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だしの違いを味わいたいのなら、銀座「ふる里料理 山猿」へ行くべし

という話を、シウマイ弁当愛をしたためた記事の執筆者であり某料理雑誌編集者の鳥越達也氏に聞き、気になって仕方がなくなってしまった食べログマガジン編集者がここにひとり。

 

だし。

 

声に出したい日本語のひとつであり、和食の基本であり、日本料理店となればその店の味を左右するともいわれる偉大な存在である、だし。

 

しかし、ふと立ち止まって考えてみる。

 

だしが違うだけで、料理の味ってそんなに大きく変わるのだろうか? 市販のだしと、一から作られただしって、何が違うのだろうか?

 

それらの違いを感じ取れるのって、いわゆるグルメと呼ばれるような、美味しい物をたくさん食べている人たちだけなのではないであろうか? むしろ非グルメと呼ばれる人でもその違いを感じることができればこそ、その味は本物なのではないか? というか非グルメと呼ばれる人って本当に非グルメなのか? そもそも味覚音痴って何だ? そういえばアンジャッシュの児嶋一哉さんって味覚音痴っていわれているけど、本当にそうなのかなぁ!? ハァハァ……。

 

というわけで、それらの疑問を一挙に解決すべく、「ふる里料理 山猿」で児嶋さんにだしの違いを見極めていただくことに。

 

……と、その前にまずは児嶋さんの味覚について検証するため、一行はある場所へと向かった。

「味香り戦略研究所」にて

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都内某所にある「味香り戦略研究所」。こちらの機関では日夜、数々のテストで味覚を数値化したり、美味しさを構成する要素に関する研究などが行われている。

 

そして、児嶋さん自身も味覚について言及されることが増えたことにより、最近は以前よりも味覚に対する感度が変化しているという自覚があるそうで、これは期待せずにはいられません。

ごあいさつ代わりに、事前テストを行いました

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編集部、以下・ 編 「よろしくお願いします」

 

児嶋、以下・ 児 「お願いします」

 

 「早速ですが、どちらがキャベツで、どちらがレタスか、当ててください」

 

児 「わかりました」

 

この異様にスムーズなやり取りからも、これまでに幾多の味覚検証企画を乗り越えてきた児嶋さんの貫禄のようなものを感じざるを得ない。

最初にレタスを食べてもらいました

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 (モグモグモグ)

 

児嶋さんは基本的に、食べる時は無言になることが多いようだ。

 

 「次、お願いします」

キャベツを食べた途端、悩んでしまう児嶋さん

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 「……あれ?」

 

 「どうしました?」

 

 「最初に食べた方がキャベツだと思っていたんだけど、次に食べた方がもっとキャベツだった」

 

 「どういうことですか?」

 

 「最初に食べた方はシャキシャキしていて、甘いんですよ。だからキャベツかなぁと思って次を食べたら、すっごい甘いんですよ」

 

そう言って児嶋さんは、レタスとキャベツの間を何度も行ったり来たり。

 

 「これって両方キャベツってことはないですよね?」

 

 「それはないですね」

では、解答をお願いします

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 「最初に食べた方がレタスで、次がキャベツ」

 

 「正解です!」

見事、レタスとキャベツを言い当てた児嶋さん

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 「正直もっと余裕でわかると思っていたんですけど、意外と難しかった。レタスって、意外とシャキシャキしているんですね。この違いって、皆さんすぐにわかるんですか?」

 

一同 「はい」

 次は、飲み物のテストです

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 「どちらが紅茶で、どちらがウーロン茶か、当ててください」

 

 「この組み合わせは初めてだ」

最初にウーロン茶、次に紅茶を飲んでもらいました

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 「はい、わかりました」

 

レタスとキャベツの食べ比べとは打って変わって即答モードの児嶋さん。これは、期待していいんですかね? どうなんですかね?

