前編でお送りした「味香り戦略研究所」で行われた味覚感知テストにより、一般的な味覚と優れた嗅覚の持ち主であることが解明された児嶋さんが訪れたのは、だしの違いが味わえると評判の銀座「ふる里料理 山猿」。昭和48年の開業から44年間にわたり、変わりゆく街で変わらない味を守り続けている。

                                                出典:Fledermausさん

 

だしに使う鰹や昆布などの素材選びは当然のこと、一番だし、二番だしなど徹底した使い分けで作り上げられる繊細な日本料理に魅了され、お忍びで通う著名人やグルマンも多いという、知る人ぞ知る銀座の隠れ家的名店なのだ。

 

料理が出来上がるまで、児嶋さんの味覚遍歴についてお話を伺いました

牛、豚、鶏肉の違いがわからなかった?

 

編集部、以下・編 「味覚について意識するようになったのはいつ頃からですか?」

 

児嶋、以下・児 「10年前くらいかなぁ。食レポの仕事とかをいただけるようになってから、トンチンカンなコメントばかり言うから、周りから『おかしいんじゃねぇ?』って言われるようになって、だんだんと」

 

 「じゃあ、それまでは特に指摘されることもなく?」

 

 「全然指摘もされないし、意識もせず。なんでもうまいって食ってましたね」

 

 「味覚について意識する前後で、好きな食べ物に変化などありましたか?」

 

 「意識する前は米と肉ならなんでも好きで、まぁそれはいまも結局変わってないんですけど。意識するようになってからは、豚肉が好きなんだなぁということを知りました」

 

 「以前は肉の種類がわからなかったんですよね?」

 

 「そうですね。牛、豚、鶏肉の違いがわからなかった。肉はなんでもうまいと思って食ってました。意識するようになってから、自分は豚肉の油の甘味がすごい好きなんだなぁってことに気付きました」

 

 「ショウガとニンニクの違いがわからないというのは本当ですか?」

 

 「昔はそうでしたね。いまはさすがにわかるかなぁ。これも人に話すと『はぁ?』って言われるんですけど、(味の違いを)考えたことがなかったんですよね。肉の種類についても一緒なんですけど、意識したことがなくて」

 

 「興味がなかったということですかね?」

 

 「そうですね。全くなくて。刺し身とかもすごい好きで、うまいなぁって思うけど種類を全く覚えられないんですよ。ちょっとは覚えなきゃと思って、お店に食べに行った時とかになんの魚かを当てる問題を出してもらうんですけど、結局次の時には忘れている」

バナナマン・日村に、しめじがつかない?

 

 「キノコの種類もわからなかったんですよね?」

 

 「そうそう。でも、しめじは覚えたんですよ。形が(バナナマンの)日村に似ているから、こんなの知らないと、日村にしめじがつかないって」

 

 「それ、はやりそうですね!」

 

 「はやらないと思うけど(笑)。でも、そうでもしないと覚えられなくて。あとエノキは白くて長いから、アントニオエノキで」

 

 「児嶋さんの新たな芸風のひとつになりそうですね」

 

 「いや、芸にはならないと思いますけど(笑)」

 

 「以前おぎやはぎさんのラジオで聞いたのですが、野菜をゆでただけの汁をスープだと思って平らげてしまったという話は本当なんですか?」

 

 「本当です。嫁さんがビーフシチューかなにかを作ってて、まだ野菜をゆでている段階で、一回火を止めて嫁さんが出掛けたんですよ。そこに腹をすかせた俺が帰ってきて、『うまそうだなぁ』と思って食べたら止まらなくて、全部食べちゃった」

 

 「それは、うま味を感じたから?」

 

 「確かにいま考えると、ちょっとシンプルな味だったなぁって思うんですけど、腹減ってたのと、とにかくうまいと思っちゃったんで、止まんなかったんですよ」

 

野菜のゆで汁をスープだと思って完食するなんて……実は素材の味を敏感に感じ取ることができる神の舌の持ち主なのではないかと期待に胸を膨らませつつ、いよいよ実食テストが開始された。

だしの違いを見極めるための和食テストその① 「温泉卵」

 

このテストは、コンビニやスーパーで購入した市販品と、お店で作られた物を食べ比べ、どちらがお店の味かを当てていただくというもの。

 

見た目だけでは到底判断しづらいメニューを用意したのだが、果たして児嶋さんはその違いを見極めることができるのだろうか?

