【映画のあの味が食べたい!】
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
人生の旅立ちにふさわしいソウルフードはパキスタンの名物料理「マトン・ビリヤニ」
© 2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「郷に入れば、郷に従え」の格言通り、海外に行ったらその土地の食べものをありがたくいただくことにしています。それでも長期の出張のときは、インスタントのお味噌汁などを持っていくこともあり、ホテルで、夜食にいただくとほっとします。やっぱり慣れ親しんだ味は落ち着く! おそらく異国で生活している人は、もっと母国の味に関して意識的なのではないでしょうか。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』の主人公クメイルも、生まれ故郷のパキスタンを離れ、家族とともに米国で暮らす移民の青年です。弁護士になって欲しいという両親の願いをよそに、タクシーの運転手をしながらコメディアンとしての成功を夢見る彼は、ある日、大学院生のエミリーと出会い、付き合い始めます。
けれど、彼には困った事情がありました。厳格なイスラム教徒の両親は、パキスタン人とのお見合い結婚しか認めません。実家に帰る度に、母親からお見合い写真を渡されるクメイルですが、エミリーのことはどうしても言い出せません。
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そんなある日、エミリーがふとしたことからお見合い写真を発見! それが元でふたりは口論になって別れてしまいます。アメリカで自由に育ったエミリーには、親が決めたお見合い結婚なんて理解不能。
が、それから間もなくして、クメイルはエミリーの友人から電話をもらいます。なんとエミリーが倒れ緊急入院したので付き添って欲しいとのこと。翌日、エミリーの両親もやってきて昏睡状態の彼女をずっと見守ります……。
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こう書くとなんだか深刻な物語に思えるかもしれませんが、実は、この作品は、3分に一度はくすっと笑ってしまうコメディ。昏睡状態の元恋人を前に、青年クメイルが、自分を見つめ直し、自分の人生を切り開く勇気を見いだす……という青春ドラマでもあります。
ドラマの背景となっているのが、移民としてのアイデンティティ問題。祖国の慣習を守り続けようとする両親と、アメリカ育ちで自分の人生は自由に決めたい息子。同じ移民でも、そのアイデンティティは、ジェネレーションによっても違い、そのギャップは、親子関係をギクシャクさせてしまいます。
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この物語は、実は、コメディアンで俳優でもあるクメイル・ナンジアニとその妻エミリーとの間に起こった実話。有名プロデューサー、ジャド・アパトーの勧めでふたりはこの脚本を書き、映画化が実現したのです。もともとわずか5館という小規模の公開の予定だったのが、口コミで評判が広がり大ヒット。ふたりは第90回アカデミー賞脚本賞にもノミネートされました。
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さて、両親が思い描く理想的な人生を歩めないことに心を痛めるクメイルですが、そんな彼を勘当した母親が、父親に託すのが手作りの「マトン・ビリヤニ」です。
ビリヤニとは、肉やスパイスを米(バスマティライス)と一緒に炊き上げるピラフのようなパキスタンの名物料理。ジューシーな羊肉がたっぷり入ったボリューム満点のマトン・ビリヤニは、クメイルの大好物なんですね。いわば、彼にとっておふくろの味。イタリア人にとってのスパゲティのようなものでしょうか。
マルハバ/出典:*あんこ*さん
意見が合わなくても、喧嘩をしても親子は親子。子供の頃から慣れ親しんだ母親の作った料理は、やはり心に染みるものです。
母親にしてみれば、自分の道を歩み始める息子へのせめてもの心遣いなのでしょう。さりげないながら、胸を打たれるシーンでした。
そんなクメイルの“おふくろの味”が味わえるのが、池袋にあるパキスタン料理店マルハバ(MARHABA)。パキスタンから輸入した調度品が置かれた店内は、異国情緒たっぷり。こんもりと盛りつけられたマトン・ビリヤニは、パキスタン人でなくてもクセになりそうな親しみのある味です。クメイルのギャグと同じで、一度、ハマったらリピート間違いなし!
マルハバ/出典:tatsu0225さん
作品紹介
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『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
TOHOシネマズ 日本橋ほか全国順次ロードショー
パキスタン生まれシカゴ育ちのコメディアンのクメイルは、アメリカ人大学院生のエミリーと付き合っている。ある日、同郷の花嫁しか認めない厳格な母親に言われるまま、見合いをしていたことがエミリーにバレて、2人は破局を迎える。ところが数日後、エミリーは原因不明の病で昏睡状態に。駆けつけた病院でクメイルが出会ったのは娘を傷つけたことに腹を立てている両親テリーとベスだった。はじめは敵意をあらわにしていた彼らだったが意外な出来事をきっかけに3人は心を通わせ始める。果たしてエミリーは目覚めるのか? その時、2人の未来の行方は?