解答をお願いします

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 「最初がウーロン茶で、次が紅茶」

 

 「すごい! 正解です!」

 

 「これはね、すぐにわかりましたよ。やっぱり紅茶は香りが全然違いますね」

児嶋さんの味覚、確かに進化されているようですね

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事前テストの2連続正解に思わず表情を緩ませる児嶋さん。

 

 「以前は本当にレタスとキャベツの違いがわからなかったんですか?」

 

 「全然わからなかったです。見た目の違いも何がなんだかわからなかった」

 

 「わかるようになったきっかけは?」

 

 「結婚して奥さんに料理を作ってもらうようになって、大人なんだからちゃんとしてって言われて、それからですかね」

 

味覚とは、後天的に変化するものなのだろうか。そもそも、味覚とは何なのだろうか。味香り戦略研究所の方に聞いてみた。

味覚とは? 美味しいと感じる理由は?

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味香り戦略研究所、以下・味 「味覚は五感のひとつで、甘味・酸味・塩(えん)味・うま味・苦味の5つの『基本味』に分類されます。また、基本味以外にアルコールや炭酸などの刺激や、温度・舌触り、色、音なども味覚に影響を及ぼし、五感で感じることを『食味(しょくみ)』といいます。さらに心身の状態や食文化、環境、季節、地域差などさまざまな要因で美味しさは構成され、変化していきます。先ほど紅茶の味をにおいで判断されていたように、風味という上位概念も美味しさに関係しているんです」

 

なるほど。どうやら味覚というものは変化する可能性を秘めた感覚らしい。

 

そして、いよいよ本格的な検証が始まった。

味覚の感度を評価するテスト① 5味識別テスト

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 「8つのサンプルをご用意しました。この中に、甘味・酸味・塩味・うま味・苦味の味がする溶液がひとつずつあるので、どれがどの味か用紙に記入してください」

感覚を研ぎ澄まし、溶液を摂取する児嶋さん

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 (ひとつ目の溶液を飲み)「……」

 

 「何か味がしますか?」

 

 (2つ目の溶液を飲む)「えぇ〜。ひとつ目は水だと思ったんだけど、次も同じ味がする」

 

そこから児嶋さんの「えぇ~」というため息は、止まることがなかった。

悩むほど頭を垂れる児嶋かな

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 「どうですか?」

 

 「えぇ~。本当にわからない。このテスト、結構難しくないですか?」

 

味 「実は通常のテストよりも、わかりやすくしてあります」

 そしてついに、なんらかの味に遭遇した児嶋さん

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児 「きた。うわっ。苦いのか? これは明らかに違う」

 

 「苦味は人にとって毒と感じるので、強く感じる方が多い味です。ですが、全く苦味を感じない方もいらっしゃいます」

 

全8種類を飲み終えたところ、はっきりと味を感じることができたのは苦味だけだった。

 そんな児嶋さんに、魔法の粒が手渡された

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 「これは何ですか?」

 

 「舌を掃除する効果がある市販のプロテアーゼタブレットです」

 

 「これをなめてもう一回テストをするとわかりやすくなるんですか?」

 

 「こういった舌苔(ぜったい)を除去するタブレットや舌ブラシなどで口腔環境を整えることで味覚感度が上昇するといわれていて、実際に少しわかりやすくなるという方が多いです」

 

なめるだけで感度が上がるとは信じ難いが、一度容器をシャッフルして、2回目のテストを行うことに。

タブレットをなめた後に不思議な変化が現れた児嶋さん

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 「あ、これは……塩味だ。でも他の味が全然わからなくなっちゃった」

 

 「先ほどは塩味を感じていませんでしたよね?」

 

 (コクリ)「一番インパクトのあった苦味がわからなくなって、塩味が強烈にくるようになりました」

 

 「苦味がわからなくなり、塩味がわかるようになった要因はわかりませんが、食べ物とは異なり単一の物質であるため、感じやすいものとそうでないものが出てくるのかもしれません」