児嶋さん、温泉卵のトロみに恍惚の境地へ

 

 「めちゃくちゃうまいですよ。黄身がトロッとしてて。おだしもね、さっぱりしているけどなんか深い感じがする!」

 

 「だしの違いを感じますか?」

 

 「両方うまい(笑)。でも、こっち(写真右)の方がおだしにすっごく甘味を感じます。なんか、深い感じがするんですよね」

 

 「どちらがお店の味だと思いますか?」

 

 「深い感じがする方が、お店の味かなぁ……」

 

 「そのとおりです!」

と、ここで店主の名物お母さんが参戦

 

お母さん、以下・ 母 「あらぁ~、いい舌してらっしゃる」

 

 「そんないいもんじゃないですよ(笑)」

 

 「お母さんもね、コンビニの温泉卵買ったことあるけど、最近はいい味してるよ。だから、もしかしたらって思ったんだけど」

 

 「いや、やっぱり全然違います」

 

 「こちらの温泉卵のだしには、どういう特徴があるんですか?」

 

 「鰹で一番だしを取るの。それから、みりんを入れるの。その時にみりんは必ず鍋で火にかける。そのまま使っちゃいけないの。舌に残るから。一度みりんだけをパッと火にかける。すると、すぐに噴くから、噴いたらすぐに追い鰹っていってね、鰹をパッと入れてパッと火を切る。すると温泉卵と相性の良い、まろやか~なつゆになるの」

 

 「確かに煮切っていないみりんって舌に残りますよね」

 

 「天ぷらとかお吸い物とかには、絶対甘味を残しちゃ駄目」

 

お母さんのだしトークに聞き入りつつ、次のテストへ進もう。

だしの違いを見極めるための和食テストその② 「おから」

 

 「わー。また両方うまいから難しいなぁ」

 

 「見た目は結構違いますね」

 

 「ね、見た目違うよね。見た目だけだったら薄い方(写真左)がコンビニのっぽいのかなって。なんとなくね」

 

 「味的にはどうですか?」

 

 「味もね、多分薄い方がコンビニで、濃い方がお店の。なんかお店の方がシンプルなんですけど、色々細かく入っている感じがする」

 

 「大正解です!」

 

一同 「おおー!! 」

まさかの2問連続正解に、ニンマリの児嶋さん

 

 「ちょっとすごいですね(笑)。完全に違いを感じ取ってますね」

 

 「なんか気持ちいいなぁ(笑)」

 

 「あらぁ~、すごい。コンビニのは冷たくてもしっとりしてるけど、お店で作るのは冷めた後パサパサするの。だからパサパサしたおからを美味しいと言わせるのは難しいの。一番ごまかせないよ」

 

出だし好調で勢いのついた児嶋さんが次に挑戦するのは、こちら。

だしの違いを見極めるための和食テストその③ 「茶わん蒸し」

 

こちらのお店では普段、おめでたい席でしか出さないというこだわりの茶わん蒸しだそう。

 

 「うーん、両方美味しい。これは難しいなぁ」

 

 「見た目もそんなに変わらないですね」

 

 「そうなの」

敵か? 味方か? お母さんが粋なアドリブを告白

 

 「見た目でわからないようにね、両方ともかき混ぜてわざとグチャグチャにしたからね」

 

こちらから指示を出すまでもなく、ヤル気に満ち溢れたお母さんの行動が、児嶋さんを追い詰めていく。

児嶋さんの勢いもここまでか……

 

 「こっち(写真右)は、わかりやすい味がする。わかりやすいってことは、コンビニ? こっち(写真左)がお店か」

 

一同 「(拍手)おおー、すごい! 大正解です」

 

そして、ここまで3問連続正解という記録を叩き出した児嶋さんに、思わぬ刺客が現れる。

だしの違いを見極めるための和食テストその④ 鰈の煮付け

 

実はこの鰈の煮付けは、世界有数のデパートと比べても食品バイヤーの審査基準が圧倒的に厳しいといわれている某有名老舗デパートの地下で購入してきた、料亭の冠付きの高級品なのだ。

 

 「(写真下の煮付けを食べて)うん、美味しい。ふっくらしてますね」

 

 「厚みがありますね」

 

 「(写真上の煮付けを食べて)うまっ。こっちの方が見た目もそうですけど、シンプル。味があっさりしています。もうひとつの方がタレも濃ゆくて、色々な調味料が入ってる感じ」

この難問に対する児嶋さんの答えは?

