「ええやん、このコース」ってなって、年に何回か行くんです。子供も喜ぶんですよ。このパリパリの麺がいいって言って、で、家で作ってって言われて、たまにホットプレートでやるんですけど。
本田:パリパリにするにはどうしたらいいのかな? 麺はもともと柔らかいんだよね?
東:麺は普通の麺なんですけど、それをじっくり鉄板の上で動かさないで。そのまま麺が本当にカリカリになるまでじっくり焼いて、でその上に肉とキャベツですかね、山盛りに。それを混ぜて火を通して……。
本田:粉の厚くないお好み焼きにちょっと近い感じ? それはちょっと良さそうだね。特別な焼きそばだね、やっぱり、これ。
青春時代の味をプレイバック
東:あとは、朝からガッツリと、「権八」。中央市場内にあるどんぶり屋です。そこはうどんとか蕎麦とか、メニューが豊富。そこの「天とじわかれ」みたいなメニューがあって。天とじが単品と、蕎麦かうどんか、温かいのか冷たいのか、とあと白ご飯が付いてくるんですよ。二十歳ぐらいのときに市場でバイトしてたことがあって、その時はお昼ご飯で食べてたんですけど、そこのは食事はなんか、当時を思い出すと言うか。
本田:その頃から、この辺の店って全部あったんだろうね。
東:そうですね。変わらず、ずっと、おっちゃんが一人で座ってるような感じなんですけど。作るのに時間めちゃくちゃかかるんです(笑)。
本田:親子丼も美味そうだね。卵絡みのものが美味そうに見えるんだけど。
東:何食べてもうまいですけど、卵のトロトロ感って言うんですかね、いいですね。ちょっと朝からすごいガッツリですけど、でも僕はここの料理好きですね。
本田:中央市場でバイトしてたのって、いつぐらいなんだっけ?
東:20歳ぐらいですかね。一、二年くらい働いてましたね。その時に(「富小路 やま岸」の)山岸隆博さんに知り合って。山岸さんも同じ時期に中央市場で正社員で働いてたんです。マグロ屋さんで。その時は二人とも全く料理はやってなかったんですけど、仲良く遊んでました。
本田:まさか二人とも料理人になるとは思わなかっただろうね。
東:そうですね。そういうのもあって、一昨年ですかね、お店オープンする時に、ちょっとコラボやろうや、って言っていただいて、去年実現したんですよね。
本田:すごいよね、たまたま市場で知り合って、両方とも料理人じゃなかったのに、今では人気店に。その頃は留学したりしてたよね?
東:そうです。留学して、どっちかって言うと海外に住みたいなって思ってて。料理人じゃなくて、向こうで会社に勤めて、みたいなイメージしてたんですけど。
本田:人生どうなるかわからないね。
東:ねぇ。でもやっぱり中央市場でバイトしてて、魚屋さんで働くと、美味しいお店とか連れていってもらえたりするんです。そういう経験をすごいさせてもらえたんで、料理人って面白いやろうなって。美味しいもん食べたいし、一つの経験としてやっておく仕事では面白いかもなと思って。それで、25歳まで車の営業マンやってたんですけど、そこ辞めて料理人を目指しました。
本田:料理はできたの?
東:いえ、全然。自分用には毎日作ってたんですけど。マイ包丁持ってたわけでもないですし。本当に家庭用の万能ナイフみたいなの持ってて。僕母親が早く亡くなったんで、一人暮らししてた時期が結構あったんで、自分でご飯作ったりとか。小さい頃から食べに行くのも好きで。これ職業にしてみたら結構面白いかもと思って。
本田:中央市場でアルバイトしてたっていうのが食に関わる運命にあったのかもしれないね。どこに留学してたの? カナダだっけ? 20年前くらいのカナダって言ったら、メシ結構厳しかったでしょ。和食とか食おうと思ったらさ。
東:そうですね、全然何もなかったですね。居酒屋さんがちょっとあったかな。
本田:俺もね、25年前くらいにアメリカの大学院行ってて、アリゾナだったんだけど、和食って言ったら「KANPAI」っていう名前の居酒屋とかさ。寿司もトンカツも照り焼きも天ぷらもラーメンも全部ありますみたいな(笑)。だから日本帰ってくると美味しいものが食べられて楽しくてしょうがなかった。今はだいぶ良くなったけどね。ハワイも、本当に和食のレベルがすごい上がったし。鮨屋は「すし匠」の中澤さんがハワイ来てくれて劇的にレベルがアップしたし。大将が自ら来てるからね。
東:すごいですよね。ハワイ行ってみたいですよね。
本田:うん。ハワイは是非遊びに。
若かりし時から通う、和みのビストロ
東:いや、もう是非行きたいですね。それから、「ブション」。僕が勤めてたお店のすぐの場所にあるお店なんですけど。料理人になりたての頃、休日によく行きましたね。フランスに行ったことないですけど、「フランスってこんな感じなんやろうな」と思うような。で、フランス人のお客さんが多いんですよ。京都って、フランス人が結構多いんですけど、そこはフランス語が飛び交ってたりとか。サービスの玉田さんって方がフランス語が堪能で、店内にはBGMなどが流れてなくて、作業されている音が聞こえてくる感じがすごい気持ちよくて。そこは決まったメニューしかなくて、年2回くらいしか変わらないんですよ。冬場はカスレを食べに必ずそこに行きます。子供も好きなんです。
本田:へぇ~。子供が好きってすごいね。ビストロだよね?