結果、ふたつの味を的中させた児嶋さん

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最終的に、塩味と苦味のふたつの味を当てることができた児嶋さんだったが、合格ラインは4つ正解なので、残念ながら晴れて合格とはならず。

 

 「これはもう、そういう(味覚を識別する)能力がないってことではないですよね?」

 

 「訓練することで、わかりやすくなるといわれています」

 

児 「味覚は成長しますか?」

 

 「味覚は慣れと意識で変わります。しかし、細胞が関係しているので遺伝的な部分もあります。なので頑張っても、それ以上味がわかるようにならない方もいらっしゃいます」

 

 (苦笑)

そして、謎の葉っぱが登場

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カサカサというビニール音と共に登場したのは、何の変哲もない葉っぱだった。

 

 「これは、何かの食材に似た風味のする葉っぱです。何の味に似ているか、当ててみてください」

謎の葉っぱを無言で食べ続ける児嶋さん

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苦悶の表情を浮かべながらも、無言で謎の葉っぱを食べ続ける児嶋さんのことが少し心配になり、現場スタッフも一緒に謎の葉っぱを食べてみた。

 

すると、早速その味の正体を突き止める者が続々と出現。

 

編A 「あ! 何の味かわかりました」

 

 「え」

 

編B 「あ、私この食べ物苦手かも」

 

 「えっ」

 

スタイリスト 「私もダメです」

 

 「えぇっ。全然わかんない」

 

と、現場は児嶋さんだけ置いてけぼり状態と化してしまった。

 

編A 「この味自体は苦手ではないですか?」

 

 「苦くてあまり好きな感じではないけれど、これが何の味に似ているのかといわれると全くわからないですね」

 

編A 「ヒントは海の中にいる生き物で、広島名物のひとつです」

 

 「え、牡蠣ってこと?」

 

 「正解です」

 

 「えー、全然ピンとこない。これが、牡蠣の味ってわかるんですか?」

 

一同 「わかります」

謎の葉っぱの正体は、オイスターリーフという牡蠣の味に似た植物だった

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味 「味覚は遺伝による細胞の違いのほかに、食生活や意識も影響します。オイスターリーフのように珍しい物を食べてみたり、食べた物を写真に撮って次の日にその写真を見て味を思い出せるか試してみたり、味やにおいを意識すると、味に対する感度のレベルが上ってくるといわれています」

 

 「その辺の意識が本当に低いんですよねぇ」

 

 「現代人は子どもの頃から味の濃い物などを食べる機会が多いので、昔の人よりも味の区別が付きにくいという人の割合が増えているようです」

 

自覚がないだけで、実は味覚をしっかりと感知できていないという人は意外と多いのかもしれない。と、己の舌への疑問を抱きつつ、次のテストです。

味覚の感度を評価するテスト② スーパーテイスター診断

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 「味がわからない方にもパターンがありまして、単純に味覚として感じられない方、その味に対する感度が強過ぎて味の正体がわからない方もいます。その味覚が強過ぎる方をスーパーテイスターというのですが、このテストでは児嶋さんがスーパーテイスターなのかどうかを判断させていただきます」

 

 「そういう場合もあるんですね」

 

 「これから苦味物質も含まれている4種類の紙をなめていただくのですが、苦味というのは先ほどもお伝えした通り舌が毒物と感じるものなので、なめる前に許可をいただきたいのですが……」

 

 「えっ、そんなにヤバイものなの?」

ちょっと怖いですが、早速なめていただきましょう

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 「うえっ。まずい! これはひどい!」

 

 「本当に味のわからない方は全く反応しないか、ちょっと苦いかなと感じる程度なんです。なので児嶋さんはしっかり味を感じている、ということになります」

 

 「じゃあ、味を感じられない人ではないってことですか?」

 

