食べログ独自の年間レストランアワード「The Tabelog Award」受賞店の魅力とともに、店主の行きつけの店をご紹介。四谷にある日本料理の名店「はらまさ」の店主お気に入りの店とは?
〈一流の行きつけ〉Vol.21
日本料理「はらまさ」東京
高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。
当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。
第21回は2018年を皮切りにSilverとBronzeを受賞、「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店」にも選出されている「はらまさ」。店主の原 正太郎氏に話を伺った。
曙橋から四谷へ、理想の空間で思う存分腕を振るう
四谷三丁目駅を出て新宿通りを新宿御苑方面に歩くこと6分、四谷四丁目バス停正面にそびえ立つタワーマンション店舗棟の地下1階にその店はある。初見では少々わかりにくいが、油そば屋の左脇奥にある白いドアを開け地下へ下りたそこが、数多の食通が通い詰める日本料理の名店「はらまさ」だ。店名は、店主の原 正太郎氏が自身の姓名から2文字をとって付けた。
原氏は鳥取県の出身で、学生時代に割烹料理店でアルバイトをしたことを機に料理の道へ。大阪・北新地の「日本料理 かが万」などで修業を重ね、32歳で「はらまさ」を開いた。
「僕は人に使われるのがどうも苦手で、そのストレスから体調を崩してしまい思い切って独立しました。今は預かっているスタッフの生活の責任がありますから、もっともっと頑張ろうという気持ちで日々仕事をしています」と、当時を振り返り話してくれた。
2013年、寿司店の居抜きでカウンター6席、個室1つの小さな店を構えたのは曙橋。出店から5年目の春、現在地に移転し、カウンターをメインに個室3室を備え、以前の倍にあたる席数を確保、自身が思い描く理想の空間をつくり上げた。2~6人に対応する使い勝手のよい個室は、会食や接待などに重宝されている。
余分な装飾をそぎ落としたシンプルかつ洗練された店内には、原氏の仕事が見える広々した厨房、その中央にはモノトーンでしつらえた焼き場、壁側にはよく手入れされた和包丁が整然と並び、日本料理店らしい凜とした空気を醸し出す。
心がけるのは印象に深く残る一皿
原氏が作り出す料理のキーワードは、“印象に深く残る料理”。白子やイクラ、トリュフ、フォアグラ、蟹、キャビア、カラスミなどの高級食材をふんだんに取り入れるのもしかり、食材や調味料の意外な組み合わせや食べ方を提案するのもしかり。それはもはや、日本料理を土台に据えたイノベーティブフュージョンの域と言ってよい。
「おいしいのは大前提で、お客様に喜んでいただける料理、感動していただける料理を常に心がけています。あの料理をまた食べに行きたいとリピートしてくださるような一皿を、これからも作り出していきたいですね」と話す原氏の料理は、一品一品が力強い印象を残し、多くの人々を虜にする。
「はらまさ」には、曙橋時代から長く愛され続ける料理が多い。その代表的な一皿がお造りである。刺身とともに出されるのはあん肝と醤油、薬味に海苔。脂ののったヒラメや鯛など季節で変わる刺身に、あん肝と醤油を付けて薬味とともに海苔にのせ、セルフで巻いて味わうのが“はらまさ流”。肝醤油は酒のアテになるので、最後までとっておくのも通の楽しみ方だ。
もう一品、強烈なインパクトを与えてくれるのが、客の間で“痛風そうめん”と呼ばれている、極めて贅沢なそうめんである。食材やベースとなるソースは季節で変わるが、定番となっているのは、裏ごししたクリーミーな白子で和えたそうめんに、カラスミ、イクラ、キャビアなどの高級食材をトッピングした一皿。
まったりした味わいの中に感じるイクラやキャビアのプチプチ食感と塩気がアクセントで「痛風を引き起こしそうなほどの一皿だが、おいしすぎてやめられない」という評判から、いつしか常連たちの間で“痛風そうめん”と呼ばれるようになった。
「“痛風”という言葉はお店から発信しているわけではないのですが、お客様に愛称を付けて楽しんでいただけるのはうれしいですね」
コースの〆に供される「トリュフご飯」も、誰もが賞賛する名物だ。土鍋で炊き上がった、トリュフの香りをまとったご飯に、目の前でこれでもかというほどトリュフを削りかけ、茶碗に盛って出してくれる。店内はトリュフの馥郁たる香りで包まれ、口に運ぶ前からノックアウトされてしまう。
「トリュフご飯自体はうちが始めたものではありませんが、少し手を加えることでお客様に喜んでいただけるよう工夫しています」と原氏が話すように、ひれかつ丼にする、地鶏の卵黄をかけてコクを出すなど、一ひねり加えた食べ方も。初めはそのままで、2杯目に卵かけご飯やかつ丼で堪能するのがおすすめだ。
料理人として長く現役でいるために
オープンから丸10年、来年には11年目を迎える「はらまさ」。「2番手が育ってきているので、自分がいなくてもお客様に愛される店にしたいですね」と原氏。「僕らが修業した時代は、やり方をただ教わるだけでした。どんな仕事もそうですが、“なぜそうするのか”をしっかり伝え理解させることを意識しています」と、人材育成について語ってくれた。
ちなみに原氏、ジムでのトレーニングにキックボクシングをプラスして以降、同じ人かと驚かれるほどスリムになったという。「立ち仕事で働く時間が長い僕たちの仕事は体が資本。体重が増えて足腰に負担をかけるより、痩せた軽い体でいる方が料理人としての寿命が長くなります。できるだけ現役でいたいですから」と今も毎朝、仕事に出る前にジムで体を動かしている。
原氏が心身ともに健康で意欲に満ちあふれているからこそ、「はらまさ」の料理を食べる人の心も満たされる。驚きと感動に包まれる美食を堪能しに、ぜひ出かけてみてほしい。