東:サービスがすごいなぁとずっと思っていて。かっちりしてなくて、ここ!って時に気づいてくれる、気持ちいい接客です。松井シェフがきちんと作られていて、美味しいです。
本田:店ができて20年ぐらいみたいだね。99年オープンだ。
東:本当にそのままのビストロっていう感じが。当時「俺こんなん作れるようになってん」とか話したり、思い出のお店ですね。
本田:そのサービスの人も昔からいるわけ?
東:昔からいはりますね。もうだから20年近くはいらっしゃるんじゃないですか? 京都ってあんまりないんですよね。東京だと「コートドール」とか、この間行った時すごいサービスいいなぁって。料理ももちろんいいんですけど。そういうお店って、よく考えるとあんまりないなぁって。
本田:ここで好きなメニューは何?
東:オニオングラタンと、カスレ、あとパイ包みみたいなのも美味しかったですね。年に何回かは「ここに食べに行きたいな」って思うところです。味が変わってないので、安心して食べられるんです。もちろん何万円もするコースを食べに行くこともありますけど、デイリーユースみたいな感じではないので、どっちかっていうと勉強させていただくような感じで。でも食事に行くって、ホッとしに行くことも多いんですよね。
本田:日々の仕事がコレなわけだから、プライベートまで気を張って食事してると疲れちゃうよね。
東:気軽に気楽にその場のノリで食べられる感じが好きですね。
京都ならではのA級グルメ
本田:そうだね。ちなみにA級系でよく行くところってどこ?
東:A級やったら三芳さん。「にくの匠 三芳」さんへ、白トリュフの時期、夜遅い時間に。ガッツリステーキと白トリュフと、お任せみたいな。前菜ちょこちょこ3品くらいと、あと、肉山盛り。で、白トリュフとか。
本田:それはお会計もドカンと……(笑)。
東:お会計もドカンですけど。でもやっぱりすごく良い食材を使われてるっていうのと、東京やったらもっと高なるんちゃうかなって思いますけどね。本当に食材に愛情を持って、いいもん仕入れてはるので、勉強になりますよね。なので年に数回。白トリュフの時期には必ず。
本田:ドカンとやりに行くの?(笑)
東:そうです(笑)。あと、あんまり知られてないですけど、「青柳」。
本田:へぇー、知らない。
東:魚だけでコース作る和食屋さんなんですけど。昔アラカルトでやってて、ミシュランも一つ星もらって。魚ばっかりでやらはるんですよ。で、市場でいつも一緒になるんですよ。お店も二階にあって、前まで看板とかつけてなかったんですよ。非常階段みたいな扉っていうんですかね、あれが一枚ポンってあるだけで。一階がカジュアルなバルみたいなお店をやってるんですけど、二階で自分が出したい魚料理みたいなのをやっていて。
本田:同じ経営なんだ。かっこいいね。この下の店もなんかいい感じだね。ちょっと握りも出す感じなんだ。
東:でも、基本は、つまみですね。日本酒とワインとお酒も色々と。
本田:日本酒がかなり幅広い。
東:結構色々。
本田:鮨屋ではないの?
東:鮨屋ではないですね。
本田:だけど握りもちょっとやる、みたいな。
東:よく東京に勉強しに行ったり、「鮨 なんば」さんにも何回か行ってはりましたね。
本田:予約取れるの?
東:いけるんじゃないですかね。シェフはもともといろんな料理やってはったんですよ。居酒屋でもやってはりましたし。僕も一年だけ、スペイン料理の店で一緒に働いてて。
本田:え、この人と?
東:そうなんです。いろんな経験されてて、で、自分のお店を出されたんです。最初はアラカルトもやってはったんですけど、やっぱりコース料理やりたい、ってなって。結構自分に厳しい、ストイックな感じの方ですね。食材もいいの使いはりますし。一つ上ですね。先輩って言っても、もう友達みたいな感じですけど。
本田:へえ。行ってみたいな。
東:「料理 川口」もいいですね、僕は川口さんの和食がダントツうまいなと。味の決め方がすごいですよね。テンション上がるというか。
本田:ここも全然予約取れないみたいだね。一日6席。多いよね、こういうパターン。あとどこだっけ、全然取れないところ。世界的にも類を見ないよね。京都はさ、そういう店がたくさんありすぎて回りきれないからさ。旅行でフラッと来ても無理だから、年に一回1カ月くらい京都住もうかなって(笑)。
東:ぜひ、実現してください! 機会があれば一緒にどこか行きましょう!
★「アカ」のシェフ、東 鉄雄さんが通う店はこちら。
撮影:久保田狐庵
文:小松宏子