 「そうですね。なので、意識することで感度が改善していく見込みがあると思います。また、スーパーテイスターの場合、この苦味を強く感じ過ぎて耐えられないという方がそれに該当するといわれています」

 

児・編 「ということは、スーパーテイスター!?」

 

 「……かもしれませんが、もうひとつテストがあります」

スーパーテイスター診断その2 遺伝的な要素を検証

 

 「このテストでは、味蕾(みらい)という舌の上にある小さな突起の数を調べることで、スーパーテイスターかどうかを判断できます」

 

 「舌のブツブツの数でわかるんですね」

 

味蕾の数をぉ~ 数えましょう~

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テストの診断方法は簡単で、舌を食用色素で染色し、味蕾が密集しているといわれる舌の先に8mmパンチ穴をあて、味蕾(突起の数)をカウントするというもの。

 

 「味蕾の数が30個以上だとスーパーテイスター、15~30個未満だと一般的なノーマルテイスター、15個未満の場合は味をあまり感じないノンテイスターという判断になります」

児嶋さんは本当にスーパーテイスターなのか!?

 

 「いち、に、さん……16個ですね」

 

 「ノーマルテイスターですね」

 

児 「ということは?」

 

 「一般的な味覚の持ち主ということになります。つまり、味覚はきちんと備わっているということですね」

最後は、におい識別テストで〆ましょう

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 「ここににおいの付いた紙が1~6番まであるので、それぞれどういった香りがするかを当ててください」

 

早速、においを嗅ぎ始める児嶋さん。

 

 「1番はね、たぶん無臭。2番は爽やか。せっけんみたいなにおいがする」

 

嗅覚に関してはむしろさえている様子で、次から次へとにおいを嗅ぎ分けていくのであった。

 

においの特定も的確になっていく児嶋さん

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 「3番、くさっ。これは、長く履いてた靴下のニオイだ」

 

 「すごい的確ですね」

 

 「4番と5番は甘くてちょっと爽やか。ただ、2番の方がもっと爽やか。でも何のにおいかまではわからないなぁ」

 

そして、今日一番のうめき声を上げる児嶋さん。

 

 「うわっ。何これ」

児嶋さんのレーダーが異臭を緊急感知しました

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 「うわっ。6番くっせーなぁ」

 

 「どんなニオイですか?」

 

 「なんだこれ。加齢臭? 加齢臭なんていうニオイあるのかなぁ?」

では、答え合わせをお願いします

 

 「1番は仰るとおり無臭で、2番は花の香りがするフェネチルアルコールという成分です」

 

児 「だから爽やかな感じがしたんですね」

 

 「3番は、イソ吉草酸という、まさに足のニオイの原因といわれているものです」

 

 「すごい! 的中ですね」

 

 「4番はキャラメルのような香りがする化合物で、 5番はウンデカラクトンという熟した果実のような匂いのする有機化合物です。そして6番はスカトールという、カビ臭のようなツンとしたニオイのする成分です」

 

 「あ~、なるほど」

 

 「一般的にこれらの嗅ぎ分けができれば、香りの試験にも参加することができるといわれています。ですので、児嶋さんはにおいに関してもしっかり感じられ、嗅ぎ分けができる方という結果になります」

 

児・編 「おぉ~」

 

 「今回のテスト結果からも、児嶋さんはきちんと感じ取れる味覚も嗅覚もあり、遺伝的にも問題がないので、あとはご自身の意識で味覚を感じる能力が変わっていくと判断できると思います」

銀座・だしの名店で児嶋一哉の真価が問われる

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これまでにさまざまなメディアを通して味覚音痴疑惑を掛けられてきたにもかかわらず、今回の検証で一般的な味覚と、優れた嗅覚の持ち主であることが判明した児嶋さん。

 

後編では、銀座の名店「ふる里料理 山猿」で行われた実食テストの様子をレポートいたします。果たして本物の味を見極められるのか……ご期待ください。

 

写真/オカダ マコト