 

 「僕はシンプルな方が好きなんで、シンプルな味のする方がお店」

 

 「大正解でーす!(一同、歓喜&大拍手)」

 

この結果には、お母さんも驚きを隠せず。

 

 「えー! あのデパートっていったら、一流よ。銀座の有名店の人とか、舌の肥えた一流の人が買っていくの。あそこのカレーだったら、それこそ私は負けるくらいよ」

 

 「でもこれ、全然難しくなかった。全然味違いますよ」

 

 「あなた通じゃない? ちゃんとわきまえてらっしゃる」

 

 「今日一日で成長してるんですよ(照)」

 

回を追うごとに研ぎ澄まされていく児嶋さんの舌とコメント力に、鳥肌さえ立ち始めていた。そして、テストは残すところあと2品。

だしの違いを見極めるための和食テストその⑤ 「鯖のみそ煮」

 

 「これもこっち(写真右)でしょ。お店の味」

 

と、口に含むや否や断言する児嶋さん。

 

その潔さには、男らしささえ感じてならない。カメラマンのシャッターを切る音も、止まらない。

もう、味覚スイッチの入った児嶋さんを止められる者はいない

 

 「すごーい! 大正解!!」

 

 「これは全然違いますよ」

 

 「全然違うと感じるのは、具体的に何が違うと思いますか?」

 

 「それなんですよね。何が違うのかが、わからない。お店の方はめちゃくちゃうまくて深い感じがするんですけど、あとこの上にのってる、なんだろこれ?」

 

 「ショウガではないですか?」

 

 「これがショウガなのか! これがね、うまいんですよ」

 

そうなんです。児嶋さん、ショウガって美味しいんです。

 

 「先ほどから美味しいと思う方を食べた時は、リアクションが全然違いますよね」

 

 「たれが全然違う」

 

いままで生きてきて、こんなにも誰かにショウガの味がわかるようになってほしいと願ったことなどなかった。

だしの違いを見極めるための和食テストその⑥ 「お吸い物」

 

 「お吸い物が美味しいお店は何を食べても美味しいの。冷めても美味しいの。よくお寿司屋さんの味は卵で判断するって言うでしょ? それと同じなの」

 

と、お母さんが言うだけあって見た目にもその美味しさが一目瞭然となってしまうため、最後のテストは目隠しをして行うことに。

アイマスクに始まり、アイマスクに終わる

 

 「はい、わかりました。こっち(写真左)がお店の味」

 

 「すごーい!正解!! 」

 

 「お店のは優しくて深い味で、市販の物はちょっと濃いんですよね」

 

 「パーフェクトですね。完全なる汚名返上ですよ」

 

 「ね。こんなの初めてですよ」

 

ここまでの快挙を、誰が予想できたであろうか。

見事全問正解をした児嶋一哉さん(44)

 

 「全問正解おめでとうございます! 本日の感想をお願いします」

 

 

 「一生懸命真剣に考えて当てにいったんですけど、でもこういう味覚音痴って企画で全部当てちゃっていいのかなって?」

 

 「パーフェクトっていう結果が気持ち良かったです」

 

 「ちょっと自信持っちゃったかなっていう感じがありますね。よく番組とかで『味覚音痴』とか『お前味わかってねえだろ』とかいじられた時に、『うまいまずいはわかるわ』っていう返しを自然にしてたの。だから今日、本当にわかってたのかなって思いました」

 

 「確実に市販品と料亭の味の違いはわかることが証明されましたね」

 

 「『何食ってるかわかんないだけだよ!』みたいに言ってたんですけど、そこなんですよね、問題は。ただうまいんですよね。だから僕は今日、味覚音痴じゃないってことを証明できたのはうれしいですね。自分の中で諦めていた部分があったんですけど、それは違うんだなっていうのがわかりました」

 

児嶋さんの味覚のますますの発展と向上をお祈りいたします。

 

 「本当に今日はありがとうございました」

 

 「ありがとうございました。楽しかったです」

お母さんとのアフタートークでお開きです

 

 「うれしいわぁ。料理人冥利に尽きますよ。あなたの座っているその席はね、出世する人が座る席っていわれてるの」

 

 「じゃあ、俺も出世するね(笑)」

 

 「落語やってる人?」

 

 「落語ではないですね。コントです」

 

 「落語家さんかと思ったわ。オチがなかなかいいから」

 

 「(照)」

結論:「ふる里料理 山猿」のだしは本物で、児嶋さんは本物の味がわかる男だった

 

児嶋さんも座った出世するとうわさのテーブル席に座るも良し。カウンターで名物お母さんとの会話を楽しみながら数々の料理に舌鼓を打つも良し。

 

とにかく、だしの違いを味わいたいのなら、知る人ぞ知る銀座の名店「ふる里料理 山猿」へ行くべし。

 

写真/オカダ マコト